九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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当院における脊椎圧迫骨折患者の在院日数に影響を及ぼす因子の検討
*村中 将樹*福田 秀文*榎畑 純二*松田 友秋*新保 千尋
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p. 139

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抄録

【目的】

 脊椎圧迫骨折の理学療法の目標は,骨折前の歩行及び移動能力を獲得し,以前の生活に戻すこととされるが,本疾患は保存療法が基本であり受傷後安静期間を必要とする。そのため受傷を機に虚弱化し,在院日数が長期化する症例を少なからず経験する。

 脊椎圧迫骨折の機能予後を左右する因子として,多くの報告があり,我々の先行研究においても,臥床期間,入院早期のADL動作自立度が在院日数に影響を及ぼすことが明らかとなった。しかし,前述した先行研究は単変量解析での検討であり,多因子の影響を除外し独立した因子を抽出するために多変量解析を用いた検討が必要であると考えられる。

 本研究の目的は,入院後早期に入手可能な情報から脊椎圧迫骨折患者の在院日数に影響を及ぼす因子を多変量解析を用いて明らかにすることである。

【方法】

 対象は2014年6月~2015年6月までに当院急性期から回復期を経て自宅退院した66名とした。(男性10名,女性56名,平均年齢:80.0±9.3歳,平均在院日数:56±16.6日)であった。

 調査項目は,年齢,臥床期間,認知症の有無(HDS-R20点以上:認知症無群50名,20点以下:認知症有群16名),入院1週目のFIMを用いた移乗動作自立度・排泄動作自立度,受傷前の排泄動作自立度(自立群63名・非自立群3名),歩行自立度(杖なし歩行群37名・歩行補助具使用群31名),介護保険の有無(介護保険有群31名・無群35名),同居者の有無(有群42名・無群24名),骨折数(単椎群50名・複椎群16名),ギプス巻込みの有無(巻込み群39名・無群27名)とした。

 統計学処理は,前述した調査項目と在院日数に関する単変量解析でp<0.2となった項目を独立変数,在院日数を従属変数とした重回帰分析(Stepwise法)を実施した(統計ソフトはR2.8.1を使用)。

【結果】

 単変量解析によって抽出された変数は,入院1週目移乗・排泄動作自立度,受傷前トイレ動作自立度,認知症,同居者であった(いずれもP<0.2)。これらの因子を投入した重回帰分析の結果(P<0.001,R2=0.21),在院日数影響を及ぼす変数として,入院1週目排泄動作自立度(β=-0.408,P<0.001)と同居者の有無(β=0.254,P<0.023)が抽出された。

【考察】

 本研究の結果より在院日数を予測する因子として,入院1週目排泄動作自立度と同居者の有無が選択された。その要因として,排泄動作は,他の基本動作と比較し自宅復帰を阻害する因子として挙げられている(植松2006)ことや,排泄動作は立位バランス能力に加え,上肢・体幹の運動機能が必要になると報告されている(生田1993 松永 2002)ことより,排泄動作自立群においては比較的高い運動機能を有していると推測される。

 また,転帰先の決定には,家族背景を中心とした社会的因子の重要性が報告されており(小山 2008),本研究の対象者は自宅復帰した者を対象としているため,関連性を示したものと考える。

 しかし,重回帰式の精度の高さを示すR2は全て0. 5未満で,予後予測式としては不十分であった。このことは入院後早期の情報のみで在院日数を予測することは困難であることを反映した結果と考えられる。

 以上のことから,患者情報,入院早期のADL状況より,在院日数を予測することは困難であったが,入院後早期に入手可能な情報の中で,入院1週目の排泄動作自立度,同居者の有無が在院日数に影響を及ぼすことが示唆された。

【倫理的配慮,説明と同意】

入院時に説明を行い,同意を頂いた場合に限り情報を使用した。また,本研究は当院の倫理委員会にて倫理審査を受け承認を得ている(承認日:平成27年9月18日)。

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