2018 年 58 巻 2 号 p. 257-263
日本哺乳類学会における中型食肉獣研究は,20年前には在来種を対象とした研究が90%以上を占めていたが,最近10年間ではその約半数が外来種を対象とした研究である.在来種の主な研究分野である行動調査には発信器装着が必要なため捕獲が実施され,外来種においては生態系からの除去を主な目的として捕獲が実施されてきた.中型食肉獣の捕獲はわな捕獲が主となるため,対象種のみではなく捕獲可能性のあるすべての種に対する保定道具の準備と麻酔の知識,心構えが必須である.また,外来種においては最終的には安楽殺処分が実施されることが多い.米国獣医師会の「安楽死に関するガイドライン」は,特別な配慮が必要な動物として,動物園動物と区別した野生動物を掲げており,飼育動物とは異なる野生動物の安寧に言及している.すなわち自由行動する野生動物にとって,人との接触・保定・移送はストレスであり,現実性を欠く二段階麻酔法よりも,短時間のうちに確実に死に至らしめる方法をより良いとしている.日本でも社会の課題となっている野生動物管理の場面では,実行者側に命を奪うという精神的ストレスと社会的圧力が大きくかかっていることも明記されている.本ガイドラインは,社会情勢や現実に即し,人や野生動物の特性に配慮した指針である.哺乳類研究者の使命は野生動物の生活史を探求し,その生き様を理解し護ることである.そのために必要な研究は何か,どのような手法が適切かを論理的,具体的に世間に示す責任がある.