哺乳類科学
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フィールド・ノート
原著論文
  • 根本 唯, 小坂井 千夏, 山﨑 晃司, 小池 伸介, 正木 隆, 梶 光一
    2018 年 58 巻 2 号 p. 205-219
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/30
    ジャーナル フリー

    近年,ツキノワグマ(Ursus thibetanus)の保護管理では,人や農作物に繰り返して被害をもたらす特定個体(以下,問題個体とする)の発生が大きな課題となっている.ツキノワグマの行動や食性には個体差が大きいことから,問題個体が生じる要因の一つと考えられる.また,人里で有害捕獲されるツキノワグマの性比に偏りが見られる地域が存在することから,性差もツキノワグマの生息地選択を捉える上で重要である.本研究は,足尾日光山地で捕獲した単独成獣メスと成獣オスのツキノワグマの行動データを使用して,秋の堅果樹種および人為景観に対する選択における個体差および性差の大きさの違いを明らかにすることを目的として行った.生息地選択に対する個体差と性差を推定するモデルを作成し,各植生被覆[ミズナラ(Quercus crispula)林,その他堅果樹種林,市街地,農地]に対する選択や忌避の強さと個体や性別との間の関係を解析した.また,堅果の並作年と不作年を分けてモデル化し,堅果結実量の年次変動による影響も調べた.全個体の平均的な傾向として,ツキノワグマは,並作年ではミズナラ林を選択し,その他堅果樹種林,市街地,および農地を忌避していた.不作年では,ミズナラ林とその他堅果樹種林を選択し,市街地と農地を忌避していた.しかし,ミズナラ林とその他堅果樹種林に対する選択の強さには,並作年と不作年の両方で大きな個体差が見られ,特に不作年では並作年より個体差が拡大した.一方で,性差はどの植生被覆に対する選択でも明確ではなかった.以上より,本調査地におけるツキノワグマの秋期における堅果樹種および人為景観に対する選択は,性差よりも個体差の方が大きく,その個体差は人為景観よりも堅果樹種に対する選択で大きく,さらにミズナラ堅果の不作年には拡大することが明らかになった.

短報
  • 船越 公威, 松元 海里
    2018 年 58 巻 2 号 p. 221-226
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/30
    ジャーナル フリー

    九州南部の鹿児島市において,ニホンアナグマMeles anakumaの冬季活動を知るため,2016年12月から2017年3月に自動撮影カメラを利用して調査した.冬季のねぐら場所は固定しており,2個体が利用していた.両個体の巣外活動は同調していた.巣外活動停止の開始は12月22日で,その主要な外因として気温よりも光周期が示唆された.夜間の巣外活動は12月下旬から著しく低下した.その後,比較的短時間の巣外活動が3月初旬まで断続的にみられた.外気温0~3°C下でも巣外活動がみられ,気温低下と巣外活動に関連性はみられなかった.巣外活動停止(3日以上)に周期性がみられ,その間隔は平均11日であった.巣外活動が3日以上停止した1月5日から3月5日を冬眠期間とすると,50日となった.この冬眠期間は,東京都日の出町や山口市のアナグマの冬眠期間より短く,低緯度の鹿児島市では冬眠期間が短いことが明らかになった.

  • 大竹 崇寛, 原科 幸爾, 西 千秋, 出口 善隆
    2018 年 58 巻 2 号 p. 227-235
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/30
    ジャーナル フリー

    小規模樹林地が点在する都市部では,一般的にニホンリス(Sciurus lis)の生息が困難とされているが,岩手県盛岡市の市街地では,1 ha未満の小規模樹林地でもニホンリスによる利用が確認されている.これらのニホンリスは樹林地間を行き来して個体群を維持している可能性が高いが,その移動を実証する研究例はない.本研究では,同市市街地に点在する小規模樹林地においてニホンリスの樹林地間の移動実態を把握するために,2016年5月から2017年11月にかけて計10頭のニホンリスを対象としたラジオ・テレメトリー法による追跡調査を行った.その結果,6頭のニホンリスによる計47回の樹林地間移動が確認された.これらの樹林地間移動のうち,回数が多かったのは果樹園を含む複数の土地利用によって分断されている樹林地間移動の21回,街路樹によって樹冠が連続している樹林地間移動の18回であり,果樹園を含む複数環境によって分断されている樹林地間では3個体,街路樹で繋がれている樹林地間では2個体の移動が確認された.一方,幹線道路を横断した移動は上記の5個体とは別の1個体のみによる5回の移動が確認され,他の土地利用で分断された樹林地間移動と比べて移動回数が少なかった.これらのことから,対象地ではニホンリスは複数の樹林地間を移動して生息しており,街路樹や果樹園がコリドーとして機能している一方で,幹線道路は移動障壁となっている可能性が示唆された.

総説
  • 高槻 成紀
    2018 年 58 巻 2 号 p. 237-246
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/30
    ジャーナル フリー

    タヌキNyctereutes procionoidesが利用する果実の特徴を理解するために,タヌキの食性に関する15編の論文を通覧したところ,タヌキの糞から103の植物種の種子が検出されていた.これら種子を含む「果実」のうち,針葉樹2種の種子を含む68種は広義の多肉果であった.ただしケンポナシHovenia dulcisの果実は核果で多肉質ではないが,果柄が肥厚し甘くなるので,実質的に多肉果状である.また,乾果は30種あり,蒴果6種,堅果4種,穎果4種,痩果4種などであった.このほかジャノヒゲOphiopogon japonicusなどの外見が多肉果に見える種子が3種あった.果実サイズは小型(直径<10 mm)が57種(55.3%)であり,色は目立つものが70種(68.0%)で,小型で目立つ鳥類散布果実がタヌキによく食べられていることがわかった.「大型で目立つ」果実は15種あり,カキノキDiospyros kakiはとくに頻度が高かった.鳥類散布に典型的な「小型で目立つ」果実と対照的な「大型で目立たない」果実は10種あり,イチョウGinkgo bilobaは検討した15編の論文のうちの出現頻度も10と高かった.生育地にはとくに特徴はなかったが,栽培種が21種も含まれていたことは特徴的であった.こうしたことを総合すると,タヌキが利用する果実には鳥類散布の多肉果とともに,イチョウ,カキノキなどの大型の「多肉果」も多いことがわかった.テンと比較すると栽培植物が多いことと大きい果実が多いことが特徴的であった.

報告
  • 關 義和, 鈴木 貴大
    2018 年 58 巻 2 号 p. 247-252
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/30
    ジャーナル フリー

    ツキノワグマUrsus thibetanusは,神奈川県レッドリストにおいて絶滅危惧I類に指定されている.本研究では,これまで体系的な調査が行われてこなかった神奈川県南西部におけるツキノワグマの生息状況を明らかにするために,箱根町と湯河原町の境界周辺に位置する玉川大学箱根自然観察林において自動撮影カメラを用いた調査(2,122カメラ日)を実施した.2017年の5月から10月にかけて15地点に自動撮影カメラを設置した結果,6地点でツキノワグマが延べ10回撮影された(撮影頻度0.47/100カメラ日).1945年以降に,箱根町南部や湯河原町においてツキノワグマの確実な生息が確認されたのは本研究が初めてである.撮影月についてみると,5月と8月を除く複数月で撮影された.また,体の特徴から個体識別を行った結果,少なくとも3個体が本地域に生息していたと推測された.これらの結果から,本地域にツキノワグマが恒常的に生息している可能性は高いと考えられる.今後,神奈川県のツキノワグマの保護管理を適切に実施していくためには,箱根町から湯河原町にかけても保護管理の対象とし,個体数や分布に関する継続的なモニタリングを実施していくことが求められる.

特集 哺乳類の野外研究に関する倫理的課題と今後の展望
  • 森光 由樹, 梶 光一
    2018 年 58 巻 2 号 p. 253-255
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/30
    ジャーナル フリー

    我が国では野生動物を対象とした倫理規定が未整備な状況にあるため,2017年9月に行なわれた日本哺乳類学会2017年度富山大会において,自由集会「哺乳類の野外研究に関する倫理的課題と今後の展望」(森光・梶2018)を開催した.この特集は,その自由集会で扱った,主に捕獲を伴う野外研究の倫理についてシカ類,クマ類,霊長類,中型哺乳動物を対象に現在の国内の問題を提起し,今後の展望についての報告をまとめたものである.

  • 岸本 真弓
    2018 年 58 巻 2 号 p. 257-263
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/30
    ジャーナル フリー

    日本哺乳類学会における中型食肉獣研究は,20年前には在来種を対象とした研究が90%以上を占めていたが,最近10年間ではその約半数が外来種を対象とした研究である.在来種の主な研究分野である行動調査には発信器装着が必要なため捕獲が実施され,外来種においては生態系からの除去を主な目的として捕獲が実施されてきた.中型食肉獣の捕獲はわな捕獲が主となるため,対象種のみではなく捕獲可能性のあるすべての種に対する保定道具の準備と麻酔の知識,心構えが必須である.また,外来種においては最終的には安楽殺処分が実施されることが多い.米国獣医師会の「安楽死に関するガイドライン」は,特別な配慮が必要な動物として,動物園動物と区別した野生動物を掲げており,飼育動物とは異なる野生動物の安寧に言及している.すなわち自由行動する野生動物にとって,人との接触・保定・移送はストレスであり,現実性を欠く二段階麻酔法よりも,短時間のうちに確実に死に至らしめる方法をより良いとしている.日本でも社会の課題となっている野生動物管理の場面では,実行者側に命を奪うという精神的ストレスと社会的圧力が大きくかかっていることも明記されている.本ガイドラインは,社会情勢や現実に即し,人や野生動物の特性に配慮した指針である.哺乳類研究者の使命は野生動物の生活史を探求し,その生き様を理解し護ることである.そのために必要な研究は何か,どのような手法が適切かを論理的,具体的に世間に示す責任がある.

  • 森光 由樹
    2018 年 58 巻 2 号 p. 265-273
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/30
    ジャーナル フリー

    霊長類の倫理規定は,日本霊長類学会が1986年に「サル類を用いる実験遂行のための基本原則」を策定公表し,その後,さらに内容を充実させて「飼育下にある霊長類の管理と実験使用に関する基本原則」を策定して公開した.飼育や実験動物のガイドラインの策定は進んだものの,野外研究に関するガイドラインの策定は進まなかった.その理由として,霊長類は大型類人猿から,オナガサル類,オマキザル類,コロブス類,小型原猿類など種が多く,生命倫理に対する考え方が対象種によって異なることが挙げられる.国際霊長類学会(IPS)と米国霊長類学会(ASP)は,野外研究のガイドラインを作成して公開している.その主な内容は,人道的動物実験における3Rの原則,つまり,代替法の検討(Replacement),使用個体数の削減(Reduction),苦痛の軽減(Refinement)に加え,研究者の責任,知識の発展と公表,公衆衛生と環境への配慮,調査地域住民への配慮とインフォームドコンセント,霊長類の保全,関連法規の遵守などである.現在,日本霊長類学会では,霊長類の野外研究に関する倫理ガイドラインの公表に向けて準備が進められている.今後,日本哺乳類学会においても倫理に関するガイドライン策定は急務である.そのため関係する学会と連携をとりながら作業を進めることが重要である.

  • 山﨑 晃司
    2018 年 58 巻 2 号 p. 275-282
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/30
    ジャーナル フリー

    最近になって,日本でのクマ類研究においても生体捕獲を伴う侵襲的な調査手法が広く用いられるようになり,動物福祉を考慮した調査個体の扱いが求められている.しかし,クマ類を取り扱う研究における動物福祉に配慮したガイドラインやプロトコルは未整備である.そこで,日本における今後の課題の検討の参考として,北米およびスカンジナビアにおけるこれらの事例を紹介する.

  • 鈴木 正嗣, 松浦 友紀子, 須藤 明子
    2018 年 58 巻 2 号 p. 283-287
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/01/30
    ジャーナル フリー

    日本におけるシカ研究の材料の多くは,狩猟や個体数管理等を目的とする捕獲を通じ得られている.そのため現段階では,シカの研究利用に関わる倫理面での議論は,海外で提唱されている殺処分の一般的理念と照らし合わせつつ検討すべきと考えられる.米国獣医師会の「動物の安楽殺処分に関するガイドライン」では,野生動物に関するセクションが設けられている.このセクションでの記述で注目すべきは,「特定の状況における最も迅速で人道的な方法は,必ずしも既存の安楽殺処分の基準に合致しない」ならびに「現状で可能な最も良い方法が適用されねばならず,以前よりも優れた新しい技術と方法とが導入されなくてはならない」等の見解である.日本においても,海外のガイドラインや法令等を単に流用するのではなく,日本固有の社会情勢や制度,規制等に適合した最も人道的な手段や技術を検討・導入する姿勢が不可欠である.

連載 日本の哺乳類学,歴史的展開4
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