ラテンアメリカ・レポート
Online ISSN : 2434-0812
Print ISSN : 0910-3317
資料紹介
上毛新聞社 著 『サンバの町それから―外国人と共に生きる群馬・大泉』
村井 友子
著者情報
解説誌・一般情報誌 フリー HTML

2023 年 39 巻 2 号 p. 65

詳細

群馬県大泉町は、住民の外国人比率が18.8%(2021年12月現在、以下同じ)、45カ国の人が暮らす外国人との共生の町である。なかでもブラジル人比率が10.7%ともっとも高く、大泉町には日本最大級の日系ブラジル人コミュニティが形成されている。

1990年の入管法改正から現在までの30余年の長い歳月のなかでの、群馬・大泉町における日系ブラジル人コミュニティの生成と変遷、人びとの活動や人間ドラマを、長年同地で取材を続けてきた上毛新聞社の記者がいきいきと綴っている。本書は1997年刊行の『サンバの町から―外国人と共に生きる群馬・大泉』の続編にあたる。

筆者によれば、この30年を俯瞰すると、およそ10年ごとに時代を分ける大きな節目があった。1つめは2001年で、大泉町の知名度を全国区に押し上げたサンバ・パレードの中止。2つめが2011年の東日本大震災。3つめが2020年からの新型コロナウィルスの猛威。この3つの出来事を節目として、蜜月(1990~99年)、離反(2000~09年)、協働(2010~21年)の3つの時代に分け、ビジネス、教育、NGOなどを通じてコミュニティの発展に寄与した人びとの活動や人間模様を伝えている。また同時に、学校教育からのドロップアウト、青少年の非行、犯罪の増加、異文化コミュニケーションの難しさなどの問題にも踏み込んでいる。

超高齢化社会を迎えた日本は、外国人労働力の受け入れを目的とした移民政策を打ち出していく必要に迫られている。終章で筆者は、「労働力だけ都合よく、使うことはできない」、「違う文化、宗教的背景を持つ人たちは、身を守り、家族を守るためにコミュニティを必ずつくる。コミュニティが内向き志向を強めれば、地域社会に背を向けることだってありうる」と、日本社会に警鐘を鳴らしている。

外国人の雇用や社会保障、子供たちの教育問題、ニーズに対応した各種行政サービスの在り方など、外国籍住民との協働社会を構築するために、今後日本の国や行政が検討すべき課題は多い。30年以上日系ブラジル人をはじめとする外国人との共生を続けてきた大泉町は私たちに多くの教訓を与えてくれるに違いない。

 
© 2023 日本貿易振興機構アジア経済研究所
feedback
Top