ブラジルでは2022年に行われた大統領選挙において、史上最も僅差となった決選投票の結果、左派の労働者党のルーラ元大統領が、現職のボルソナロ大統領に勝利した。そして2023年、過去に2度政権を担ったルーラの第3次政権がスタートした。政権交代したブラジルについて、本稿では民主化以降の変化と同国が歩んできた方向性を中心に解説する。その際、筆者が2013年に出版した『躍動するブラジル―新しい変容と挑戦』から10年後となる現在のブラジルにとって、2010年代半ばがひとつの転換期だったと考える。新型コロナが直撃したボルソナロ政権を総括したのち、ルーラ労働者党政権が返り咲いたブラジルについて論じる。最後に、ブラジルで進んだとされる分極の問題に関して、第3次ルーラ政権では修復が難しいのではないかとの見解を含め、今後の展望を述べる。
本稿では、「連合大統領制」を否定して政権の座についたボルソナロ大統領とブラジル国会との関係について検討した。当初ボルソナロ大統領は自身の政策選好に近い議員連盟との協力を重視していたが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の中で政治的に孤立した。2020年前半に彼に対する弾劾告発が急増したため、セントロンと呼ばれる中道右派・右派政党グループへの接近が顕著となり、弾劾回避や再選に向けた政策実施などに大きな影響を与えた。ボルソナロとセントロンの関係はポスト分配や報告官修正による予算分配を通じて維持されたが、ボルソナロ政権下における大統領・議会関係は概して安定的なものではなく、立法能力の向上にはつながらなかった。
2023年1月に発足したルーラ政権にとって、経済状況の改善は最大の課題のひとつである。僅差で選挙戦を制した同政権には、経済分野のみならず社会・環境など多岐にわたる分野で前政権とは異なる政策を打つことが期待されている。経済面での最優先課題は、新たな財政ルールの枠組み作りである。本稿では、前回ルーラ大統領が政権を担っていた時期を起点として過去20年間のブラジル経済を振り返り、経済分野において進められてきた改革の進捗について論じる。開発主義的な経済モデルへの回帰を目指すルーラ政権にとって、政策を実行するうえでの課題はどこにあるのか。第3次ルーラ政権には、再登板であるがゆえに前回政権を担っていたときのイメージを背負っているという前提がある。本稿では、外部環境はもとより、史上最も保守化しているといわれる議会、分極化した世論との関係など、当時とは大きく異なる状況の変化を踏まえてマクロ経済政策を中心に考察する。
1980年の民政移管後のペルーでは、政党内部や政党間の合意形成が困難な状態であり、とくに2000年以降は、有力候補がその場しのぎの選挙運動を組織したり、あるいはいくつかの政党が選挙戦を有利に戦うため場当たり的に有力候補を招待し、選挙後の党内では、招待した政治家と古参の党員とのあいだであつれきが生まれるといった傾向にあった。このため、政党間はおろか政党内部の合意形成も難しいという状態のまま、定期的に選挙が実施されてきた。そのあいだに蓄積された課題は2018年以降の大統領弾劾発議の頻発へとつながり、2022年12月の大統領弾劾裁判中に、大統領が憲法の規定を無視して国会解散を宣言し、国会が大統領の職務停止を可決した。その後の政権は、この職務停止を「国会によるクーデター」であったと批判する反政府デモに直面し、前倒し選挙の実施を模索するも、前倒し選挙に消極的な政治家とのあいだで合意形成ができないままである。本稿では、過去のペルーでの大統領弾劾を類型化しつつ、2022年12月の弾劾裁判中の出来事や、現在の政権に対するペルー国民の不満について、世論調査結果から明らかにする。
2000年代後半から、ペルーのカカオ・チョコレート産業が大きく成長している。カカオ豆の生産量は2020年までの10年間に3倍に増加したほか、カカオ豆と加工品を合わせた輸出量も約4倍に増えている。加えてチョコレートの国内市場も変化している。国産品は安いチョコレートがほとんどだったが、最近はスーパーマーケットの売り場でも、欧州産の高級チョコレートと並んで、国内企業が製造した価格の高いチョコレートが目立つようになっている。ペルーでカカオ・チョコレート産業が成長している要因として重要なのが、国際市場におけるカカオ豆価格の高騰に加えて、ペルー国内におけるコカ代替開発プログラムによるカカオ豆の生産振興、カカオの価値を高めるバリューチェーンの構築、カカオ豆の品種改善の取組み、そして国内外のクラフトチョコレート・ブームである。
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