九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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脳卒中片麻痺患者における麻痺側肩関節亜脱臼の程度の違いにおける肩装具の検討
*道下 裕之*遠藤 正英*猪野 嘉一
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キーワード: 脳卒中, 肩関節, 片麻痺
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p. 12

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抄録

【はじめに】

脳卒中片麻痺患者における麻痺側肩関節の亜脱臼は臨床上しばしば認められ,疼痛や拘縮が生じリハビリテーションを施行する上で阻害する要因となることが多い.これまで麻痺側肩関節の亜脱臼に対して様々な肩装具が報告されているが,亜脱臼の程度による肩装具の効果の違いを検討した報告は少ない.そこで同程度の体格で亜脱臼の程度が異なる2症例に対して,当院で亜脱臼を呈する脳卒中片麻痺患者に対して採用している肘関節屈曲型肩装具New Arm Suspender(以下NAS,アルケア株式会社製),肘関節伸展型肩装具Ring Shoulder Brace(以下RSB,有園義肢株式会社製),それぞれの装着時と非装着時の比較検討を行い一定の考察を得たので報告する.

【対象・方法】

対象は臨床上触診で1横指以上の麻痺側肩関節に亜脱臼が認められる回復期リハビリテーション病棟入院患者2名とした.症例1はBody Mass Index(以下BMI)25.1 kg/m?,Brunnstrom recovery stage(以下Brs)上肢Ⅲ,手指Ⅱ,症例2はBMI25.3 kg/m?,Brs上肢Ⅱ,手指Ⅱであった.対象において座位で非麻痺側肩関節,NAS装着時,RSB装着時,非装着時の各条件下での麻痺側肩関節のX線写真(AP方向)を上肢下垂位で撮影した.撮影方法はX線が肩甲上腕関節面にほぼ直角に入射するように,対象を約30°斜位にして15°~20°上方より斜入した.各X線写真において肩峰骨頭間距離(以下AHI)を3回測定し平均値を各AHIとして算出し,麻痺側AHIから非麻痺側AHIを引いた値を非麻痺側AHIで除した値をAHI比とした.また,非装着時のAHIから麻痺側のNAS装着時,RSB装着時のAHIそれぞれを引いた値を亜脱臼の整復量(以下整復量)として各条件下で比較した.

【結果】

症例1における非麻痺側AHIは16.0mm,麻痺側の非装着時AHIは24.4mm,AHI比は52.8%であり,NAS装着時のAHIは18.6mm,整復量5.8mm,RSB装着時のAHIは16.5mm,整復量7.9mmであった.症例2における非麻痺側AHIは10.6mm,麻痺側の非装着時AHIは27.6mm,AHI比は159.7%であり,NAS装着時のAHIは17.0mm,整復量10.7mm,RSB装着時のAHIは22.9mm,整復量4.7mmであった.

【考察】

遠藤らは亜脱臼を呈する脳卒中片麻痺患者における三角巾装着時,RSB装着時,非装着時の比較を行い,非装着時とRSB装着時には有意な差が認められ,三角巾装着時とRSB装着時には有意な差が認められなかったと報告している.症例1において三角巾と類似した整復を行うNASとRSBの装着時における整復量は大きな違いがなく,先行研究と同様の結果が得られRSBは肘関節屈曲型肩装具と同等程度の整復力を有していることが考えられた.また症例2は症例1と比較してAHI比が大きく,亜脱臼の程度が大きかった.そのため症例2は肩関節周囲筋の整復力低下を補完するため,症例1より大きな整復力が必要であると考える.古田らによると,肘関節屈曲型肩装具はある程度の強固な支持力が得られるとしており,より大きな整復力が必要な症例2において,RSB装着時と比較して前腕全体から支持して整復を行うNAS装着時の方がより整復量が大きかったと考えられる.つまり,麻痺側肩関節に軽度の亜脱臼を呈する脳卒中片麻痺患者において肘関節伸展型肩装具は肘関節屈曲型肩装具と同等程度の整復力を有しているが,亜脱臼の程度が大きい患者に対しては肘関節屈曲型肩装具が整復力を示す可能性が示唆された.今後は症例数を増やして検討を行っていく必要があると考える.

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究は当院倫理審査委員会による承諾を得て実施した(審査番号2015012701).また,対象者には十分な説明を行い,同意を得た.

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© 2016 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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