ラテンアメリカ・レポート
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特集 メキシコ:AMLO政権の総括と今後の課題
  • 星野 妙子
    原稿種別: 特集 メキシコ:AMLO 政権の総括と今後の課題
    2025 年 42 巻 1 号 p. 1-16
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/01/31
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    メキシコでは2024年6月2日に大統領選挙と上下両院の連邦議会議員選挙が実施され、AMLO率いる与党連合が圧勝した。圧勝の要因の一つに挙げられるのが、AMLO政権が力を入れた福祉の拡充である。本稿ではAMLO政権の福祉政策の特徴とその財政的裏付けについて検討する。それによって、福祉政策が貧困層をターゲットとした条件付現金給付から普遍主義的な現金給付に変化したこと、さらに、予算配分が高齢者福祉年金の支給に偏り、財政支出が急増していることから、持続可能性に懸念があることを明らかにする。

  • 内山 直子
    原稿種別: 特集 メキシコ:AMLO 政権の総括と今後の課題
    2025 年 42 巻 1 号 p. 17-31
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/01/31
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    2024年10月1日、メキシコ初の女性大統領が就任した。与党「国民再生運動」(Morena)の候補であったシェインバウム新大統領は、同年6月2日の大統領選挙において約60%の得票で圧勝し、同時に行われた議会選挙においても、与党連合は下院で特別多数(3分の2以上の議席)を獲得した。本稿では、シェインバウム及びMorenaの圧勝の要因を分析するとともに、AMLO前政権の6年間を総括する。高い支持率とは裏腹にAMLO前大統領の実績には功罪両面が存在し、多くの課題が新政権に残されたことを明らかにする。さらに、政権交代直前に議会で承認された司法改革にメキシコの民主主義を後退させる危険があり、その他の憲法改正項目についても今後、新政権の足枷となりうることを指摘する。一方、最大のリスクと見なされがちなトランプ米次期大統領に対して新政権は落ち着いた対応を見せている。

  • 高橋 百合子
    原稿種別: 特集 メキシコ:AMLO政権の総括と今後の課題
    2025 年 42 巻 1 号 p. 32-49
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/01/31
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    本稿は、2024年に本格化したメキシコの憲法改正論議について司法制度改革に着目し、その起源、政治過程、そして帰結を詳細に分析したうえで、メキシコの民主主義への含意について考察する。2024年6月に実施された連邦選挙では、AMLOが「第4の変革」を実現するための憲法改正が最大の争点となった。選挙期間中、憲法改正を支持する勢力と反対する勢力の間で激しい対立が繰り広げられ、メキシコ社会に大きな分断をもたらした。選挙の結果、与党「国民再生運動」(Morena)候補であり、AMLOの側近として知られるシェインバウムが圧勝した。また、同選挙の結果、連邦議会上下両院で与党連合が憲法改正に必要な特別多数(3分の2以上)を獲得する見通しが立ったことから、裁判官の公選制導入を柱とする司法制度改革が急速に進められた。この動きに対して、改革に反対する司法府職員によるストライキが発生し、大学生を中心とする抗議運動が全国規模で広がったものの、10月の新政権発足前には司法制度改革が実現するに至った。一方、憲法改正に反対する勢力は、この改革が司法府による行政府へのチェック機能を弱め、民主主義の後退を導くと批判している。しかし、民主主義に関する指標を見ると、AMLO政権下では自由で公正な選挙やチェック・アンド・バランスの水準が低下した一方で、市民の政治参加のレベルは向上した。この点を考慮すると、メキシコにおいて民主主義が後退していると結論付けるのは時期尚早である。

論稿
  • 木下 直俊
    原稿種別: 論稿
    2025 年 42 巻 1 号 p. 50-60
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/01/31
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    2023年11月24日にノボア政権が発足した。任期はわずか18カ月間と短く、2025年2月9日には次期大統領選挙が実施される。ノボア大統領は再選を果たすために、麻薬カルテルによる抗争激化で治安危機に陥るエクアドルを早急に立て直さなければならないが、電力逼迫、財政危機と様々な難題にも直面し厳しい舵取りが求められている。また、内政面では、アバド副大統領との確執が新たな火種となり政権運営に支障をきたしているほか、外交面では、警察当局がメキシコ大使館に強行突入しグラス元副大統領の身柄を拘束したことで国際社会から厳しい批判を浴びている。はたしてノボア大統領が再選され政権を継続できるのか、綱渡りの政権運営が続き、再選への道のりは決して平坦ではない。

  • 上谷 直克
    原稿種別: 論稿
    2025 年 42 巻 1 号 p. 61-76
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/01/31
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    近年悪化するラテンアメリカの治安問題を背景に、本稿ではエクアドルの現状を通じてその実態を検討する。エクアドルでは、コロナ禍後のコカイン市場の活況が同国を国際麻薬密輸のハブに変え、政治・経済・社会に深刻な影響を及ぼしている。この現況は、国家統治能力の低下、歴代政権の失策、コロナ禍による社会経済的打撃、そして「コロンビア和平合意」が複雑に絡み合う結果として生じた。またこの事例は、治安や暴力犯罪にまつわる政治についての既存の研究で提起された多様な論点(「鉄拳政策」の実効性、拘禁制度、汚職や癒着、海外移民、自警団など)を具体的な事象を通じて理解する上で示唆に富む。

  • 北野 浩一
    原稿種別: 論稿
    2025 年 42 巻 1 号 p. 77-92
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/01/31
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    チリで2023年末から開始されていた鉄鋼アンチダンピング審査は、国内唯一の製鉄所が閉鎖となって申請者不在になり、最終判断の前に審議終了という意外な結末を迎えた。チリ中南部経済を代表する製鉄所閉鎖の影響は、労働者の雇用問題をはじめ、取引企業の存続など地域経済の広い範囲に及ぶことが見込まれている。

    このような帰結を招いた要因には、チリ鉄鋼産業の寡占的構造と、産業界における調整力の低さがある。本稿では、アンチダンピング審査における鉄鋼企業2社の意思決定と交渉過程を分析するために、相互依存関係にある寡占企業を分析する標準的なツールであるゲーム理論を用いることで、協調を軽視した個別企業の利益優先の経営判断がチリ製鋼業の終焉という結果を招いたことを示す。

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編集委員会
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