抄録
アカギツネ(Vulpes vulpes)は単独性の傾向が強いものの,野生アカギツネの同腹子間には直線的な順位が存在することが知られている.本研究は,高密度で飼育されているアカギツネの亜種キタキツネ(V. vulpes schrencki)の集団において順位が生じるかどうかを検討し,人為環境下における社会構造を明らかにすることを目的とした.
対象集団には直線的な順位は存在しているとはいえなかった.集団内に親和的ネットワークは形成されていたものの,ダイアド間の親和性と敵対行動の頻度の間には負の相関関係は見いだされず,敵対行動を緩和する機構となっているとはいえなかった.
キタキツネの成獣を,密度が高く個体の入れ替わりが頻繁な環境の中で人為的に集団にした場合,集団中に安定した順位は発生せず,順位に代わる敵対行動の緩和機構も発生しないため,集団の安定性は低くなることが示唆される.