九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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肺炎を繰り返し、急速に摂食嚥下機能の低下が見られた脳出血後遺症の1例
*平川 沙紀*田中 健一朗*濱部 美子*神津 玲
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p. 88

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抄録

【はじめに】

高齢者肺炎の予防および早期対応は、医療のみならず福祉の現場においても重要な課題であり、適切な摂食嚥下リハビリテーション(嚥下リハ)の介入が求められる。特別養護老人ホーム(特養)の入居者は様々な併存疾患を有するため、特に長期的対応に難渋することが多い。今回、特養入居中に肺炎を繰り返した症例における10年間の摂食嚥下機能の経過について報告する。

【症例(入所時)】

60歳代男性

診断名:右被殻出血 既往歴:左視床出血・被殻梗塞

要介護度:3

神経学的所見:Brunnstrom stage(右/左)(上肢:Ⅵ/Ⅱ 手指:Ⅵ/Ⅴ 下肢:Ⅵ/Ⅲ)

運動障害性構音障害軽度、左上下肢重度感覚鈍麻、右上下肢運動失調軽度

運動機能:関節可動域は左上下肢、右膝関節に高度の屈曲拘縮

日常生活動作(ADL):Barthel Index=25点 (食事自立、起居・移乗一部介助、車椅子移動見守り)

摂食状況:レベル 9 摂食嚥下能力:グレード 9?  刻み食、食思良好

認知症高齢者日常生活自立度:Ⅰ、障害高齢者日常生活自立度:B2

【理学療法経過】

X年、在宅生活が困難となり当施設へ入所となった。入所後の生活は終日のベッド上臥床を好み、離床に対して消極的であった。入所2カ月後に肺炎にて近医に入院となったが、退院後、当施設では離床時間の延長と肺炎の再発予防を目標に、積極的な座位・移乗動作練習・車椅子駆動練習、自己排痰を含む呼吸練習、座位姿勢の調整を中心とした摂食嚥下練習を行った。その後、移乗および車椅子駆動能力は改善し、X+6年間はADLおよび摂食嚥下機能を維持し得ていた。

しかし、X+7年頃より肺炎・尿路感染による入退院を繰り返し、その度に座位耐久性が低下し座位姿勢の悪化、認知機能障害の進行がみられ、唾液や飲水の際に咳嗽が増加した。そのため臥床時の体位管理の徹底、食事にとろみ調整剤を追加した結果、咳嗽は軽減した。

X+8年、3回の胆管炎による入院により座位耐久性の低下、離床時間の短縮、嚥下反射の遅延を認めた。経口摂食の際の頸部聴診では嚥下反射後の咽頭残留音が聴取されたため、食事形態を刻み食からムース・ミキサー食に変更した。

X+10年、認知機能障害の進行や座位耐久性の低下にて座位保持が困難となり食事姿勢も悪化した。加えて、口腔内残渣が増加し、食事中の咳嗽が増加、食思低下もみられたため、標準型車椅子座位での食事は困難と判断し、リクライニング車椅子へ変更した。しかし、摂食状況に大きな改善を認めず、頻回に嘔吐を繰り返すようになり、誤嚥や窒息のリスクが高まったため経口摂取は中止、主治医に精密検査を依頼した。その結果、嚥下反射の著しい遅延・喉頭侵入が著明なため経口摂取は困難と判断され、家族の意向により胃瘻造設となった。造設後は唾液誤嚥による肺炎予防のために口腔ケア、臥床時の体位管理を徹底し、肺炎は発症せずに現在に至っている。

【考察】

本症例は当施設入所中、加齢とともに新たな合併症の発生や併存疾患の増悪による認知機能や身体機能、およびADL能力が障害されるとともに、摂食嚥下機能が徐々に低下した。一般的に、嚥下リハは摂食嚥下機能の回復のため適用されている。しかし、特養での対象者は残存機能に予備力が低いため、経口摂取の限界も視野に入れ、そのタイミングを見極める必要がある。また、唾液誤嚥による肺炎発症予防のための体位管理や嘔吐による窒息や大量誤嚥の予防、胃食道逆流を防ぐための姿勢管理など、多面的なアプローチを含めた関わりが必要であると考えた。

【倫理的配慮,説明と同意】

本発表に際して、本人および家族へ十分に説明の上、同意を得た。

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