2025 年 65 巻 1 号 p. 9-17
多くの小型哺乳類は,寒冷や食物不足といった厳しい環境に曝されたとき,冬眠や日内休眠を利用して消費エネルギーを節約する.ハムスター類は種によって,冬眠を利用する冬眠動物と日内休眠のみを利用する日周性異温動物に大別される.ハムスター類のうち,冬眠を利用する種は体サイズが比較的大きく,日内休眠を利用する種は小さい傾向がみられるが,未だ休眠特性が明らかでない種も多い.キヌゲネズミ(Tscherskia triton)はハムスター類の中では体サイズが大きいが,冬期の環境適応については不明のままであった.本研究では,キヌゲネズミを短日光周期(8L:16D)・低温(5°C)といった冬期様環境に暴露することで休眠の誘導を試みた.その結果,自発的で可逆的な体温低下が観察され,体温が低下した持続時間は24時間を超えることはなく日周性が認められた.したがって,キヌゲネズミは自発日内休眠を利用する日周性異温動物であることが初めて明らかになった.