蝶と蛾
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適応形質としてのミドリシジミ族の雄性先熟
竹内 剛
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2025 年 76 巻 4 号 p. 157-162

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抄録

様々な昆虫では,オスがメスよりも早い時期に羽化する.この現象は雄性先熟の一形態として知られている.雄性先熟は,オスが先に成虫になって,羽化後間もない未交尾のメスと交尾する繁殖戦略として生じる場合もあれば,単にオスとメスの発育に要する期間の違いによる場合もあると考えらえている.著者は,チョウの雄性先熟は繁殖戦略だと考えて,メスアカミドリシジミChrysozephyrus smaragdinus (鱗翅目:シジミチョウ科)とウラクロシジミIratsume orsedice(鱗翅目:シジミチョウ科)の発育経過を調査した.これら2種の幼虫は卵の殻の中で越冬し,寄主植物の新芽が開く春に孵化する.雄性先熟が繁殖戦略ならば,オスは早く成長して成虫になるために,メスよりも早く孵化することが予想される.

さらに,配偶行動の性質によって,雄性先熟が強まる場合もありうる.メスアカミドリシジミのオスは林内の空間にとどまって飛来するメスに求愛する,待ち伏せ型の配偶行動を示す.そして,成虫の時期の早い段階で待ち伏せ場所に飛来したオスは,侵入してきた他のオスとの相互作用の後もその場所を占有し続ける傾向があることが知られている.したがって,オスはメスだけでなく他のオスよりも早く羽化することが繁殖戦略では有利になる.他方,ウラクロシジミのオスは特定の場所にとどまらず,広い範囲を飛び回ってメスを探す探索型の配偶行動を示す.したがって,オスはメスよりも早く羽化する必要があるが,他のオスよりも早く羽化する必要はない.そこで,雄性先熟の程度は,ウラクロシジミよりもメスアカミドリシジミの方が大きいと予想される.

この二つの予想を確かめるために,著者はその2種を飼育して発育期間を調べた.その結果,2種ともオスはメスよりも発育期間が短く,メスよりも早く成虫になった.また,2種ともオスの幼虫がメスの幼虫よりも早く孵化した.この結果は,雄性先熟がこれら2種の繁殖戦略であることを支持している.また,幼虫期間の雌雄差は2種で違いはなかったが,蛹期間の雌雄差はメスアカミドリシジミの方がウラクロシジミより大きかった.その結果として,雄性先熟の程度はウラクロシジミよりもメスアカミドリシジミの方が大きかった.これは,探索型の種よりも待ち伏せ型の種の方が雄性先熟の程度が大きいという予想に合う.

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