哺乳類科学
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報告
京丈山ワナバノ第一洞の九州産ツキノワグマ個体の特徴
北村 直司
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2021 年 61 巻 2 号 p. 261-271

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抄録

九州のツキノワグマ(Ursus thibetanus)は絶滅したとされ,残されている標本はごくわずかである.しかもその形態的特徴については明らかになっていない.1976年,九州山地京丈山ワナバノ第一洞から,ツキノワグマ頭骨標本が産出している.この標本(以下,京丈山標本)については,すでに年代測定および遺伝形質の調査結果が報告されている.2013年,筆者は,この洞穴を再発見・再調査し頭骨を除くほぼ全身のクマ類の体骨格を採取した.大腿骨の放射性炭素年代測定の結果,暦年較正年代は紀元前175年~紀元前42年であった.これは弥生時代前期に相当する.年代測定結果および形態の検討によりこれらの体骨格と京丈山標本とは,同一個体の雄に由来すると考えられた.京丈山標本についてアジア大陸および台湾産の5亜種31個体,日本産亜種の9地域個体群42個体の頭骨の計測値を比較した.計測値は,アジア大陸および台湾産よりは,日本産の範囲に含まれた.京丈山標本は,GLC(頭骨全長)が今回得られた日本産亜種の計測値の平均値に近いサイズであり,LMOL(左上顎M2の最大前後長)およびLLM2(左下顎第2臼歯最大前後長)がGLCに比して大きい特徴を示した.さらに日本産の7地域個体群40個体を用いた判別分析では,京丈山標本の第1,第2判別関数値が西中国の個体群の範囲に含まれた.これらの結果は先の遺伝形質調査結果と矛盾しない.

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© 2021 日本哺乳類学会
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