哺乳類科学
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短報
東日本におけるニホンザルの分布変化に影響する社会・環境要因
江成 広斗
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2013 年 53 巻 1 号 p. 123-130

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抄録
19世紀後半から戦前にかけての乱獲によって,一時は大幅に退縮したニホンザル(Macaca fuscata)個体群の分布は,現在回復傾向にある.しかし,こうした近年の分布変化に影響する社会・環境要因を広域スケールから定量評価した事例は乏しい.そこで本研究では,冷温帯林が広がる東日本に位置する個体群を対象に,2002年から2009年にかけての分布拡大地域・非拡大地域・消滅地域を複数の社会・環境要因をもとに判別するための分類モデルを決定木により構築した.併せて,増加傾向にあるニホンザルの捕獲が本種の分布変化に及ぼす影響を,捕獲数の多い栃木県を対象に評価した.その結果,拡大地域は「住宅地のない低標高帯」,非拡大地域は「住宅地の広がる地域,もしくは最寒月平均気温が-11℃を下回る高標高帯の森林」,消滅地域は「森林の連続性の低い地域,もしくは寒冷多雪地」にみられる傾向があった.また,構築された分類モデルにおいて,「非拡大地域」の判別精度は84.4%と高かったものの,他の2地域は40%以下とその精度は低く,判別基準を十分に抽出できなかった.後者2地域の判別精度を向上させるためには,本解析では用いなかった分布拡大のベースとなるソース個体群の群れ動態や,集落の質なども加味した分類モデルの構築が有効である可能性がある.一方で,現在実施されている捕獲事業では,増加傾向にある個体群に対して,分布制限要因として顕在化しにくい傾向にあった.
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© 2013 日本哺乳類学会
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