九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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急性期リハビリにおける腹臥位療法の実践
CPA蘇生後、急性呼吸不全を呈した小児患者に対し、腹臥位療法を実施した1例
*家村 太
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p. 90

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抄録

【はじめに】

交通外傷にて当院に救急搬入され、開胸術、両側減圧開頭術を施行するも、入院後人工呼吸器関連肺炎による急性呼吸不全を呈された小児患者に対し、腹臥位療法を実施し、呼吸状態の改善が得られた為、報告する。

【方法】

症例はCPA蘇生後、気管切開にて人工呼吸器管理中の6歳男児、体重20kg。理学療法士、担当麻酔科医師、集中治療室看護師数名により、第62病日から第96病日まで35日間、1日約2時間程度腹臥位療法を実施。医師、理学療法士、看護3名により体位交換実施。頭部の外減圧部や気切部への直接な圧迫を防ぐ為本症例に合わせたクッションを自作、また胸腹部、下腿部へクッションを設置し、リラクゼーションが図れるポジションをとった。また腹臥位中は30分程度の呼吸介助も併用して実施。実施後は背臥位となり、医師手技による気管支鏡下での吸引を実施した。

【結果】

体位交換に伴い多量の喀痰が可能となり、また1回換気量の増加、画像所見の改善を認め、呼吸状態の安定が図れた。

【考察】

本患者はCPAにて当院救急搬入され、開胸術、減圧開頭術を施行する等全身状態不安定であった。その上人工呼吸器関連肺炎による呼吸不全を呈し、第60病日には胸部CT上右肺上葉を含む両側背側肺底部の無気肺を伴う肺炎像を認めた。過去の研究で、重症ARDS等による呼吸器管理中の患者に対する早期からの腹臥位療法実施により、90日死亡率が有意に減少するとの報告がある。また人工呼吸器による陽圧換気では、背側横隔膜の可動性低下、さらには長期背臥位で心臓や肺の重力、腹圧によりコンプライアンスが低下し、背側肺底部の無気肺が生じやすいと言われている。これらの知見を踏まえ、本患者に対して第62病日より35日間、呼吸介助を併用した腹臥位療法を1日2時間程度実施した。その結果、無気肺の改善、1回換気量の増加、痰量の減少など呼吸状態の安定化が図れた。その要因として主に、。肺障害が背側の比較的狭い範囲に限局していたことと、体位ドレナージの効果が有用であり、背側肺底部の換気血流比の改善、心臓などによる肺の部分圧迫の解除が図れたと考えられる。実施後医師の手技による気管支鏡下での吸引も併用することで、効果的な介入が可能であった。また無気肺改善後も、定期的に前傾側臥位、車椅子離床や母親の抱き上げなど、医師監視の基で動作指導も含めた介入を継続し、肺炎、無気肺の再発を防ぐことが出来た。リハビリのみでなく、医師や看護等他職種にわたる連携、チーム医療を実施することで上記のような重篤な状態であっても、安全に体位ドレナージを実施でき、管理できる可能性があると示唆される。

【まとめ】

背側肺底部の無気肺改善には、早期での腹臥位療法は有効であり、積極的な体位ドレナージは、肺の繊維化など重篤な慢性呼吸器疾患の予防にもつながると示唆される。しかし、減圧開頭術施行後、また気切管理中であり体位交換に伴うチューブ、減圧部へのリスクは高く、厳重な管理が必要となる。それに伴い多くのマンパワーが必要となるといった問題点も示唆され、簡易的に行える治療ではない。そのため、他職種との連携を頻回に行い、十分な管理が可能な現場を作るとともに、前傾側臥位等比較的少数のマンパワーで可能な治療も積極的に検討していく必要がある。

【倫理的配慮,説明と同意】

本報告に際し、事前に所属施設の倫理審査員会の承認を得た。また患者家族に十分な説明を行い、同意を得た上での報告である。

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