九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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作業の再構築を支援した作業療法の経験
~「楽しみをもって生活がしたい」と願うAさん~
*重留 好絵*花山 友隆
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p. 240

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抄録

【はじめに】

Aさんの退院後の生活を見据え、作業を通した介入をきっかけに、病前と生活環境が変化した現在も、主体的な生活が送れるようになった。Aさんと行った作業療法の経過を、考察を加え報告する。

【事例】

80歳代女性。夫と二人暮らし。農家の娘として育ち、美術展に行くことが好きだった。喫茶店や食堂での仕事経験がある。料理が好きで、主婦としての役割でもあった。昔は孫に振舞うなどして、食べてくれる人の存在があり、やりがいを感じていた。小脳梗塞を発症し、軽度の体幹失調と振戦を呈した。退院後は有料老人ホームへの入居が決まり、家族は「楽しみのある生活を送って欲しい」と希望した。

【評価・介入方針】

「足が動いて、しっかり歩ける」「ご飯作り」という希望が挙がった。料理や食器洗いでは、調味料の入れすぎや汚れの見落としがあった。また、段取りよく進めることが難しく、援助を要した。軽度のふらつきがあり、安定させるために、テーブルに手をつき移動した。FIMは92点。日中は、何をして過ごせばいいか分からず、病棟のスケジュールに沿って行動していた。   

評価を元にAさんと話し合い、「安全な移動が行え、家族と外出ができる」「主体的に好きな作業に参加できる」ことを目標に介入を行った。食材の買い物を通して、様々な環境を歩き、好きな料理を通して介入をした。自室でできる作業として色塗りを導入。完成した作品を、他者が鑑賞できる場所や自室で飾れるように設定した。その他、家族に作業療法や院内生活の様子、作業を継続する必要性を伝え、退院後に利用するデイケアスタッフに情報提供を行った。

【結果】

「足が動いて、しっかり歩ける(遂行度1→5、満足度1→7)」「ご飯作り(遂行度1→7、満足度1→8)」と向上。料理は、材料が増えると上手く遂行できないことや、余った食材の適切な保存が難しく援助が必要であった。以前は一人で行っていた作業であったが、「誰かがいると安心してできます」と、一人では難しいという自己認識へと変化した。Aさんの大きな役割を継続していくためのコミュニケーションツールとして、レシピ本を見たり、レシピ本の内容を書き写していたり、他者や家族に作り方を紹介し、今までのエピソードを語るなど、好きな料理と繋がりを維持することができた。

FIMは115点。余暇時間は、色塗りに没頭し、自律的な生活が構築され、有意義な時間を過ごすようになった。退院後の生活は、「色塗りをするのが楽しいです。料理はもうできないと思うけど楽しみをもって生活がしたいです」と語った。現在、フラワーアレンジメントなどのにも積極的に参加。色塗りは日課となった。また、定期的に散歩や買い物に出かけ、元気に生活されている。

【考察】

作業療法の専門性は、その人が大切にしている作業を分析し、その人に合った作業を選択し、提供することである。料理を作って振る舞っていた作業が、レシピ本を見て書き出す作業へと形態が変わった。また、色塗りという新たな作業との出会いが楽しみとなり、日課となった。このような事がきっかけで、他者との繋がりが持てた。このように、Aさんの作業の機能や意味を共有したことで、作業形態も調整されたと考える。作業科学では、「作業療法士は活動の利用を通して、患者の生活の中での作業の持続を引き出す要因を系統立てて理解し適用することが、長期間の影響を強める」とされている。今回、Aさんの作業の意味、価値観に沿って提供したことが、退院後も作業を継続し、主体的な生活を送るきっかけとなったのではないかと考える。

【倫理的配慮,説明と同意】

尚、今回の報告に関して対象者に十分な説明をし、同意を得ている。

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