ラテンアメリカ・レポート
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清水達也 編 『途上国における農業経営の変革』
清水 達也
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2019 年 36 巻 1 号 p. 75

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途上国の農民といえば貧困や停滞と結びつけられることが多い。規模が小さな圃場で、家族が中心になって農作業に従事し、自家消費用の食料作物を栽培する。余剰がでれば地元の市場で販売して現金収入を得る、というのが典型的な姿であろう。しかし今日は途上国の農村でも、土地の売買や賃貸借、農作業の機械化や受委託、知識集約的な投入財や栽培技術の導入、生産から販売までの統合などが増えるなど、数々の変化が起きている。そしてこれらの変化に対応して、外部から資本や労働力などの経営資源を積極的に導入し、経営規模を拡大してダイナミックな成長を遂げる「新しい農業経営」が現れつつある。本書ではこのような経営体の事例を分析して、これまでの家族経営との違いや、今後の食料供給を担う農業経営体の姿を考察した。

本書は、途上国における農業の変化を確認し、新しい農業経営の分析方法について考察した序章、中所得国を中心に、既存の理論と実際のデータを用いて、農業にかかわる生産や貿易の構造変化を分析した第1章、そしてアジアとラテンアメリカでみられるダイナミックな農業経営体の変化について、具体的な事例をとりあげて分析した第2~6章、これらをまとめて、途上国における新しい農業経営の姿を描いた終章からなる。

ラテンアメリカの事例を取り上げたのは、第5章「『勘と経験』と『知識と技術』の交わるところ―メキシコにおける輸出向け蔬菜生産企業の挑戦」(谷洋之)と、第6章「ブラジル中西部における穀物生産者の経営拡大」(清水達也)である。第5章は、米国向けに輸出が伸びている生鮮野菜の生産を手がけるメキシコの北西部・中西部企業が、家族経営を近代化しながら労働力を確保し、品質を改善し、ブランド力を向上する様子を描いている。第6章は、遺伝子組み換え品種、不耕起栽培、大豆とトウモロコシの二毛作など、最新の技術体系を導入して大規模化を図る家族経営体が、経営の自律性を高めて成長するために、資金調達や販売に注力していることを説明している。

近年ラテンアメリカは、青果物、穀物、食肉の国際市場への供給において重要性を増している。輸出市場向けの農産物を中心に、成長した家族経営が企業的な経営管理の手法を導入することで、規模を拡大して供給量を増やしている。このようなラテンアメリカの事例から、次世代の食料供給の担い手となり得る経営体の姿を理解することができるだろう。

 
© 2019 日本貿易振興機構アジア経済研究所
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