九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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歩行時の膝制御の再学習を目的とした足関節背屈FESと課題指向型練習の併用治療の試み:症例報告
*竹内 亨*中原 寿志*田上 茂雄*柚木 直也
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p. 49

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抄録

【目的】

脳卒中片麻痺患者の歩行時の反張膝に対して、一般的に短下肢装具を使用することで足関節背屈を矯正し立脚期に下腿前傾を促すともに、アライメント改善を図るアプローチが行われる。しかし、短下肢装具を使用することは代償的手段に過ぎず、股関節伸展運動と随意的な足関節背屈の改善に繋がりにくい。また、山下らは、装具への不満について外観が悪いが最も多く、次いで痛い、重い、冷たいの順であったと報告しており、臨床的に装具の受け入れは、必ずしも良好とは言えない。そこで、Functional Electrical Stimulation(以下FES)を使用し、立脚期まで持続的に刺激を入力することで膝制御の再学習が図れるではないかと考えた。今回、麻痺側下肢立脚期での膝制御の再獲得を目的に、FESによる足関節背屈刺激と課題指向型練習を併用し、歩容改善が見られたので報告する。

【方法】

症例は、脳梗塞発症後2週間経過し、右片麻痺を呈する60歳代男性である。麻痺側下肢の立脚期に、体幹前傾・股関節屈曲位の後方重心姿勢をとり、立脚中期(Mid Stance:以下MSt)から立脚終期(Terminai Stance:以下TSt)にかけ、膝関節で過伸展傾向(最大6.5°)が見られた。麻痺側下肢機能はBrunstrom Recovery Stage(以下BRS)Ⅲで、Fugl-Meyer Assessment(以下FMA)下肢は22点であった。歩行評価は、10m歩行速度(歩数)、Timed up and Go Tset(以下TUG)の測定と矢状面で撮影した動画を各周期の静止画に分割し、ImageJを使用した2次元解析を用いた。課題指向型練習は、非麻痺側下肢のステッピング練習(麻痺側立脚期時)と2動作前型での平地歩行とし、FESを併用して反復練習を実施。電気刺激は、ESPURGE(伊藤超短波社製)を使用し、刺激パラメータは周波数10Hz、パルス持続時間500μs、持続的に総腓骨神経-前脛骨筋へ運動闘値で刺激した。3週間の介入前後で角度、歩行スピード、歩幅で比較した。

【結果】

介入前後(介入前→介入後)において、歩行中の膝関節屈曲角度(平均値)が麻痺側MStで10.08°→11.16°、TStで1.46°→10.76°と変化し、麻痺側股関節屈曲角度においても、MStで24.04°→14.36°、TStで18.28°→9.5°と改善が見られた。BRSでⅤ、FMA下肢は27点となり、10m歩行は、32.75秒(40歩)→12.45秒(18歩)、TUGは27.63秒→14.92秒と改善を認めた。

【考察】

今回の結果から、麻痺側足関節背屈の随意性向上、反張膝改善、歩行スピード向上、歩幅の拡大が認められた。久保田らは、FESと運動療法の併用介入によって、短期的に脳賦活パターンの変化が生じたことを報告している。本症例では、麻痺側MStからTStにかけて膝関節が過伸展傾向であった。そこで、FESと麻痺側立脚期のステッピング練習と2動作前型での平地歩行練習の課題指向型練習を併用した。その結果、麻痺側下肢の振り出しと股関節伸展時の足関節背屈運動が反復され、麻痺側足関節背屈の随意性の改善に繋がったと考える。また、麻痺側立脚期のMStからTStにかけての前方への重心移動が容易となり、反張膝の改善が図れ、歩行スピードの大幅な改善と歩幅の拡大につながったと示唆される。

【まとめ】

脳卒中片麻痺者に歩行中膝制御の再獲得を目的に、課題指向型練習とFESの併用介入を行った。麻痺側下肢の随意性向上、反張膝の改善が見られ、歩行速度、歩幅の顕著な改善が認められた。今回のFESは、麻痺側足関節背屈への持続的な刺激であり、Push offが困難であった。今後はPush offへ繋がる介入の検討も必要である。

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究を行うに当たり、ヘルシンキ宣言を遵守し、対象には本研究の目的、内容を十分に説明し同意を得て介入した。

開示すべき利益相反はなし。

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© 2016 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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