2020 年 60 巻 2 号 p. 181-189
植生や季節,体重,性別,年齢などの様々な要因はニホンジカCervus nipponの行動パターンに影響を与えている.奈良公園におけるニホンジカの行動が幼獣・成獣メス・若オス・成獣オスの4つのサイズクラスで季節的にどのように異なるかを明らかにするために,日中(9:00~16:00)にニホンジカのルートセンサス調査を行った.年間を平均して草やリターの採食行動比率は体サイズが大きいほど小さかった.逆に人由来の餌に対しては,体サイズが大きい個体ほど採食行動比率が大きくなった.これは,競争によって他個体を排除して採食できたためであると考えられた.行動パターンの季節変化はサイズクラスによって異なった.どのサイズクラスでもシバが生育する時期には概ね草本類を採食し,秋に落葉や堅果類などが供給される時期には,これらのリターを採食していた.ただし,9月下旬~11月下旬に繁殖のための行動が活発化する成獣オスと若オスでは,採食(リター)の行動比率のピークが成獣メスと幼獣に比べて遅れた.気温が最も低下する1月と2月には,どのサイズクラスでも座って休息する時間が多くなった.