ラテンアメリカ・レポート
Online ISSN : 2434-0812
Print ISSN : 0910-3317
資料紹介
Mason W. Moseley. Protest State: The Rise of Everyday Contention in Latin America
三浦 航太
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2019 年 35 巻 2 号 p. 99

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ラテンアメリカが新自由主義の時代に突入したとき、労働組合などの人々を動員する組織力の低下や市民社会の弱体化によって、市民による抗議行動は減少すると思われていた。しかし、現実には新自由主義の登場はラテンアメリカ各国で抗議行動を増加させる結果となった。そのため、2000年代に新自由主義の嵐が過ぎ去ったときには、いよいよ抗議行動は減少すると思われた。しかしながら、またしても予想に反して、ポスト新自由主義の時代は「抗議行動の時代」となる。新自由主義後のラテンアメリカでなぜ抗議行動は恒常化したのか。この問いに挑んだのが、本書「Protest State(抗議国家)」である。

本書では、政治制度と市民社会というふたつの視点から、2000年代と2010年代のラテンアメリカで市民が抗議行動に参加するメカニズムを説明しようとしている。具体的には、政治制度が脆弱で市民社会の政治へのかかわりが強い場合に抗議行動につながるというのが本書の主張である。そうした状態となった国を、本書ではタイトルのとおり「抗議国家」と呼ぶ。本書の最大の特徴としては、問いに応じてデータ・分析方法・分析範囲を柔軟に使い分けながら、それらが見事に一本に繋がっている点が挙げられる。第1章と第2章で分析枠組みを設定した後、第3章と第4章では、ラテンアメリカ全体を対象に、政治制度と市民社会の政治へのかかわりが人々の抗議行動や選挙への参加度合いを説明できるのかについて、量的手法を用いて検証している。つづく第5章から第7章では、分析対象をアルゼンチン一国に絞り、地域間でなぜ抗議行動への参加度合いに差が出るのかを質的手法と量的手法を組み合わせながら検証している。

本書では、ポスト新自由主義の時代の抗議行動を説明する重要な前提として、2000年代の経済成長が市民社会の政治へのかかわりを強めたことが指摘されている。2000年代の経済成長がキーだとするならば、本書で示された抗議行動への参加・動員メカニズムは本当にポスト新自由主義の時代に特有のものなのか、新自由主義の時代の参加・動員メカニズムとどう異なるのか、気になるところである。

本書は、ラテンアメリカの政治や社会をとらえる際に、地域全体と一国、マクロとミクロ、過去と現在といった複数の視点を往復させることの重要性を再認識させ、抗議行動の研究においてそれを見事に実現させた一冊である。

 
© 2019 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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