九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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CI療法を通して麻痺側上肢の使用に対する意識が向上した一症例について
*榎本 拓也
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キーワード: CI療法, 自己訓練, 回復期
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p. 11

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抄録

【はじめに】

上肢機能障害に対するリハビリテーションについて脳卒中ガイドライン2015では「麻痺が軽度の患者に対しては、適応を選べば、非麻痺側上肢を抑制し、生活の中で麻痺側上肢を強制使用させる治療法が強く勧められる。」と言われている。麻痺側運動機能は比較的軽度にも関わらず、非麻痺側上肢優位にてADL・IADLを遂行している症例に対しCI療法を行い目標達成に至ったケースを報告する。

【対象】

右被殻出血を発症した60歳代女性。急性期病院にて27日間入院加療の後、当院回復期病棟へ転院となった。麻痺側運動機能は、Br.stage/grade上肢Ⅳ/8、手指Ⅴ/11、FMA40点、STEF66点、MAL使用頻度2.0点、動作の質1.4点、FIM117点と入浴を除く病棟セルフケアは自立していたが、ADL遂行上は非麻痺側上肢のみを使用する状態であった。本人からは「左手はまだ使えん」とのコメントが聞かれていた。

【方法】

通常のOT訓練80分間を14日間実施した場合と通常のOT訓練に加えCI療法を加えた14日間を実施した場合での上肢機能訓練結果を比較した。一般的なCI療法では、1日5時間×10日間の実施が推奨されているが、1日3時間のmodified constraint-induced movement therapy (mCI療法)においても上肢機能の改善が報告されており、今回は短時間バーションである1日3時間×14日間にて行った。CI療法の内容は、1日午前・午後各90分ずつ実施し、非麻痺側は固定し使用できない状態にて行った。具体的には、Shaping課題の中から、粗大動作(腰に手をまわす、麻痺側上肢に荷重をかける)、巧緻動作(リズミカルに電卓を打つ、紙を握る、クリップをつまむ)、両手動作(紐を結ぶ、紙で箱を包む、タオルを絞る)など各項目から12~13題を選択し行った。一方で、通常訓練では、40分×2回、調理訓練や掃除動作の確認などの動作訓練を実施した。動作訓練時には積極的に麻痺側上肢を使用する促しを行った。評価項目は、CI療法導入前後のFIM、Br.stage、grade、Fugl-meyer-assesment(FMA)、STEF、Motor-Activity-Log(MAL)を比較した。

【結果】

通常訓練時、FIM117点、Br.stage/grade上肢Ⅳ/8、手指Ⅴ/11、FMA43点(7.5%)、STEF68点(2.9%)、MAL使用頻度2.4点(20%)、動作の質1.7点(21.4%)であった。調理訓練では、非麻痺側上肢にて固定を行わずに切る、歯磨きでは歯ブラシを置いて歯磨き粉をつけるなど非麻痺側上肢での固定や把持など補助手としての使用は行えていなかった。CI療法実施後には、FIM117点、Br.stage/grade上肢Ⅴ/10、手指Ⅵ/11、FMA58点(37.5%)、STEF72点(6.1%)、MAL使用頻度3.7点(65%)、動作の質3.7点(142.6%)となった。調理訓練では、麻痺側上肢にて食材を把持し切る、皮を剥くなどの動作を行うなど、補助手として使用し、両手動作にてADL、IADLを行うことが可能となった。

【考察】

通常訓練と併せCI療法を実施した事により、通常の訓練場面においても麻痺側手を意識した行動を行うことができた。本事例は、回復期病棟入院中であるため、上肢機能の回復段階にあるケースとも考えられるが、限られた提供単位数の中で効果的な上肢機能の改善が図ることができたと考える。

【倫理的配慮,説明と同意】

対象者に症例報告について十分な説明を行い,同意を得た。 製薬企業や医療機器メーカーから研究者へ提供される謝金や研究費、株式、サービス等は一切受けておらず、利益相反に関する開示事項はない。

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© 2016 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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