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【目的】
第51回理学療法全国学術大会にて超音波診断装置における臨床効果検証について報告し、筋膜リリース(Myofascial Release:以下 MFR)が筋線維の構造変化をきすことを確認した。しかし、臨床においてMFRは施行する力加減や筋の粘弾性評価が難しい。その点、同じ筋膜を扱うキネシオテープ(以下:KT)では、施行手順に従い貼付することで、多くの効果を認めている。方法も施行技術も違うアプローチであるため、作用機序が同様なものとは考えにくい。そこで、超音波診断装置を用い、MFRとKTの筋構造変化を羽状角、筋厚、筋線維長から検証する。
【方法】
対象は運動器疾患のない男性12名の右大腿12肢とした。平均年齢は31.7±9.4歳、身長・体重の平均値(標準偏差)は167.1±5.2cm、 69.0±17.1kg であった。計測肢位は安静背臥位。股関節伸展0°、下腿をベッドから下垂させた状態で地面に接地させず、膝の角度は下腿の自重のみで保持させた肢位。自重による筋ストレッチ効果と区別するため、外側広筋は施行せずコントロール群とし、内側広筋のみMFR・KTを実施。施行技術は、竹井らの先行文献を基に、MFRを実施。KTにおいては、吉田、磯谷らの先行文献を基に皮膚に弛みを与えず、筋線維が伸張する方向(起始→停止)に向かって貼付。伸張率はJavierらの先行研究から115%とした。双方180 秒施行し、MFR→KTの順で24時間以上の間隔を空け同部位に実施。計測場所は膝蓋骨近位端から10cm上部の水平ライン(触診で大腿直筋を外した内側広筋部と外側広筋部)にマーカーを貼付し計測点とした。(KTにおいては貼付部位の側近で計測)超音波画像診断装置(TOSHIBA社製Xario100)B モード法を用いて大腿四頭筋の羽状角と筋厚を計測。筋線維長は筋厚/sinθ(羽状角)の式を採用した。検者内信頼性を級内相関係数(以下ICC)、統計学的検討には、t 検定を用い、有意水準は危険率5% 未満とした。
【結果】
ICC は,羽状角・筋厚、筋線維長とも全ての条件で、0.95以上の値を示した。羽状角ではMFRの外側広筋値前後13.7±5.0°→13.2±4.3°(P=0.56)に対し、内側広筋値前後16.0±6.2°→14.9±5.9°(P=0.10)と低値を示す傾向を認めた。KTでは外側広筋値前後14.4±6.4°→14.6±4.3°(P=0.81)、内側広筋値前後14.0±5.7°→14.6±4.8°(P=0.47)であった。筋厚においてはKTが施行後低値(p<0.05)であった。MFRの外側広筋値前後19.5±7.2°→18.2±5.9°(P=0.41)に対し、内側広筋値前後31.6±7.7°→31.6±7.3°(P=0.96)であった。筋線維長はどちらも有意差を認められなかった。
【考察】
羽状角ではMFR群が低値を示す傾向にあり、筋線維の滑走が促されたと考える。KTの筋厚で有意差を認めた要因は、皮膚~筋膜の表層滑走が筋全体の厚を減少させたと推察する。第29回鹿児島県理学療法学会にて、自身でMFR実施後の筋厚についても検証したが、今回同様羽状角の低値に対し、筋厚の低下は示さなかった。Chrisらも、副交感神経・動脈の滑走にSelf-MFRは有効という報告もあり、MFRは筋線維内に入り込む神経・血管の滑走も高め、正常な筋緊張の回復から筋厚が増したと推察した。筋線維長において双方有意差は認められなかった。KTは筋厚で有意差を示すが、筋線維長で変化がないことを考慮すると、筋線維内の治療効果として反映されにくいと考える。
【まとめ】
MFR・KTの効果について超音波診断装置から評価を行なった。結果から双方の作用機序に違いが伺える結果となった。表面の筋膜を作用させる治療にはKTを、筋線維内の癒着の改善も考慮した治療をする際はMFRを実施すべきと考える。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき被験者へ研究趣旨の十分な説明を行い書面にて承諾を得た。