抄録
野生鳥獣の個体群管理にあたっては,適切な個体数等の目標を設定したうえで保護管理計画を作成・実行し,継続的にモニタリングすることが求められている.しかし,イノシシに関しては,地方自治体が継続的・広域的に実施可能な個体数等の推定方法は確立されていない.その一方で,野生のイノシシ個体群では非発情期間の長短が個体群動態をコントロールする重要な機構になっていることが報告されている.そのため,非発情期間の長さを把握できれば,本種の個体群動態を評価する指標として利用できる可能性がある.しかし,胎子や卵巣の状態から繁殖状態を判断する既存の手法では,短期間に十分な試料数を収集することが難しく,単年ごとに非発情期間の長さを把握するのは困難である.一方,非発情期間の延長に起因する出産機会の低減がイノシシの個体群動態に影響を及ぼしていることを踏まえると,非発情期間は未知でも出生が確認されない時期または減少する時期を把握できれば個体群動態を評価する指標として利用できると考えられる.そこで本稿では,週齢査定によりイノシシの出生時期を推定することで,出生が確認されない時期または減少する時期を把握できるか検討した.調査では,2010年10月から2011年9月にかけて栃木県那珂川町のイノシシ肉加工施設に搬入された153個体の歯牙の萌出状態を確認して週齢査定し,捕殺年月日より出生時期を推定した.その結果,低頻度出生期間が2009年3月30日から4月28日および2009年10月23日から2010年4月12日,2010年10月22日から2011年4月29日の3回確認され,同期間中に6回の無出生期間が生じたことから,調査対象個体群の出生頻度が季節的に低下する可能性が示唆された.また,週齢査定による出生時期推定では,第27齢区分以上(生後週数88週以上)の個体を分析から除外し,単年の推定に対して少なくとも2年の調査を実施することで,より正確な結果を得られることが分かった.詳細な週齢査定では高い技術が求められるため,週齢査定技術者を育成する必要はあるが,週齢査定による出生時期推定は地方自治体が継続的・広域的に実施可能なモニタリング手法であると考えられた.