チリで2023年末から開始されていた鉄鋼アンチダンピング審査は、国内唯一の製鉄所が閉鎖となって申請者不在になり、最終判断の前に審議終了という意外な結末を迎えた。チリ中南部経済を代表する製鉄所閉鎖の影響は、労働者の雇用問題をはじめ、取引企業の存続など地域経済の広い範囲に及ぶことが見込まれている。
このような帰結を招いた要因には、チリ鉄鋼産業の寡占的構造と、産業界における調整力の低さがある。本稿では、アンチダンピング審査における鉄鋼企業2社の意思決定と交渉過程を分析するために、相互依存関係にある寡占企業を分析する標準的なツールであるゲーム理論を用いることで、協調を軽視した個別企業の利益優先の経営判断がチリ製鋼業の終焉という結果を招いたことを示す。
抄録全体を表示