p. 89
【目的】
高齢患者に対する運動療法で代表的なものとして,器具を使わず手軽に行える反復起立運動があり,同運動のリスク管理はBorg指数や検脈で行うことが多い.反復起立運動は起立回数の他,起立頻度によっても負荷量が左右されるが,高齢患者を対象に,起立頻度と循環反応に着目した研究はあまり見受けられない.そのため本研究では,高齢患者の反復起立運動における,起立頻度と循環反応の関係について検討した.
【対象】
H27年4月から10月までの期間に,当院でリハビリを施行した患者で,理解力に問題がなく,自力での起立が可能な35名(男性15名,女性20名,平均年齢80.6±8.7歳)である.疾患の内訳は,整形疾患14名,循環器疾患11名,呼吸器疾患9名,その他内部疾患4名である.
【方法】
安静時のバイタルを確認後,同一患者に対し40cmの高さの椅子から反復起立運動を2回行ってもらい,起立頻度を定めない1回目と,起立頻度を設定した2回目を比較した.評価指標は,HR,SBP,double product(以下DP),各指標の変化率,高負荷運動となっていた人数とした.1回目にBorg指数13に到達するまで起立運動を行ってもらい,その起立回数,起立頻度,直後のHR,SBPを測定した.10分以上の十分な休息の後,1回目と同回数の反復起立を,2回目は起立頻度を指定して行った(1回/10秒).今回,高負荷運動と判断する基準は%HRmax75%以上,安静時からSBP30mmHg以上の上昇もしくは10mmHg以上の低下とした.統計処理は,1回目の起立頻度とSBP,HR,DP,%HRmaxとの関係をピアソンの積率相関係数にて解析した.また,1回目と2回目の評価指標をPaired t-test,高負荷運動となっていた人数の差をX?検定(Fisherの直説法)で比較し,有意水準 5%未満で検討した.
【結果】
1回目の%HRmaxの平均は61.5±10.5%であった.1回目の起立頻度とHR,%HRmaxの間には有意な相関が認められず(r=0.25,r=0.12),SBP,DPとの間に有意な相関が認められた(r=0.34,r=0.37).1回目と2回目の比較では,起立頻度を設定した2回目に,すべての計測指標において有意な低下が認められた(p<0.01).高負荷運動と判断された人数は,1回目が14人(SBP30mmHg以上の上昇7人,10mmHg以上の低下6人,%HRmax75%以上1人)で,全体の40.0%,2回目は6人(SBP30mmHg以上の上昇1人,10mmHg以上の低下4人,%HRmax75%以上2人)で全体の17.1%であり,起立頻度を定めた2回目に有意な減少が認められた(p<0.01).
【考察】
高齢患者が行う反復起立運動では,その起立頻度とSBP,DPとの間に相関が認められたが,起立頻度の増大と,HR,%HRmaxとの間には相関が認められなかった.起立頻度を指定せずに行った1回目は,その頻度が最大頻度と思われる患者が多く,バルサルバ効果が影響したと推測される.また,1回目の平均%HRmaxは概ね適切な運動負荷といえるが,SBP変動でみると全体の4割が高負荷運動に分類される結果となった.また,起立頻度を下げた2回目は,いずれの計測指標においても,有意に低下する結果となり,起立回数のみならず,起立頻度の調整も負荷量調整方法の一つとして有用と考えられる.
【まとめ】
反復起立運動は,その起立頻度を特に定めなかった場合,高齢患者にとって高負荷運動となっている可能性が示唆された.反復起立運動は,起立回数・頻度ともにHRとの相関性が低い結果となったため,同運動を行う際はHR,Borg指数のみでのリスク管理は望ましくないと思われる.そのため,起立回数・頻度の調整の他,同時にSBP,DPも確認しつつ行っていく必要がある.
【倫理的配慮,説明と同意】
全例に対して当院の倫理規定に基づき、十分な説明を行い、同意を得た