蝶と蛾
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Delgamma pangoniaと近似の1新種について
Alberto ZILLI吉本 浩
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2000 年 51 巻 4 号 p. 309-315

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抄録

ヤガ科クチバガ亜科のDelgamma pangonia(Guenee)は,熱帯アフリカから熱帯アジア,オーストラリアにかけて広く分布する中型種で,やや顕著な性的二型を示し,♂は前翅が幅細く,後翅前方には鱗粉の発達の悪い淡色部が広がる.ところが,ローマの動物学博物館(Museo Civico di Zoologia,Rome=MCZ)に所蔵されるこの群の標本整理中,まるで♀のような顔をしたマレーシア産の♂があることに気付いた.ロンドン自然史博物館に問い合わせたところ,同館にもマレーシア,インド,ベトナム産のこれに該当する5♂1♀の標本の保管されることを知り,これらを詳しく調べた結果,新種であることが分かったので記載した.新種Delgamma flaviae Zilli(Figs 1-2)では,前翅外横線はより直線的で,翅頂部にはD.pangonia(Figs 3-4)に見られるような暗色紋を伴わず,♂では後翅の性斑もほとんど発達しない.分布はインド・アッサム地方とインドシナ半島で,D.pangoniaと混棲する.なお,この機会にロンドン自然史博物館で調査したDelgamma pangoniaについても記した.Guenee(1852)によるpangoniaの模式産地"Bresil?"は明らかに誤りで,模式標本(♀)はアジア産である.スリランカと赤道アフリカのpangoniaは,前翅外横線が前方で波状とならずより直線的で,さらにスリランカ産では翅頂部の暗色紋の下の小紫紋も消失する.この特徴は,Moore(1895)によるスリランカ産の標本の図にも示され,また今日pangoniaのシノニムとされるアフリカ西部ギニア湾サントメ島のD.sanctae A.E.Prout,1927の記載中でも強調された.D.pangoniaの別のシノニムのcalorifica Walker,1858は,シレット,ヒンドゥスタン,スリランカの標本に基づくが,シレット産の♂syntypeと北インド産の♀syntypeはともにアジア顔であった.しかし,スリランカ産の♂は交尾器および後翅の性斑などではアジアのpangoniaと一致するので,これらは別種ではなく,地理的変異とみなすのが相当である.D.sanctaeについてはProut(1927)に図示されたsyntype 1♀を調べたが,本質的にはアフリカ大陸本土産と区別するだけの根拠が得られなかった.

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© 2000 日本鱗翅学会
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