哺乳類科学
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60 巻, 1 号
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フィールド・ノート
原著論文
  • 鎌田 泰斗, 坂元 愛, 山田 新太郎, 関島 恒夫
    2020 年 60 巻 1 号 p. 3-13
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/02/14
    ジャーナル フリー

    シベリアシマリスTamias sibiricus(以下,シマリスとする)には同種内に年周期的に冬眠する個体と冬眠をしない個体が存在していることから,冬眠調節メカニズムを解明する実験材料として,非常に高い潜在能力を有していると考えられる.しかしながら,実験室条件下における繁殖プロトコルは未だに確立されておらず,計画的な繁殖成功の報告もないことから,モデル動物化を進めるにあたり大きな障壁となっている.本研究では,実験室条件下における雌の発情特性を明らかにすることを目的に掲げ,はじめに,雌の発情パターンを明らかにし,冬眠タイプと非冬眠タイプ間において繁殖期の長さや,この期間に特異的に観察される鳴き声(発情鳴き)に差異があるかどうかを比較した.次に,発情鳴きが認められた期間において交配実験を実施したところ交尾行動が観察されたことから,発情鳴き状況に応じた膣スメア細胞診をすることにより,発情鳴きの発情周期上の意義を明らかにした.結果として,雌のシマリスは,実験室条件下において年1回の繁殖期を有しており,発情鳴きは約11日周期で繁殖期間中に4から5回ほど認められた.さらに,発情鳴きが膣スメア像における角化無核細胞の増加と密接に関連していたことから,発情鳴きは発情周期上における排卵日を示す重要なシグナルとなっていることが示された.冬眠タイプと非冬眠タイプ間において,繁殖期の長さや発情鳴きのパターンについては明瞭な差異は認められず,共通した発情特性を示すことが明らかとなった.さらに,本研究では,冬眠タイプと非冬眠タイプ間の異型交配を試みたところ,6例のF1世代の作出に成功した.今後,さらに異型交配を進展していくことで,冬眠の遺伝形式の解明や連鎖解析による冬眠の調節メカニズムに関与する遺伝子の同定が期待される.

  • 船越 公威, 大澤 達也, 永山 翼, 佐藤 顕義, 勝田 節子, 大沢 夕志, 大沢 啓子
    2020 年 60 巻 1 号 p. 15-31
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/02/14
    ジャーナル フリー

    熊本県新八代駅周辺の新幹線高架橋のスリット(間隙)でオヒキコウモリTadarida insignis,アブラコウモリPipistrellus abramusおよびヒナコウモリVespertilio sinensisの3種の生息が確認され,さらに音声記録から九州産の既知種とは異なる1種(PF値平均36 kHz)が生息している可能性も示唆された.オヒキコウモリの越冬集団は日本で初めての記録であり,新幹線高架橋におけるヒナコウモリの集団の発見は九州で初めてである.オヒキコウモリとアブラコウモリは繁殖集団を形成し,8月に幼獣集団がみられた.オヒキコウモリは繁殖場所と越冬場所を使い分け,越冬場所はより狭い(隙間3 cm前後)空間を利用していた.スリット利用の総個体数のピークは,オヒキコウモリで5月(118頭)と10月(124頭),アブラコウモリで9月(244頭)であった.東西両側のスリットの選択は,採餌空間の利用方向に関係すると示唆された.出巣開始時刻は,アブラコウモリで日没の平均22分後,オヒキコウモリでは平均36分後で前者より遅かった.オヒキコウモリの糞分析による被食昆虫の目レベルの絶対出現頻度から,主食は鱗翅目成虫で,次いで半翅目,双翅目,脈翅目,鞘翅目および蜻蛉目成虫の順であった.これらの中には農業害虫が含まれており,人工ねぐらの場所と関連して,農業生態系の中で有益な役割を担っていることが示唆された.コウモリ類の新たな生息種を知る上で,高架橋のスリットの調査は有効であると考えられた.

  • 繁田 真由美, 繁田 祐輔, 田村 典子
    2020 年 60 巻 1 号 p. 33-44
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/02/14
    ジャーナル フリー

    滑空性の哺乳類では一般に,産仔数が少なく,出産から離乳までの期間が長い傾向があることが知られている.しかし,長い育仔期間にメスがどのような仔育て投資をしているのかは明らかになっていない.滑空性の齧歯目であるムササビ(Petaurista leucogenys)は主に樹洞内を繁殖場所とするため,自然環境下での仔育て過程を知ることは困難である.そこで本研究では,巣内の撮影が可能なカメラボックスを装着した巣箱を野外に架設することにより,自然環境下での出産から仔育て過程におけるメスの行動を記録した.東京都八王子市の樹林内に架設した3個の巣箱において,2010年2月~2014年5月までの期間,計3,549日の録画を行った.この間,のべ10個体のメスが仔育てを行った.出産月は2月~3月および6月~9月で,産仔数は平均1.3頭であった.仔育てをした10例のうち3例において,仔は巣外で活動するまで成長したが,3例ではアオダイショウ(Elaphe climacophora)やテン(Martes melampus)によって捕食され,残り3例については育仔途中で引越し,1例については不明であった.メスは出産直後,巣箱内にいる時間が長く,仔の成長に応じて夜間の巣外活動時間は増加したが,個体によって巣外活動のパターンは異なった.仔の授乳は最長166日齢まで確認された.また最長229日齢までメスとその仔が同じ巣箱を利用した.ムササビのメスによる仔育てへの時間的投資は他のリス類に比べて長いことが示唆された.

  • 寺山 佳奈, 金城 芳典, 加藤 元海
    2020 年 60 巻 1 号 p. 45-53
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/02/14
    ジャーナル フリー

    ニホンザル(Macaca fuscata)による農作物被害が全国的に広がっている.森林と農地がモザイク状に分布する里山において,効率的な被害対策を講じるための基礎研究として,ニホンザルの環境利用を調べた.高知県中土佐町にある常緑広葉樹林帯の里山において,ニホンザル1群の行動圏のコアエリア内の4つの群落[放棄果樹園,竹林,シイ・カシ二次林,スギ(Cryptomeria japonica)・ヒノキ(Chamaecyparis obtusa)植林]に自動撮影装置を設置し,ニホンザルによる各群落の利用状況を調べた.採食行動が最も多く撮影された群落は放棄果樹園であり,次いで竹林であった.放棄果樹園では午前中にニホンザルが多く撮影され,葉や果実といった植物質の採食が確認された.一方で,それ以外の群落では午後に撮影されることが多かった.特に竹林では,放棄果樹園で採取したと思われる果実や,竹林内を流れる沢で採取したと思われるカニやカエルなどの動物を採食していた.放棄果樹園と竹林では成熟個体が多く撮影され,それらの周辺にあるシイ・カシ二次林とスギ・ヒノキ植林では未成熟個体が多く撮影された.里山のようにモザイク状に群落が存在する場所では,ニホンザルの時空間的な環境利用パターンは生息地の空間構造の影響を受けており,放棄された耕作地周辺における空間開放度の低い群落の整備が,ニホンザルの隠れ場所除去の観点から重要であると示唆された.

  • 島村 咲衣, 安藤 正規, 鶴田 燃海, 永田 純子, 淺野 玄, 大橋 正孝, 鈴木 正嗣, 小泉 透
    2020 年 60 巻 1 号 p. 55-65
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/02/14
    ジャーナル フリー

    近年,日本各地でニホンジカ(Cervus nippon)による林業被害や森林生態系への影響が報告されている.狩猟者の減少や高齢化によって捕獲努力量が伸び悩む中でも森林への被害を軽減させるために,例えば北米において考案されている,オジロジカ(Odocoileus virginianus)母系集団の強い定住性を利用したLocalized Management法のような,被害防除に効果的な個体数調整手法の適用を検討していく必要がある.しかし,ニホンジカ地域集団内の母系集団の規模がオジロジカと同様であるかは不明であり,本手法の適用の可否は不明である.さらに,既存のマイクロサテライトマーカーによってニホンジカの母系集団を検出できるか否かも明らかになっていない.そこで本研究では,ニホンジカ母系集団の検出を目指してマイクロサテライトマーカーの解析能力を検討し,空間的な遺伝構造の検出可能スケールについて検討した.

    国内4地域(北海道,静岡,岐阜,宮崎)で捕獲された計251個体(胎子63個体を含む)を解析に用い,マイクロサテライトマーカー17座の遺伝子型を決定した.遺伝子座ごとの対立遺伝子数(Na)は3~18となり,オジロジカの値と比較して少ない傾向にあった.個体識別能力の指標PID-siblingを算出した結果,本研究では多型性の高い上位4座を用いて個体識別が可能であった.地域集団間および地域集団内の遺伝的多様性を評価するため,全集団平均の遺伝子分化係数(G’ST),各集団のNa,対立遺伝子数の期待値およびヘテロ接合度の期待値を算出した.地域集団間および地域集団内の遺伝的多様性はどちらも低い傾向がみられた.地域集団間および地域集団内において,STRUCTUREを用いた遺伝構造解析では,北海道および宮崎の集団は明瞭にそれぞれ独立のクラスターが構成されるものの,中部(静岡・岐阜間)の遺伝構造は不明瞭になるケースが確認された.一方で,地域集団内の遺伝構造(母系集団)は検出されなかった.胎子63個体を使っておこなった母性解析では,胎子を妊娠していた真の母親を推定できた確率は約20%にとどまった.

    本研究では,北海道,中部および宮崎の地域集団間の遺伝構造を明瞭に検出できたが,地域集団内の母系集団は検出できなかった.そのため,サンプル数のもっとも多かった静岡集団においても,Localized Managementの適用が可能な個体群であるとは断定できなかった.それは,各マイクロサテライトマーカーの多型が少ないことが原因であり,日本国内のニホンジカが過去に経験した個体数の減少によるボトルネック効果を反映していると考えられた.

  • 羽方 大貴, 門脇 正史, 諸澤 崇裕, 杉山 昌典
    2020 年 60 巻 1 号 p. 67-74
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/02/14
    ジャーナル フリー

    2014年5月から10月まで,長野県東部のカラマツ人工林に架設された297個の巣箱において,休息するヤマネGlirulus japonicusを捕獲し,空間明示標識再捕モデルにより生息密度を推定した.オス37個体,メス34個体,合計71個体のヤマネを個体識別し,再捕獲個体数はオス5個体,メス10個体であった.生息密度は雌雄全体で1.93±0.35個体/ha(平均値±SD),オス0.65±0.25個体/ha(平均値±SD),メス3.32±1.27個体/ha(平均値±SD)と推定され,メスの方が高かった.一方,推定された行動圏サイズは雌雄全体で3.42 ha,オス3.96 ha,メス0.98 haと推定され,オスの方がメスよりも大きかった.

総説
  • 江成 広斗, 江成 はるか
    2020 年 60 巻 1 号 p. 75-84
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/02/14
    ジャーナル フリー
    電子付録

    生態系への不可逆的な影響をもたらしうるニホンジカ(Cervus nippon,以下シカ)の分布拡大と個体数増加は,生息不適地と従来考えられてきた東北地方の多雪地においても懸念されはじめた.しかし,多雪地における低密度のシカは,従来の個体数モニタリング手法では検知が困難で,予防的なシカ管理の実現に課題が残されている.そこで,筆者らは,シカが発する鳴声により個体を検知するボイストラップ法を開発した.ボイストラップ法はシカの鳴き返し行動を応用した能動的なモニタリング手法(active acoustic monitoring;以下AAM)と,自発的に発せられるシカの鳴声を検知する受動的なモニタリング手法(passive acoustic monitoring;以下PAM)の2つに分けられる.本総説は,生態音響情報を活用した従来のモニタリング手法を概観する作業を通して,シカへの応用の利点と課題を整理することを目的とした.シカを対象としたAAMとして,オスが発情期に発するhowlという咆哮に対する鳴き返し行動を利用し,対象地に侵入した優位オスを検知する簡便法を解説した.PAMとして,侵入初期から定着初期にみられるシカの分布段階の変化を検知することを目的に,2種の咆哮(howl,moan)の半自動検出手法を解説した.カメラトラップやスポットライトカウントなどの従来手法と比べて,ボイストラップ法は検知率が高いこと,特にPAMについては,その検知範囲の広さと,検知の半自動化により,非専門家を含めた多様な担い手によって支えていくことが期待される広域的なシカのモニタリング体制の構築に大きな利点があることを紹介した.

報告
  • 高槻 成紀, 山崎 勇, 白井 聰一
    2020 年 60 巻 1 号 p. 85-93
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/02/14
    ジャーナル フリー

    人為的影響の少ない東京西部の裏高尾のタヌキの食性を調べたところ,人工物は出現頻度5.0%,ポイント枠法による平均占有率0.4%に過ぎなかった.果実・種子が一年を通じて重要で,出現頻度(果実98.0%,種子93.1%),平均占有率(果実30.0%,種子25.7%)とも高かった.季節的には春は果実,種子,昆虫の占有率が20%前後を占め,夏には種子が36.7%に増加した.秋には果実が71.5%と最多になり,昆虫は微量になった.初冬には果実が43.2%に減り,種子が31.7%に増えた.晩冬は果実(15–35%),種子(15–25%),昆虫(20–30%)が主要であった.種子は晩冬のエノキ,春のキチイゴ属,夏のミズキ,秋のケンポナシ,初冬と晩冬のヤマグワと推移した.ヤマグワやサルナシは結実期とタヌキによる利用の時期が対応しなかった.

  • 瀧井 暁子, 高畠 千尋, 泉山 茂之
    2020 年 60 巻 1 号 p. 95-103
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/02/14
    ジャーナル フリー

    これまで報告事例のないツキノワグマUrsus thibetanus亜成獣メスによる夏季における長距離移動を確認した.2012年5月21日に長野県中央アルプス北麓において捕獲し,GPS首輪による個体追跡を行った2歳の亜成獣メス(個体S)が,捕獲場所から大きく移動し2012年8月29日まで捕獲場所に回帰しなかった.個体Sの累積移動距離は大きな移動を開始してから追跡終了までの91日間で323.56 kmであった.当地域でGPS首輪による個体追跡を行ったツキノワグマ14頭の95%最外郭法による年間行動圏面積(オス4頭,メス9頭)は3.50~332.40 km2であったが,個体Sの行動圏面積457.95 km2は突出して大きかった.個体Sは,地域個体群をまたいだ長距離移動を行い,国道153号および国道20号を横断するのにそれぞれ9日,23日を要した.この個体の動きは,極めてまれなツキノワグマメスの分散の過程であった可能性があり,ツキノワグマの個体群動態を検討するうえで,貴重な資料となる.

  • 城ヶ原 貴通, 中家 雅隆, 池村 茂, 越本 知大, 坂本 信介, 橋本 琢磨, 三谷 匡, 黒岩 麻里, 山田 文雄
    2020 年 60 巻 1 号 p. 105-116
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/02/14
    ジャーナル フリー

    トゲネズミ属(Tokudaia)は琉球列島にのみ分布する固有属であり,トクノシマトゲネズミ(Tokudaia tokunoshimensis)は徳之島にのみ分布する固有種で,絶滅が危惧されている.本種の分布・生息状況についてはまとまった記録が蓄積されておらず,保全策を検討する上で分布・生息状況を明らかにする必要がある.本研究ではトクノシマトゲネズミの保全に向けた第一段階として本種の分布状況を明らかにするため,2011年から2015年の捕獲調査,自動撮影カメラによる調査に加え,2005年から2016年の目撃記録・直接観察の情報の整理ならびにその他の分布情報を精査した.その結果,トクノシマトゲネズミの分布は島北部の天城岳ならびに島中東部に位置する井之川岳周辺を分布の中心地域とし,南部の犬田布岳周辺にわずかに生息していることが明らかとなった.また,比較的良好な森林があるにも関わらず生息が確認できない地域が存在することが明らかとなった.本調査結果は,絶滅のおそれのあるトクノシマトゲネズミの保全地域の設定およびイエネコ(Felis catus)による捕食対策など生息地保全を含むさまざまな保全策の策定に基礎情報を提供するものである.

特集 哺乳類科学60巻記念特別寄稿
  • 和田 一雄
    2020 年 60 巻 1 号 p. 117-127
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/02/14
    ジャーナル フリー

    日本哺乳類学会の前身の一つである哺乳類研究グループは,1958年からネズミ研究グループに参加した大学院生や助手を含んだ若者達に端を発して1963年に結成され,自由に発想し,そして相互批判することによって発展した.同グループは,第二次世界大戦後,特に1958年以降,各時期の日本社会における社会的,政治的事象の影響を受けながら,ネズミ研究グループの諸先輩による助言や忠告を得て力を蓄えた.哺乳類研究グループでは,毎年行われたシンポジュウム,自由集会,動物相の記載,入門書作成関係の議論などを通して哺乳類の系統進化についての活発な議論が行われた.そして,1983年に行った日中哺乳類シンポジュウムを通して日本と中国の研究者相互の交流発展をもたらした.1980年代には会員が激増し,同グループに求める期待が多様化し,意見もさまざまに変化した.学会運営上の実務的な理由で哺乳類研究グループを日本哺乳動物学会と合併させるべきだという意見が先行し,1987年に日本哺乳類学会に合併・吸収されたが,それでも哺乳類研究グループの特徴が消失したわけではない.それ故ここでは同グループの創立や成長の過程を吟味し,それ故ここでは日本哺乳類学会の中で役立つ可能性を有する特徴はないかを検討した.

  • 阿部 永, 藤巻 裕蔵, 齊藤 隆, 大舘 智志, 佐藤 喜和
    2020 年 60 巻 1 号 p. 129-137
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/02/14
    ジャーナル フリー
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