九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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粗大運動能力尺度とChailey姿勢評価を指標としたダウン症の児に対する理学療法
*菊次 幸平*山口 ひかり*髙嶋 美和
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p. 71

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抄録

【目的】

ダウン症は発生頻度が約1/800出生の,染色体異常の中で最も多い症候群である.ダウン症の運動発達はおおよそ一般健常児の2倍の時間を要し,独歩は92%が3歳までに達成できると報告されている.今回報告する症例は3歳2ヶ月であり,四つ這い位保持や歩行が未獲得である.運動発達の遅れが示唆される中,現在どの程度の粗大運動能力があるのか,ダウン症での妥当性の検証が済んでいる「粗大運動能力尺度(GMFM-88)」を使用し,目標設定を行った.目標に対する理学療法プログラムを「Chailey姿勢評価」を用いて立案し,理学療法を実施した.今回の目的は,3ヶ月の介入後,粗大運動に変化があり効果が得られた事について以下に報告することである.

【方法】

症例は,3歳2ヶ月の男児.診断名はダウン症(21トリソミー).粗大運動発達は,定頸7ヶ月,寝返り6ヶ月,独座2歳5ヶ月であり,身体的特徴は,床面に対して腹部・骨盤を持ち上げる事が難しく,全身の低緊張が著明であった.触圧覚では膝・足底への手接触を行うと下肢を引き,不快な表情がみられ,フェイススケールは6段階のうち4であった.自ら膝・足底を床に接地する際には表情を歪める事はなかった.GMFMの,各領域の総点に対するパーセンテージは,A.臥位と寝返りで98%,B.座位で75%,C.四つ這いと膝立ちで7%,D.立位,E.歩行・走行とジャンプはそれぞれ0%であった.全5領域のパーセンテージを平均した総合点は36であった.症例が困難であった,項目41の「四つ這い位になる,手と膝で体重を支える」と,項目52の「上肢の支えなしに3秒間立位を保持する」は,全身の低緊張による抗重力位保持不良と,膝・足底への手接触による触覚過敏に対してアプローチを行う事で獲得できると考え,これら2つの項目を,3ヶ月の短期目標として設定した.目標とする動作に対しChailey姿勢評価を使った理学療法プログラムを立案・実施した.プログラムの座位・立位練習では,靴・重錘を使い,自ら足底・膝を接地した環境にて行った.全身の低緊張に対しては,膝・足底で支持した状態から,中間動作を意識した抗重力位での活動を行った.

【結果】

3ヶ月後のGMFMの総合点は42と変化した.各領域のパーセンテージは,A.臥位と寝返りで100%,B.座位で81%,C.四つ這いと膝立ちで24%,D.立位で3%,E.歩行,走行とジャンプでは0%であった.目標としていた,手と膝で体重を支えた四つ這い位保持ができるようになり,立位は上肢の支えを使う事で3秒間保持が可能となった.その他に,膝・足底を他動的に触れられる事に対する不快な表情は減り,フェイススケールは6段階のうち2となり,下肢を引く動作はみられなくなった.

【考察】

GMFMの結果から,全身の低緊張が特徴であるダウン症の児に対して四つ這い位や,つかまり立ち位までの中間動作を抗重力活動の中で実施できた事が,GMFMの総合点の向上と目標とする動作の獲得に繋がったと考える.今回,客観的指標を用いた事で,具体的な身体機能面の評価を提示する事ができ,ご家族と同じ視点で理学療法を進める事ができた事も,目標を達成する上で重要であったと考える.

【理学療法学研究としての意義】

今回の症例においてGMFMとChailey姿勢評価を併用した事で,3ヶ月後の粗大運動の変化を客観的に把握する事ができた.今回の報告はダウン症の児に対する理学療法を,順序立てた目標設定および治療方針を決定する上での一助となりうると考える.

【倫理的配慮,説明と同意】

今回の発表についてはその旨をご家族に説明し,同意を得た.

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