九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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電動移動機器の開発と臨床使用の取り組み
~重症心身障害児の移動を支援する~
*武智 あかね*永末 和貴*萩尾 陽佑*山崎 夏美*小森 麻里*草苅 己香*武田 真樹*藤井 満由美
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p. 73

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抄録

【はじめに】

子どもの発達において、移動手段の獲得は認知・社会性の発達にも大きな影響を与える。また、運動障害をもつ子ども達は能動的な移動経験が乏しく、周囲環境への関わりが受動的になりやすい。よって、必然的に空間や人・物との相互作用を経験・学習することが阻害される。

近年、運動障害を持つ子ども達に対して、早期から能動的な移動を練習することは、発達促進に有効であると諸家より報告されている。今回、重症心身障害児を対象にした、電動移動機器開発プロジェクトに携わることができたため、その経過と臨床使用の取り組みについて知見を交えて報告する。

【経過】

2013年11月、東九州メディカルバレー構想の一環として医療機器・福祉機器アイデアの募集があり、重症心身障害児を対象にした電動移動機器を応募し採択される。その後、関連団体に対して応募の主旨や具体的な内容についてプレゼンテーションし、開発に協力可能な企業を探す。2015年4月、協力企業が決定し機器開発を開始する。同年8月、本プロジェクトに対し大分県から補助金を取得。それ以降、協力企業・関連団体との臨床見学や検討会議、先駆的な取り組みを行っている他施設(他県)への同行見学等も実施する。同年12月、試作0号機が完成し協力企業にて試運転。2016年3月、試作1号機が完成する。当センターにて動作試験を実施し、安全面や操作性などの確認を行い改良点を協議した。同年4月より改良した1号機を臨床使用している。

【機器の特徴と構造】

機器本体と操作部に分かれる。利便性を高めるため軽量化を図り(約9kg)、対象者が所有する補装具に取り付け、前方から牽引することで駆動する形態とした。機器本体は、金属板(32cm×40cm)に3輪(前方自在輪1つ、後方固定輪2つ)が付き、底面についているモーター(15W2つ)が固定輪を駆動させ前後左右へ推進する。金属板上にはバッテリーと制御装置を設置している。バッテリーは電動アシスト付き自転車に使われているニッケル水素電池を使用した。操作部はスティックレバー式で、I字かボール型の付属部品が選択できる。

【使用状況】

安全面を配慮し、理学療法士と使用した。機器を取り付ける補装具や操作部の設定、実施時間等は各々の状態像を考慮し、選択・工夫した。

(症例①)視覚障害を有する脳性麻痺の未就学女児(GMFCS level.Ⅴ)。姿勢保持能力が低く、バギー上座位が安定せず、不快反応を示しやすい。また、外界への注意が向きにくいため、上肢操作活動に結びつきにくい。手指でのレバー操作と移動に気づくと、姿勢は安定し不快反応が減った。更に、手元や周囲環境に注意を向ける様子が増加した。

(症例②)将来的に電動車いすを検討している脳性麻痺の未就学男児(GMFCS level.Ⅳ)。外界に対する興味が強い反面、姿勢保持・運動で過度な努力を要する。立位台での立位では、レバー操作を行いやすいように頭部・体幹の姿勢コントロールが向上した。その結果、移動するための目と手の協応性は更に向上し、より的確な移動が行えた。

【考察】

本研究では、能動的な移動経験が外界への注意・興味を高め、その操作環境に適応するための姿勢・運動制御が促された。この事は、子ども達にとって移動は魅力的であり、能動的な体験こそが姿勢・運動制御の発達に不可欠だと示唆された。今後の課題として、引き続き重症心身障害児の移動に関して、より簡便な機器(ハード)の整備・普及や、より具体的・効果的な練習方法(ソフト)を構築していく必要があると考える。

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究は、当センター倫理委員会の承認を受けた。また、保護者に目的等を説明し書面で同意を得た。

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© 2016 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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