哺乳類科学
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ツキノワグマ亜成獣メスによる夏季における長距離移動
瀧井 暁子高畠 千尋泉山 茂之
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2020 年 60 巻 1 号 p. 95-103

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抄録

これまで報告事例のないツキノワグマUrsus thibetanus亜成獣メスによる夏季における長距離移動を確認した.2012年5月21日に長野県中央アルプス北麓において捕獲し,GPS首輪による個体追跡を行った2歳の亜成獣メス(個体S)が,捕獲場所から大きく移動し2012年8月29日まで捕獲場所に回帰しなかった.個体Sの累積移動距離は大きな移動を開始してから追跡終了までの91日間で323.56 kmであった.当地域でGPS首輪による個体追跡を行ったツキノワグマ14頭の95%最外郭法による年間行動圏面積(オス4頭,メス9頭)は3.50~332.40 km2であったが,個体Sの行動圏面積457.95 km2は突出して大きかった.個体Sは,地域個体群をまたいだ長距離移動を行い,国道153号および国道20号を横断するのにそれぞれ9日,23日を要した.この個体の動きは,極めてまれなツキノワグマメスの分散の過程であった可能性があり,ツキノワグマの個体群動態を検討するうえで,貴重な資料となる.

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© 2020 日本哺乳類学会
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