九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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長母指屈筋腱皮下断裂例に対する早期自動屈曲運動法の経験
*油井 栄樹, *田崎 和幸, *野中 信宏, *山田 玄太, *坂本 竜弥, *林 寛敏, *貝田 英二, *宮﨑 洋一
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p. 244

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抄録

【はじめに】

今回比較的稀な疾患である長母指屈筋(以下FPL)腱皮下断裂例に対し,浅指屈筋(以下FDS)腱を用いた腱移行術後に早期自動屈曲運動法を行うセラピィを実施し,良好な治療成績を得たので報告する.

【症例紹介】

症例は60歳代の女性である.約1年前より左母指が自動屈曲不能となり,巧緻動作困難を主訴として当院を受診した.関節リウマチの診断は否定的であったが,単純X線撮影所見では両手関節に骨びらんを伴う変形性関節症を認め,舟状骨月状骨間が離開しており,月状骨背屈変形を呈していた.しかし著明な手関節可動域制限や痛みの訴えはなかった.左FPL腱皮下断裂の診断にて,環指FDS腱移行による母指屈曲再建術を行った.術中所見ではFPL腱は手関節部にて皮下断裂していた.そこで環指FDS腱を腱交叉近位で切離し,手関節近位へ引き出した.次にそのFDS腱を手根管に通して,断裂していたFPL腱遠位断端とZoneT3部位にて,手関節中間位で母指最大屈曲より若干弱い緊張下で編み込み縫合した.なお術中,母指の他動屈曲伸展運動により,腱縫合部が円滑に滑走することを確認した.

【術後セラピィ】

術後翌日よりセラピィ時以外は,移行腱が減張位となるsplintを装着させた.術後3週間を早期運動療法期間として,以下の運動をセラピスト管理下で開始した.まず症例に環指PIP関節の屈曲を意識すると母指が屈曲することを十分に説明し,holding ex.程度の移行腱の軽い自動運動を行った.また屈曲拘縮予防目的にて母指MP,IP単関節での他動伸展運動,移行腱の遠位滑走目的にてその他動伸展運動直後に母指自動伸展運動を伸展制限下にて行った.術後3週以降は積極的に母指自動屈曲運動を行い移行筋の再教育を継続するとともに,徐々に母指の伸展制限を緩め伸展方向の可動域を拡大した.術後5週時より巧緻動作訓練を行った.術後6週時にsplintを除去した.

【治療成績】

術後8週経過時のstrickland評価では100%,優の成績であった.移行筋の機能転換も良好であり,術前主訴であった巧緻動作は容易となった.

【考察】

FPL腱皮下断裂に対する報告は,その原因を報告した文献がほとんどであり,初期治療を含む治療法を詳細に報告した文献は少ない.伊東らは橈骨遠位端骨折後のFPL腱皮下断裂を生じた7例7手の内,5例に環指FDS腱を用いた腱移行術を行ったと報告した.1例は手根管を開放して編み込み縫合し,4例は母指末節骨に直接FDS腱をpull outした後,Kleinert法に準じて後療法を行い,%TAM評価での最終評価は45~86%の成績であったと報告している.本症例の腱縫合部はZoneT3であり,A1pulleyや手根管部における腱縫合部の通過障害には注意が必要だが,術中に円滑な滑走を確認しており,術後早期より良好な腱滑走状態であった.またKleinert法と比べると本症例では自動屈曲運動も行い,腱縫合部を遠位だけでなく近位にも滑走させており,癒着防止に効果的であったと考えている.さらに母指の自動屈曲運動に関しては,腱移行術後早期から筋再教育効果も担うという利点もあり,そのためかFPLと環指FDSに移行しやすい関連性があるのかは不明だが,本症例では筋再教育に対してほとんど難渋しなかった.近年橈骨遠位端骨折に掌側プレート固定術が用いられ,合併症としてFPL腱の皮下断裂例が報告されている.腱皮下断裂の予防が最重要課題であることは言うまでもないが,断裂し編み込み縫合法などの強固な腱縫合術を行えた場合では,自動屈曲運動を含めた早期運動療法により母指運動機能の良好な回復が期待できると考えた.

【倫理的配慮,説明と同意】

本発表に際し,対象者へ口頭にて説明し同意を得た.利益相反に関する開示事項はない.

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© 2016 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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