九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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大腿骨病的骨折をきたし大腿骨近位端置換術を施工した一例
*田代 昌也*岩永 勝*出永 文也*上野 真副*軍神 安孝*浦本 達也*政時 加奈恵
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キーワード: KLS, 歩行, 癌末期
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p. 31

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抄録

【はじめに】

今回、大腿骨病的骨折を受傷し左大腿骨近位端置換術Kyosera limb salvage system(以下:KLS)を施工した症例を担当した。転移性骨腫瘍に対してKLSを施行し歩行ADL経過を追った報告は少ない。そのため、病状に伴い短期間ではあったが歩行経過を追うことができたためここに報告する。なお今回の発表について本人の同意を得ている。

【症例紹介】

80歳代男性。肺癌末期(stageⅣ)。BMI:15.2とやせ型でありMini Nutritional Assessment(以下:MNA)は1/14と低栄養状態である。入院前生活は住宅型有料老人ホームにて歩行・身の周りのADL自立。転倒され左大腿骨転子下骨折受傷。CTにて肺癌、肝転移、多発性脊椎転移を認め、肺癌の骨転移部での骨折と判断される。6病日目、KLS施行。41病日目、リハビリテーション(以下:リハビリ)目的で当院転院。

【理学療法評価】

手術の侵襲により疼痛、筋切開による筋機能低下、可動域制限が誘因となり基本動作は、軽介助~近位監視レベル。歩行能力は、患側立脚期の短縮、患側下肢の過度な外旋位での振り出しがみられ、平行棒内にて近位監視レベルであった。治療目標として歩行能力向上、トイレまでの移動自立を掲げた。

【経過】

41病日目からリハビリ介入開始。平行棒内での荷重訓練、前方ランジを中心的に実施した。また、多発性脊柱転移も認めているため、起立動作は座高クッションを使用した。46病日目に歩行車歩行軽度介助レベルにて遂行可能となる。日により体調にムラがみられ、訓練量を調整する必要があった。また、疲労感・倦怠感の訴え、腫瘍熱の出現により介入できない日もあったが、61病日目に歩行車歩行60m近位監視レベルにて可能となった。

【考察】

今回、本症例に施工されたKLSは30cmと広範囲にわたる切開であった。そのため、股関節周囲の筋機能低下、可動域制限、荷重時痛が問題となり、歩行能力低下をきたした。腫瘍用人工関節では広範囲の侵襲に加え、筋をステムに逢着するため、積極的な筋機能向上は困難とされている。本症例では、これに加え肺癌末期、低栄養ということから、より筋機能向上が困難と考えられた。訓練は立脚期、遊脚期と各周期に分け反復的にアプローチを実施した。立脚期に関しては、平行棒内において荷重訓練を行い患側下肢立脚期の筋収縮を促すよう意識づけをした。遊脚期では、前方ランジで患側下肢を正中位で振り出すよう意識させ、振り出し動作を反復的に実施し筋収縮を促した。これにより、歩行能力は平行棒内歩行近位監視レベルから歩行車歩行近位監視レベルへと能力向上を図ることができ、移動範囲を拡大することが可能となった。しかし、トイレまでの移動能力を獲得することが出来ず、実用性のある歩行を獲得することが出来なかった。これには、①ステム逢着による筋機能向上困難②癌末期の進行③低栄養状態が能力向上を妨げる因子として考えられる。本症例のように病的骨折をきたしKLSを施行した患者は、切開範囲が広く筋機能向上を図ることが困難であり、入院前の歩行能力を獲得することが難しい。また、本症例の場合、癌末期や低栄養など能力向上に対しての阻害因子も併存している。そのため、本人の意志を尊重し主病のみならず多方面からのアプローチを実施していくことが、歩行能力向上に繋がっていくと考える。

【倫理的配慮,説明と同意】

ヘルシンキ宣言に基づき同意を得て実施した。

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