九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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回復期脳卒中患者の中脳大脳脚の拡散異方性と運動機能との関係
~拡散テンソル画像を用いた一症例の経時的変化から~
*久保田 勝徳*遠藤 正英*脇坂 成重*川﨑 恭太郎*玉利 誠*猪野 嘉一
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p. 48

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抄録

【目的】

拡散テンソル画像(以下,DTI)を用いて,中脳大脳脚(以下,大脳脚)の拡散異方性の値(以下,FA値)や非病巣側に対する病巣側のFA値の比(以下,FA比)を算出することで,大脳脚のワーラー変性を検出することができる.また,錐体路のワーラー変性の程度から運動機能の予後を予測できる可能性も示唆されており,これまでにも亜急性期から慢性期まで1~3ヶ月毎に経時的に調査した報告が散見されるが,週間単位で調査した報告は見当たらない.脳卒中患者は回復期において運動機能が著しく回復する者も多いことから,大脳脚のFA比と運動機能との関連を週間単位で調査することにより,より詳細な予後予測や回復期リハビリテーションの効果検証に寄与する可能性があると考える.今回,視床出血患者1名を対象に,2週間毎に大脳脚のFA比を算出し,運動機能との関連を調査したため報告する.

【方法】

対象は70歳代の男性.左視床出血と診断され,保存的治療を行った.発症翌日より理学療法を開始し,入院時Brunnstrom recovery stage(以下,B.R.S)は上肢Ⅰ,手指Ⅰ,下肢Ⅰ,起居動作は軽介助,起立・歩行は全介助であった.47病日にリハビリテーション目的で当院へ転院となった.症例に対して,入院翌日,2週間後,4週間後にStroke Impairment Assessment Set(以下,SIAS),National Institutes of Health Stroke Scale(以下,NIHSS)(麻痺側運動機能のみ),B.R.Sを同一検査者が計測した.また,同日に1.5TeslaのMRI装置(GE社製)を使用し,撮像(Single shot EPI,スライス厚5mm,FOV240×240mm,画素128×128,b値=1000,MPG傾斜磁場15軸)を行った.その後,AZE社製のAZE VirtualPlaceを使用し,大脳脚を関心領域として,病巣側および非病巣側のFA値とFA比を算出した.FA値は,ワークステーションの操作に精通した検者1名がそれぞれ3回ずつ計測し,平均±標準偏差を算出した.

【結果】

入院翌日のSIASは45点,NIHSSは4点,B.R.Sは上肢Ⅱ,手指Ⅳ,下肢Ⅰ,FA値は病巣側0.42±0.01,非病巣側0.48±0.02,FA比は0.88であった.また,座位保持は軽介助,起立・歩行は長下肢装具を用いて全介助であった.2週間後のSIASは50点,NIHSSは2点,B.R.Sは上肢Ⅲ,手指Ⅳ,下肢Ⅲ,FA値は病巣側0.41±0.02,非病巣側0.48±0.02,FA比は0.84であった.また,座位保持が自立であった.4週間後のSIASは58点,NIHSSは1点,B.R.Sは上肢Ⅳ,手指Ⅴ,下肢Ⅳ,FA値は病巣側0.42±0.01,非病巣側0.47±0.01,FA比は0.87であった.また,歩行は長下肢装具を用いて軽介助であった.

【考察】

本症例では,運動機能の回復過程においてFA比の著明な低下を認めなかったため,リハビリテーションによって運動機能が回復したとともに,大脳脚のワーラー変性が予防された可能性が考えられる.一方で,脳卒中患者の運動機能の回復には多数の運動関連領野の機能的代償や再編が関与することも知られていることから,今後も週間単位での調査数を増やしつつ,機能回復過程における大脳脚のFA比の経時的変化と運動機能との関係についてより詳細に検討していく必要があると考える.

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究の計画立案に際し,事前に所属施設の倫理審査員会の承認を得た(承認番号:2015032304)。 また研究を実施に際し,対象者に研究について十分な説明を行い,同意を得た。 製薬企業や医療機器メーカーから研究者へ提供される謝金や研究費、株式、サービス等は一切受けておらず、利益相反に関する開示事項はない。

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© 2016 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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