抄録
筆者は、これまで心理臨床活動の実践の場として、私立の中高一貫校のスクールカウンセリングの相談室、古くからの地域に根差す単科の精神科病院の勤務を経て、2011年より、総合病院の小児科に勤務している。小児科の中でも、出生後すぐに集中的な治療を必要とする早産低出生体重児※1 やその他の医学的な治療を必要とする新生児が入院する新生児集中治療室(Neonatal Intensive Care Unit: 以下, NICU)に所属する心理士として、心理臨床活動を行っている。
妊娠期・出産期・育児期は、女性のライフサイクルにおいて心身ともにダイナミックに変化する時期であり、女性の成長・発達のチャンスであるとともに、その変化に伴う一種の心理的危機の時期でもある(永田, 2011; 岡本, 1999)。妊娠22週から出産後を医学的には周産期と呼ぶが、こころの周産期は、妊娠に気がついた時点に始まり、胎
児として母親の胎内で生きているところから、一人の赤ちゃんと母親として生活していくための移行期全体を含めてよいと考えられている(橋本, 2011)。その大きな変化の時期であり、親子の出会いの時期に、突然の予期せぬ我が子のNICU入院を経験したご家族と赤ちゃんとともに居て、親子の関係性が育まれるプロセスをそっと見守る存在と
して、周産期の心理士が心理臨床活動を行っている。その心理臨床活動の在り方は、NICUという場やそこで治療に携わる医療スタッフ、退院後は親子を見守る家族や地域社会というコミュニティの場の中で行われるものであり、精神科で行われる個人精神療法の構造とは異なっていると考える。
また、2019 年の年末に始まったCOVID-19 の影響は、周産期医療の現場やそこで出産や我が子のNICU 入院を経験する家族にも大きな変化をもたらし、その影響は現在も続いている。その変化の大波にあって、当然、周産期の心理臨床活動の在り方も影響を受けている現状がある。本稿では、はじめに、周産期の心理臨床活動について、一
人の周産期の心理士としての視点で述べ、筆者の試みとして、マクロ・カウンセリングの視点から論じ、その特徴について考察する。次に、後半部ではCOVID-19感染拡大初期の周産期医療の現場への影響や、新たな試みとして2020 年から導入されたオンライン面会の工夫について報告する。