九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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失語症を有する症例の行動障害に対する作業療法介入
―個人回想法導入の試み―
*縄手 雪恵
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p. 183

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抄録

回想法とは,高齢者の過去の回想に共感的・受容的態度で意図的に働きかけることによって,高齢者の人生の再評価やアイデンティティの強化を促し,心理的安定やQuality of Lifeの向上を図ろうとする方法である1)。回想法は,大きく分けてグループ回想法と個人回想法がある。今回,行動障害が出現した失語症を有する対象者に対し個人回想法を導入した結果,行動障害が改善されたので報告する。報告に際し,対象者,対象者家族により同意を得た。

【事例紹介】

50代後半,男性,脳出血,右片麻痺,失語症により救急搬送される。その後回復期リハビリテーション病院への転院を経て,在宅復帰に向けてリハビリテーション(以下、リハビリ)目的で介護老人保健施設入所となる。入所時のBr-stage:上肢Ⅱ,手指Ⅱ,下肢Ⅱ。感覚障害:表在・深部ともに重度鈍麻。高次脳機能障害:運動性失語,注意障害有り。

【経過と結果】

入所より3ヶ月月間の短期集中リハビリの期間終了後は,通常の週2回のリハビリ施行となるが,その頃より退行現象が出現する。次第にリハビリ拒否や抑制がきかず大声をあげる,易怒性,ごみ箱の中のものをあさる等の行動障害が出現し精神科受診を検討するほどであった。入所約9ヶ月月後,情動機能面の安定を目的に個人回想法を週1・2回20~30分程度計11回実施した。方法は,対象者家族の協力を得て,写真を提供していただき対象者とライフストーリーブックを作成する作業を1対1で行った。導入・実施場面において拒否はなくスムーズであった。失語症により質問式の評価は困難であった為,行動観察により評価可能なGBSスケールにおいて介入前後を比較した結果,すべての項目(運動機能,知的機能,感情機能,精神症状)で改善がみられた。また,上記に記した行動障害が改善し,1年半経過後まで変化なく過ごされた。

【考察】

回想法は抑うつや認知症,高齢者を対象に導入されているが,失語症を有する対象者への回想法導入の報告はほとんどみられない。失語症による理解力低下や表出困難は様々な場面で混乱や不安を生じる。今回,対象者自身の写真を用いることで理解しやすく,興味・関心が持続され,より回想を促すことができたと考える。また,1対1で介入した事が安心感を与え,スムーズに継続できたものと考える。さらに,情動機能面が安定したことが行動面の改善へ寄与したのではないかと考える。Coleman2)やAdams3)はすべての人にとって回想することが常によいとは限らないと繰り返し警告している。今後,適応対象や対象に応じた有効な介入方法についても検討していく必要があると考える。

【参考文献】

1) Butler R:The life review ; an interpretation of reminiscence in aged.Psychiatry,  26 : 65-76 (1963)

2) Coleman,P.G.:Aging and reminiscence processes. Social and clinical  implications. :Wiley (1986)

3) Adams,C.:Qualitative age differences in memory for text. A life-span developmental perspective.

Pychology and Aging, 3 : 323-336 (1991)

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究は,施設の倫理審査委員会で承認を受けた後,対象者に対して,本研究の目的,方法,内容,本研究をいつでも拒否できることや,プライバシーは厳重に保護されることを説明した。また,対象者は失語症を有していることから,対象者家族に対して,上記の説明を文書にて説明し,同意を得た。さらに,実施にあたっては対象者の精神・身体状況に留意しながら,十分な配慮のもとに実施した。

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