2025 年 65 巻 1 号 p. 1-8
福岡県篠栗町の九州大学農学部附属福岡演習林において2023年2月から2024年1月までの5回,ニホンジカCervus nippon(以下シカ)の糞を採集してポイント枠法で分析した.糞組成は2月は常緑広葉樹の葉を中心に生葉が42.1%を占め,残りは繊維と稈が主体であった.4月には生葉がやや減少し,繊維が大幅に増えた(45.8%).8月になるとイネ科の葉が11.2%,稈が56.5%に増え,シカが林外で採食することを示唆した.10月には葉がやや減少し,稈が減少(12.0%)して繊維が回復(39.0%)した.またツブラジイCastanopsis cuspidataと思われるドングリとヨウシュヤマゴボウPhytolacca americanaの種子が検出された.1月には生葉が最少(16.8%)になり,不明物質(35.1%)が増加した.調査地では2010年前後にシカが急増し,植生が貧弱になっており,シカの食性はそのことを反映して植物の生育期でも生葉の占有率が23–33%に過ぎなかった.