2018 年 58 巻 1 号 p. 175-182
本稿は下稲葉・安田(2018)で詳しく述べられた日本の研究者による独自の哺乳類学における先駆者の一人,岸田久吉に関する情報を補完するものである.彼は1930年代に台湾の生物地理を理解する上でモグラの重要性に注目した.その成果として,彼は台湾にタイワンモグラMogera insularisおよび1ないし2種の独立種の存在を認め,さらにこれらを独立属として位置づけたが,これらの学名に関する記載をしなかった.これらは裸名(nomen nudum)となるが,近年の研究では台湾に複数種のモグラ(2007年に記載されたヤマジモグラMogera kanoanaおよびその遺伝的変異集団)が分布することが示唆されている.つまり岸田の台湾産モグラ類に関する予言は,あながち間違っていなかったと考えられる.