蝶と蛾
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ブータン東部産Pieris erutae の新亜種記載,及びヒマ ラヤ産Pieris napi グループに関する分類学的考察
田所 輝夫Sonam WANGCHUKSonam WANGDIKarma WANGDISherubRinchen WANGDISangay DRUKUPA原田 基弘斎藤 基樹青木 俊明山口 就平五十嵐 昌子渡辺 康之矢後 勝也
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2017 年 68 巻 3-4 号 p. 81-91

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抄録

パキスタン北部からインド北部さらにネパールを通ってブータン,ミャンマー,そして中国雲南省北部へと続くヒマラヤ山脈は,ユーラシア・プレートとインド・プレートとの衝突によって形成された急峻な高山と深い峡谷を特徴とする地殻断層線である.この地殻断層線とその周辺域では豊富なチョウ類多様性が報告されている(Fig.1).ここに分布するPieris napi グループ*[例えばTuzov(1997)等]には,ブータン東部に局所的に棲息するPieris extensa bhutya(Figs 2-C, D)の他,インド北西部からパキスタン北部にかけて棲息するPieris ajaka(Figs 2-E, F)やインド北部からネパール西部にかけて分布するPieris melaina(Fig. 2-G)等,あまり知られていない種が棲息している.後者の2種は,いずれも発香鱗の香嚢サイズが Pieris napi 種群に比較すると明らかに大きく(Fig.3),そのため Warren (1961) により Pieris melete(スジグロシロチョウ)の race (亜種階級相当) に分類されている. 一方,Tadokoro et al.(2014)によると,中国四川省,雲南省からヒマラヤ東端にかけて分布する Pieris erutae (Figs 2-I, J, K,L)は,発香鱗の香嚢サイズも他のnapi 種群(napi-complex)と同程度であり(Fig. 3), 分子系統解析に基づいた分類でも napi 種群に属することが確認されている(ヒマラヤの Pieris napi グループ*各種の記載の経緯に関しては本文参照).これらのチョウに加えて,日本とブータンの共同学術調査隊が2011 年8月に行ったブータン東部での蝶類調査の際に採集したnapi グループ*種(Figs 2-A,B)を形態学的に総合比較することで,ヒマラヤ山脈沿いに分布するnapi グループ*の分類学的考察を行った.
その結果,この地域に分布するのは少なくとも以下の4 種があることが確認された.1) Pieris ajaka (Figs 2-E, F): 中型種.発香鱗の香囊のサイズは4 種中最大(Fig. 4).翅脈が napi グループ*の他種に比較して目立たないことから,♂はタイワンモンシロチョウに似る.パキスタン北部からインド西北部(カシミール地方)にかけて分布.2) Pieris melaina (Fig. 2-G): 中型種.発香鱗の香囊のサイズは3 種中2 番目に大きい(Fig. 4).基部は黒鱗に覆われ,♀の地色は黄色く翅脈は黒く縁取られる.インド北部からネパールにかけて分布.なお,インドのシッキム地方をタイプ産地とする Pieris montana は,Eitschberger(1983)により P.melaina のシノニムとされており,筆者らもその見解を支持するものである.3) Pieris extensa bhutya (Figs 2-C, D)は4 種中最大の開翅長を有すが,発香鱗および香嚢は napi グループ*中最小である(Fig. 4).4) Pieris erutae(Figs 2-I, J, K, L): 大型種.発香鱗の香囊のサイズは中程度で,他の napi 種群とほぼ同サイズ(Fig. 4).中国四川省,雲南省からミャンマー北部を経てブータンに至るまで広く分布する.ブータン東部産の napi グループ*種も大型で,♀の表面地色の違いや発香鱗の形状・香嚢サイズの違い等から独立種である可能性もあるが,それらは種内変異と考えられなくもない程度の差であることから,当報文では別種としては扱わず,P. erutae のブータン東部産の新亜種として記載をするにとどめる.

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© 2017 日本鱗翅学会
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