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【目的】
ヒトは立位で姿勢調整をするとき、股関節方略および足関節方略が用いられる。我々は先行研究において、角速度計を用いて股関節および足関節の関節角度変化量を計測することで、視覚条件と支持面条件を操作した際の立位姿勢調整方略の定量的評価を試みてきた。その結果、健常者における立位姿勢調整方略はフォームラバーによる支持面外乱を与えることで変化し、フォームラバー上では足関節方略が優位になることがわかった。しかし、この研究は右下肢のみの測定であり、利き足と非利き足の下肢関節角度変化量に違いがあるかは明らかでない。そこで本研究では角速度計を用いて、関節角度変化量が増加するフォームラバー上立位で左右の下肢関節角度変化量を同時に計測し、利き足と非利き足の関節角度変化量を比較することを目的とした。
【方法】
対象は健常若年者12名(男性10名、女性2名、平均年齢27±4歳)とした。被験者には事前に質問用紙にて利き足、既往歴等の情報を聞き取りし、本研究を実施した。被験者はフォームラバー上で両踵が接した足角30°の足位をとり2m前方の固定点を注視したまま、30秒間の静止立位をとった。関節角度変化量計測のためロジカルプロダクト社製の角速度計(計4個のセンサー)を用いた。2回の計測を実施し、1回目は左右の足関節角度変化量、2回目は左右の股関節角度変化量の計測を行った。そのため、1回目の計測ではセンサーを両側足部と両側下腿に、2回目の計測ではセンサーを両側大腿と仙骨部に取り付けた。隣接するセンサーの傾斜角度の差から、足関節と股関節の矢状面における関節角度を計算した。関節角度のドリフト補正を行った後に、計測時間30秒間の中間10秒を解析区間として、関節角度変化量を算出した。統計処理は、足関節および股関節の関節角度変化量を利き足と非利き足で比較するために、対応のないt検定を用いた。有意水準は5%とした。
【結果】
被験者12名のうち右利きが10名、左利きが2名であった。足関節の関節角度変化量は利き足で11.3±3.0°、非利き足で11.5±2.7°(p=0.90)、股関節の関節角度変化量は利き足で6.1±2.2°、非利き足で5.7±1.7°(p=0.66)であった。いずれもp>0.05となり、利き足と非利き足の関節角度変化量に有意差はなかった。
【考察】
足関節および股関節に関して、利き足と非利き足の関節角度変化量を比較した結果、有意差はなかった。長山は、重心動揺計により立位時の身体重心軌跡を計測し、左右方向については一定の偏位はなかったと報告しており、今回の結果は先行研究を裏付けるものとなった。そのため、健常若年者に対しての測定であれば、片側のみの足関節および股関節角度変化量を計測することで立位姿勢調整方略の客観的評価が可能であると考える。今後、高齢者や有病者の立位姿勢調整方略にも同様の傾向があるかを明らかにし、臨床応用の可能性を検討すべきと考える。
【まとめ】
健常若年者においては立位課題で足関節および股関節に関して利き足と非利き足の関節角度変化量に有意差がなかったことから、片側のみの足関節および股関節角度変化量を計測することで立位姿勢調整方略を評価できると考える。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には事前に研究内容について十分に説明を行い、同意を得た上で実施した。情報の閲覧は、本研究関係者のみとした。なお、所属施設の研究倫理審査委員会の承認を得た上で実施した。