九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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脳卒中患者に対してロボットスーツHALを使用した歩行速度の変化率について
*溝添 夕美*脇本 竜次*砥板 泰久*小嶋 栄樹
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p. 42

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抄録

【目的】

HAL(Hybrid Assistive Limb 以下HAL)は、身体機能を改善・補助・拡張できる、世界初のサイボーグ型ロボットである。HAL装着下での訓練実施前後の痺側下肢への荷重量増加や歩行速度向上などの即時的な効果判定についての報告は多いが、歩行速度の変化率に関する報告は少ない。

当院では平成24年4月からHALを導入し、地域連携として福岡大学病院の患者紹介もあり、現在まで36症例の訓練を実施しその効果検証を行っている。今回脳卒中患者の歩行速度に着目して、HAL実施における、歩行速度の変化率について、得られた結果をもとに報告する。

【方法】

対象は当院の急性期、または回復期に入院中であるHAL装着下での歩行訓練を行った脳卒中患者36症例(年齢50~70歳代、脳梗塞18症例、脳出血18症例)。HAL両脚タイプ(CYBERDYNE社・福祉用)を用いた起立訓練および歩行訓練をHAL装着下で1回20~30分として、週に2~3回の頻度で実施。10mの歩行速度をHAL実施前後に測定し、歩行速度の変化率について検証した。検定方法としては、関連多重多群比較として、Tukey検定を用い、HAL実施1回目の実施前後の10M歩行速度からHAL実施9回目に至るまでの10M歩行速度を比較した。P値は0.05とした。

【結果】

今回、10M歩行速度のデータを以下のように分類し、結果を述べていく。

① HAL1回目実施前の10M歩行速度

② HAL1回目実施後~4回目実施前の10M歩行速度

③ HAL4回目実施後の10M歩行速度

④ HAL5回目実施前の10M歩行速度

⑤ HAL5回目実施後の10M歩行速度

⑥ HAL6回目実施前~9回目実施後の10M歩行速度

HAL実施前1回目の10M歩行速度は平均して29.47secであり、①HAL1回目実施前と②HAL1回目実施後~4回目実施前を比較すると、有意差のない結果となった。①HAL1回目実施前と③HAL4回目実施後では有意差が得られる結果となり、③4回目のHAL実施後には平均20.58secへと改善している。その後、①HAL1回目実施前と④HAL5回目実施前を比較すると、有意差は無くなり、④HAL5回目実施前の平均は23.01secであった。①HAL1回目実施前と⑤HAL5回目実施後で比較すると再度、有意差が得られる結果となり、⑤HAL5回目実施後の平均は21.71secとなっている。そして、①HAL1回目実施前と⑥HAL6回目実施前~9回目実施後の比較では有意差が得られる結果となっているが、②HAL1回目実施後~4回目実施前および、⑤HAL5回目実施後と⑥HAL6回目実施前~9回目実施後の比較では有意差が得られない結果となった。

【考察】

今回の結果から、HALによる歩行速度の改善に4回の実施を要する結果となり、5回目までのHAL実施では、歩行速度を指標としてHALの効果を検証できることが可能であると考える。しかし、5回目以降のHALでは、歩行速度の変化が得られにくく、歩行速度以外での効果を検証する指標が必要であると考える。そのため今後、5回目以降では歩行速度以外での検査測定項目の追加が必要であることが考えられる。

【まとめ】

今回の研究ではHALの歩行速度に限局した検証となったが、HALによる効果として、臨床で我々が目的としているものは、歩行速度のみでなく、歩容、FIM、QOL(quality of life)なども重要である。そのため、HALがもたらす効果をより多面的に、検証していく事が必要であり、セラピストが行う、HALの設定も、より良いHALの効果が得られる設定方法を選出できる技術が必要となる。

【倫理的配慮,説明と同意】

HALを使用するにあたって、本人とご家族にHALの概要、適応、禁忌を含む治療の説明と治療データの使用承諾書の説明を実施し、署名による同意を得た。

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© 2016 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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