マーケティングジャーナル
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投稿査読論文
広告の物語性と情報提供性が広告態度に及ぼす影響
― 広告形式における表現特性の尺度開発と影響の検討 ―
福田 怜生
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2018 年 38 巻 2 号 p. 91-106

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Abstract

これまでの研究では,製品やブランドの情報を論理的に提示する情報提供型広告や登場人物の問題解決過程を描く物語型広告について,消費者の広告情報処理や,その広告形式の表現特性,効果が議論されてきた。しかし,それらの研究では,情報提供型広告の表現特性である情報提供性と物語型広告の表現特性である物語性の関係が明らかにされていなかった。そこで,本研究では,物語性尺度の邦訳と情報提供性尺度の開発を行ったうえで,物語性と情報提供性とが異なる次元の表現特性であることを示した。さらに,物語性と情報提供性の両者が高い物語情報提供型広告が存在することや,物語性が高い広告では,情報提供性が広告態度に及ぼす影響が弱まることを明らかにした。これらの結果は,各広告形式の広告効果や消費者の広告情報処理に関する先行研究を整理したり,消費者の広告情報処理に影響する要因を検討する際の理論的基盤となると考えられる。

I. はじめに

近年,ソーシャルメディアや動画配信サイトが普及したことにより,広告環境が大きく変化している。それらの媒体では,マス媒体(テレビ,ラジオなど)よりも長時間の広告を安価に露出できることから,登場人物が問題を乗り越えていく様を描くといった表現特性をもつ物語型の広告が多く見られるようになっている。その結果として,「感動」や「泣ける」「笑える」といった言葉がキーワードとなり,人々の共通の話題として取り上げられると共に,視聴者の行動や態度の変容を促している。その一方で広告製品やブランドの機能や性能を論理的に提示するといった表現特性をもつ情報提供型の広告もまた視聴者の行動や態度の変容を促している。

これまでの研究では,物語型広告の表現特性である物語性と,情報提供型広告の表現特性である情報提供性の関係が明示されていなかった。この2つの表現特性が異なる次元に位置するものだとすれば,物語性と情報提供性の両方が高い物語情報提供型広告が存在する可能性がある。そして,そのような広告形式が存在するとすれば,物語性と情報提供性それぞれの主効果と交互作用についても明らかにする必要がある。

そこで,本研究では,広告の表現特性である物語性と情報提供性の関係を明らかにし,物語性と情報提供性が広告態度にどのような影響を及ぼすかを明らかにする。またその検討に先立って必要となる物語性尺度の邦訳と情報提供性尺度の開発を行う。これらの結果は,広告形式の効果や,各広告形式に対する消費者の広告情報処理に関する先行研究を整理したり,製品関与や製品知識,認知欲求などその情報処理に影響する要因を検討する際の理論的基盤となると考えられる。

II. 情報提供型広告と物語型広告に関する研究

1. 情報提供型広告に関する研究

これまで広告の「情報」は,広告の表現と効果の2つの観点から扱われてきた。例えば,Aaker and Norris(1982)は,消費者に「有益な情報(informative)」を提供する広告がどのような特性を有するのかに着目している。Puto and Wells(1984)は,これを参考にしながら,消費者に有益な情報を提供する広告を情報型広告(informational advertising)と名付け,表現と効果の両面から「消費者に関心のある事実を明快で論理的な方法で提示することにより,そのブランドの購買決定において消費者により多くの自信を与える広告」(Kishi, 1993)と定義した。この定義では,「事実を明快で論理的な方法で提示する」という表現特性とともに,それがもたらす「購買決定において消費者により多くの自信を与える」という効果についても言及されている。

このPuto and Wells(1984)では,情報型広告の一般的特徴として,(1)その製品やブランドに関する情報が含まれること,(2)消費者にとって重要な情報が明確であること,(3)消費者が検証できる情報が含まれていることの3点を指摘している(p. 638)。さらに,ある広告がどの程度情報型広告らしいかを測定するための情報性尺度を開発し,この尺度によって,その広告が情報型広告か否かを判断できるとしている1)

一方,広告が個々の消費者にどのように解釈・理解されるかという情報処理の観点から考えると,消費者間で広告効果は一様ではないため,広告形式の定義にその効果を含めてしまうと広告形式を一意に定めることができない。この問題を避けるため,本稿では,Puto and Wellsらが定義した情報型広告の諸項目の中から表現に関する評価項目だけを抽出して問題を検討することとする。また,本稿では,これを情報提供型広告と呼び,「製品やブランドに関する事実を,明快で論理的な方法で提示している広告」と定義する2)

このような情報提供型広告に対する消費者の情報処理は,説得に関する二重過程モデルによって説明できるとされている(Kishi, 1993)。その理由は,説得に関する二重過程モデルでは,消費者が与えられた情報に対して認知的に反応したり合理的に判断することが想定されており(Fujihara & Koyama, 1988),情報提供型広告がその想定に合致するためである。

この二重過程モデルの一つである精緻化見込みモデルでは,説得メッセージに対する受け手の動機と能力が十分にある場合には分析的な処理を経て態度が形成されるのに対して,それら動機と能力のいずれか一方でも欠けた場合には直感的な処理を経て態度が形成されると想定されている。こうした動機や能力を規定する要因には,製品関与や認知欲求,製品知識などがあり,これらが十分にあれば論拠のような説得メッセージの中心的な情報が分析的に処理されるが,そうでない場合には,製品やサービスの推奨者(endorser)のような周辺的な情報が直感的に処理されると考えられている(Cacioppo, Petty, Kao, & Rodriguez, 1986; Chaiken, 1980)。そのため,情報提供型広告は,動機と能力の状態に応じて,分析的な処理か直感的な処理のいずれかになると考えられている(Escalas & Luce, 2003)。

2. 物語型広告に関する研究

物語型広告(narrative advertising)とは「問題解決に従事する登場人物が存在し一連の出来事や行動の結果が描かれている広告」(Escalas, 1998, p. 273)と定義される。物語型広告という語は,1980年代後半から使用され,二重過程モデルによって説明される情報提供型広告とは異なるものとして注目され,多くの研究がなされてきた(Deighton, Romer, & McQueen, 1989; van Laer, de Ruyter, Visconti, & Wetzels, 2014)。

物語型広告を検討した研究では,主にその表現特性や消費者の情報処理に関心が向けられてきた。表現特性を扱った研究では,記号論や物語論の知見が援用され,時間軸(Adaval & Wyer, 1998),登場人物の進展(Deighton et al., 1989; Stern, 1994),プロット(Deighton et al., 1989; Stern, 1994),広告内で生じる複数の出来事の因果関係(Stern, 1994)の存在,などが物語型の表現特性とされている。

Escalas(2004b)は,こうした表現特性を描くことによって物語としての質が向上すると考え,当該広告が物語型広告であるかどうかを測定する物語性尺度(narrative structure code)を開発した。この物語性尺度が開発された当初は,数名の評定者が当該広告の物語性を評定する手続きがとられていた(Escalas, Moore, & Britton, 2004; Escalas, 2004b)が,近年の研究では,多くの実験参加者が物語性を評定し,その平均値が比較対象とする広告形式より高いものを物語型広告とみなすという手続きがとられている(Chang, 2009; Wentzel, Tomczak, & Herrmann, 2010)。また物語性尺度を用いることで,当該広告が物語型か否かといった議論だけでなく,当該広告がどの程度物語性を有しているのかといった定量的な議論も可能になっている(Escalas & Stern, 2007)。

一方,物語型広告に対する消費者の情報処理に関する研究では,認知と感情の働きについて検討されている。これらの結果,認知的な反応としては,認知的共感(Deighton et al., 1989; Escalas & Stern, 2003; Stern, 1994)や,想像(Escalas, 2004b; MacInnis & Price, 1987; Petrova & Cialdini, 2008),分析的な思考の抑制(Escalas, 2004a),感情的な反応としては,感情的共感(Escalas & Stern, 2003; Stern, 1994),ポジティブ感情(Escalas et al., 2004; Escalas, 2004a)などが指摘されている。また,広告で生じる認知と感情の相互作用を捉えた「没頭」(Escalas et al., 2004; Green & Brock, 2000)といった概念も提唱されている。

例えばEscalas(2007)では,広告への没頭の有無によって,広告態度がどのように変化するかが検討されている3)。この実験では,ランニングシューズの広告を題材として広告の論拠の強弱が操作され,没頭がない場合には広告の論拠が広告態度に影響を及ぼすのに対し,没頭がある場合には,広告の論拠が広告態度に影響しなくなることが示されている。没頭における情報処理は,消費者の認知資源の多くが広告に向けられる状態であるが,同時に,分析的な思考が抑制されていることから,分析的な処理とも直感的な処理とも異なっている。その原因として,没頭した消費者が広告製品の機能や性能に関する情報よりも広告のシナリオや展開に対して注意を向けている可能性が指摘されている(Fukuda, 2015)。

また,製品関与度と物語型広告の情報処理との関係を検討した研究では,製品関与度が高い消費者は,物語型広告の論拠が広告態度に及ぼす影響が弱いことが報告されている(Fukuda & Fukami, 2015)。この結果は,認知資源が多いとされる製品関与度の高い消費者は広告を分析的に処理していないことを示しており,物語型広告に対する情報処理が二重過程モデルでは説明困難であることを示している。

このように,物語型広告に関する研究は,表現特性と情報処理の両方のアプローチから行われてきた。その結果,表現特性を捉えた物語性尺度(Escalas, 2004b)によって物語型広告を規定できたり広告の効果が予測できるといった成果を得られた。さらに,消費者の情報処理に関する研究アプローチでは,共感や没頭などの概念が提唱され,こうした概念によって,物語型広告が高い広告効果をもつことが説明・予測されてきた。

3. 先行研究の課題

これまでの研究では,物語型広告の特性である物語性と情報提供型広告の特性である情報提供性との間の概念関係は明示されてこなかった(e.g., Polyorat, Alden, & Kim, 2007)。一方,物語型広告の比較対象の多くは,情報提供型広告とされ,それらの広告間での情報処理や効果の差異が検討されてきた。しかし,現実の広告では,登場人物が抱える問題や抱く感情・思考を一連の時間軸に沿って描きながら,同時に広告製品の機能や性能を論理的に訴求する広告が存在するように思われる。このことは,物語性と情報提供性とが異なる次元の表現特性であることを意味している。もし,これらの両特性が高い広告が存在するならば,物語性と情報提供性それぞれ単独の効果とあわせて,それらの相互作用についての検討が必要となる。

一方,上記の課題に取り組むためには情報提供性の尺度が必要となる。Puto and Wells(1984)が開発した情報性尺度は広告の「効果」に関する項目から構成され,表現特性を反映したものではないため,広告の「表現」に関する項目から構成された情報提供性尺度を開発することが必要である4)。一方の物語性尺度については,「表現」に関する項目から構成されており,尺度の妥当性も確認されているが,日本語への翻訳作業が必要となる。

以上のことより,本研究では,物語性と情報提供性の関係を明らかにし,それらが広告態度に及ぼす単独の効果と相互作用について検討する。さらに,この検討を進めるために,既存の物語性尺度の邦訳を行い,その物語性尺度を基準としながら,広告の「表現」に関する項目から構成された情報提供性尺度の開発を行う。

III. 研究課題への取り組み及び仮説の設定

1. 物語性と情報提供性の関係

従来の研究では,物語型広告の表現特性である物語性と情報提供型広告の表現特性である情報提供性との関係は明示されてこなかった。しかし,物語型広告には,登場人物の思考や感情,問題解決過程などを含むという特性をもち,情報提供型広告には,製品やブランドに関する情報を客観的な情報を用いて論理的に訴求するという特性をもつ。これら二つの表現特性は両立する,すなわち,製品情報を物語の中で論理的に伝達することも可能と考えられる。実際に,情報型広告と変換型広告の概念を検討した研究では,それらの特性は相互排他的ではなく,同一の広告が情報型でありかつ変換型である可能性が指摘されている(Puto & Wells, 1984; Kishi, 1993)。

このようなことから,一つの広告が,物語型広告でありながら情報提供型広告である可能性を想定し,仮説1を設定する。

仮説1,物語性と情報提供性は,異なる次元の表現特性である。したがって,物語性と情報提供性が共に高い広告(以下,物語情報提供型広告)が存在する。

2. 情報提供性,物語性,及び両者の相互作用が広告態度に及ぼす影響

まず,物語性と情報提供性それぞれ単独の影響について仮説を設定する。

物語性とは,登場人物の思考や感情,また広告に描かれる一連の出来事がどの程度描かれているかを表す広告特性であり,広告効果を向上させることが示されてきた(Escalas & Stern, 2007)。こうした特性は,物語性が登場人物の思考や感情への理解を深めたり登場人物に対する感情生起につながったりすることに起因していると思われる。同時に,こうした反応は,温かな気持ちや満足感などのポジティブ感情の生起に結びついたり,分析的な思考を抑制することから,物語性は広告に対する好ましい態度をもたらすものと考えられる。

仮説2,物語性は広告態度に正の影響を及ぼす。

一方,情報提供性は,製品やブランドに関する事実を明快で論理的な方法で提示している程度を表している。製品の特徴を明確に述べ論理的に訴求することは,広告の説得力にも影響する(McGuire, 1969)。こうした広告の説得力は,説得メッセージに対する態度をポジティブに導く(Petty, Cacioppo, & Schumann, 1983)。そのため,情報提供性は広告態度に正の影響を及ぼすと考えられる。

仮説3,情報提供性は広告態度に正の影響を及ぼす。

仮説1にある物語情報提供型広告が存在するならば,その種の広告において,物語性と情報提供性それぞれは,どのような影響をもつのだろうか。物語型広告に関する研究では,物語型広告に対して消費者は,シナリオや展開に対して多くの注意を向けるため,その他の情報を精査するための認知資源が不足することが知られている(e.g., Escalas, 2004a, 2007; Escalas & Luce, 2004)。このことを踏まえると,物語性だけでなく,情報提供性も高い広告である物語情報提供型広告では,消費者の注意がシナリオの展開などの物語に向けられ,製品やブランドに対する情報を精査するための認知資源が不足する可能性が指摘される。そのため,物語性が高い広告では,情報提供性が広告態度に及ぼす影響が弱まると考えられる。また,物語性も情報提供性も高い物語情報提供型広告では,物語性が低く情報提供性が高い情報提供型広告よりも情報提供性が広告態度に及ぼす影響が弱いと思われる。

仮説4,物語性が高い広告では,情報提供性が広告態度に及ぼす影響が弱まる。

本研究では,仮説1から仮説4までを検討するため,広告電通賞を受賞した広告を用いて二つの実験を行った5)

3. 物語性尺度の翻訳と情報提供性尺度の開発

まず,既存の物語性尺度(Escalas, 2004b)を日本語に翻訳した6)。翻訳した結果に対してネイティブチェックを行い,原文と翻訳文とで意味内容が一致していることを確認した7)。次に,情報提供性尺度を開発するために,以下の三つの手続きをとった。

(1) 既存の情報性尺度の翻訳

既存の情報性尺度(Puto & Wells, 1984)を日本語に翻訳する際には,Puto and Wells(1984)の情報性尺度(全8項目)を対象とした。物語性尺度と同様の手順で本尺度を翻訳し,ネイティブチェックを行い原文との意味内容が一致していることを確認した。

(2) 既存の情報性尺度の評定

既存の情報性尺度の中から表現特性に関する項目を抽出するために,各項目が「広告の表現(広告の描写やメッセージ内容)を測定する項目」「広告の効果(視聴した消費者の反応)を測定する項目」「それ以外を測定する項目」のいずれに該当するかどうかについて,マーケティング論を専門とする3名の研究者に判断させた。その結果,情報性尺度8項目のうち5項目が「広告の効果を測定する項目」であると全評定者に判断され,「広告主は,広告の訴求内容を支持するための証拠を供給することが出来ると思う」という1項目が「広告の表現と効果以外を測定する項目」であると全評定者に判断された。さらに「広告では,このブランドと他のブランドを差別化するような特別な訴求はなされていなかった」,「広告は,その製品を購買するときに注目すべき点について訴求されていなかった」の2項目は「表現特性を測定する項目」であると全評定者に判断された8)。一方,「広告は情報の価値が全くなかった」の1項目は,2名の評定者に「広告の効果を測定する項目」と判断され残りの1名の評定者に「広告の表現を測定する項目」と判断された。評定者間で討議した結果,この項目は,「広告の効果を測定する項目」に分類された。なお,3名の評定者の一致率は十分に高かった(κ=851, p<.01)。この時点で「広告の表現を測定する項目」と判断された項目は2つだけであり,物語性尺度(6項目)と比較して項目数が少ないことから,広告を適切に測定できないことが危惧された。そこで,新たな項目を追加する(3)の作業を行うこととした。

(3) 追加項目の構築

情報型広告と変換型広告を分類した研究では,定義に当てはまる程度を情報型広告の測定尺度としている(e.g., Kishi, 1993)。また,尺度項目を構築する方法の一つに,測定対象概念の定義から構築する方法がある(Yokouchi, 2007)。これらのことから,本研究でも,定義から情報提供型広告の尺度項目を抽出することとした9)。先の3名に著者を加えた4名が討議し,情報提供型広告の定義の中から「事実の提示」「情報の明確さ」「情報の論理性」といった3つのキーワード10)をもとに測定項目を抽出した11)

追加した項目が表現に関する項目であるのかを確認するため,同じ3名の評定者に判断させた。その結果,物語性6項目と情報提供性5項目を含めた合計11項目全てについて表現に関する項目であると判断されたことから,最後に,実験によりそれらの信頼性と妥当性(弁別妥当性,予測的妥当性)を確認することとした12)

IV. 実験1

1. 方法

参加者 調査会社(マーケティング・アプリケーションズ社)にモニターとして登録されている20歳~40歳(平均34歳,標準偏差5.290歳)の121名(男性53名,女性67名)であった。

題材 第62回から第67回の広告電通賞を受賞した広告3種(栄養補助食品の広告(タレントが歌を歌い受験生を応援するもの)栄養補助食品,大人用紙おむつの広告(障がいを負ったスポーツ選手が広告の大人用紙おむつの使用感について語っているもの),筆記用具の広告(登場人物が作文用紙に書かれた文字を消すもの)であった。これら広告は,(1)内容が当該広告で完結している(他の広告の続編となっていない,ウェブへの誘導がない広告である),(2)十分な品質をもつ広告である(広告電通賞における各部門の最優秀賞あるいは,テレビ広告電通賞,準電通賞を受賞)の二点を満たしていた。

手続き 調査会社のウェブ上で実施された。ウェブにアクセスした参加者は,実験材料の広告を見るために再生ボタンを押すように求められた。広告は,再生ボタンを押すと3秒間カウントダウン表示の後に再生されるように設定されていた。参加者は,広告を視聴した直後に,物語性尺度6項目,情報提供性尺度5項目,広告態度3項目に回答するよう求められた(表1)。これらの尺度は全て5段階で測定された(1:全く当てはまらない~5:非常に当てはまる)。3種の実験材料ともに,同じ手続きがとられた後,各広告内容を適切に視聴したかを確認するための設問が課された。この設問では,各広告のキャプチャ画像が一枚ずつ(計3枚)呈示され,その広告に登場する製品カテゴリを7種類のうちから強制選択するよう求められた。以下の分析では,この設問に正答した回答のみを対象とした(栄養補助食品119名,大人用紙おむつ117名,筆記用具117名)。

表1

実験で利用した尺度項目

※実験1の因子分析の結果を踏まえ,その後の分析では,除外された項目

2. 結果

まず,作成した情報提供性尺度と物語性尺度とが異なる因子となるかどうかを確認するために,情報提供性尺度5項目,物語性尺度6項目の合計11項目について探索的因子分析(最尤法,バリマックス回転)を行った。その際,参加者×広告でデータをプーリングした(N=353)。因子分析の結果,固有値1以上の因子が2つ抽出された。これらの因子を構成する尺度については,Escalas(2004b)が先行研究から開発した物語性尺度5項目は第2因子に対応していた。一方,Escalas(2004b)が独自に開発した物語性尺度1項目「一般的・抽象的なことよりも,具体的な出来事を描いていた」は第1因子に対応していた。ただし,この項目の因子負荷量は0.491(第1因子)と0.477(第2因子)であり,両者の値はほぼ同等であった。

そこで,両者の因子に対し同等の因子負荷量を示していた「一般的・抽象的なことよりも,具体的な出来事を描いていた」の項目を除外した物語性5項目と情報提供性5項目の合計10項目について再度因子分析を行った。その結果,固有値1以上の因子が2つ抽出され,第1因子は情報提供性5項目,第2因子は物語性5項目であった(表2)。各因子についての尺度としての信頼性を検討するためにCronbachのα係数を算出したところ,第1因子が0.900,第2因子が0.895であり,高い内的整合性が確認された。そこで,第1因子を情報提供性因子,第2因子を物語性因子とした。さらにItem-Total相関(I-T相関)を見たところ,情報提供性5項目の評定平均値と下位項目との相関係数は全て0.700以上であり,また物語性5項目の評定平均値と下位項目との相関係数は,全て0.700以上であった。したがってI-T相関の値からも高い内的整合性が確認された。

表2

実験1の物語性と情報提供性の因子分析結果

次に,各広告の形式を確認するため,各広告における物語性及び情報提供性の評定平均値を算出し(図1),それらの評定平均値間に統計的有意差があるかを検討した。また当該広告の広告形式を判定するために,Escalas(2004b)Puto and Wells(1984)の基準に倣い,物語性と情報提供性それぞれの評定平均値を中間的な選択肢の値(3:どちらともいえない)と比較した。

図1

実験1:各得点の平均値

※エラーバーは標準誤差

まず栄養補助食品の広告は,物語性(M=3.198)の方が情報提供性(M=.2.726)よりも有意に高かった(t(118)=7.118, p<.01, d=.583)。また,物語性の評定平均値は中間的な選択肢の値(3:どちらともいえない)と比較して,有意に高く(p<.01),情報提供性の評定平均値は有意に低かった(p<.01)。物語性が高く,情報提供性が低かったことから,栄養補助食品の広告は物語型広告と判定された。

次に,大人用紙おむつの広告について同様に分析したところ,物語性(M=3.521)の方が情報提供性(M=3.431)よりも有意に高かった(t(116)=2.031, p<.05, d=.120)が,それらいずれの評定平均値も中間的な選択肢の値よりも有意に高かった(p<.01)。ただし,物語性と情報提供性との評定平均値の差の効果量は小さく13),情報提供性,物語性の両評定平均値が中間的な選択肢の値よりも有意に高かったことから,大人用紙おむつの広告は物語情報提供型広告と判定された。

最後に,筆記用具の広告について分析した結果,情報提供性(M=3.605)の方が物語性(M=2.569)よりも有意に高かった(t(116)=11.496, p<.01, d=1.315)。また,中間的な選択肢の値よりも,物語性の評定平均値は有意に低く(p<.01),情報提供性の評定平均値は有意に高かった(p<.01)。したがって,筆記用具の広告は情報提供型広告と判定された。

実験1の因子分析の結果,物語性と情報提供性が異なる因子として抽出された。また,それらの各評定平均値を用いて広告形式を確認したところ,物語型広告,情報提供型広告に加え,物語情報提供型広告の存在が確認された。したがって物語性と情報提供性は,異なる次元の表現特性であり,また物語性と情報提供性が高い広告(物語情報提供型広告)が存在するとした仮説1は支持された。

次に仮説2,3,4に関わる物語性及び情報提供性が広告態度に及ぼす影響を検討するため,参加者×広告でプーリングしたデータについて,物語性の評定平均値,情報提供性尺度の評定平均値,及びこれらの交互作用項を独立変数とし,広告態度を従属変数とした重回帰分析(強制投入法)を行った(表3)。モデルの調整済み決定係数は0.343であり,物語性と情報提供性は,どちらも広告態度に有意な正の影響を及ぼしていた。各影響の標準化係数は,物語性が0.387(p<.01),情報提供性が0.305(p<.01)であった。これらの結果から,「物語性が広告態度に正の影響を及ぼす」とした仮説2と「情報提供性が広告態度に正の影響を及ぼす」とした仮説3はどちらも支持された。また,物語性と情報提供性の交互作用項が広告態度に及ぼす影響を見ると,この交互作用項は,広告態度に有意な負の影響を示していた(β=–.114, p<.05)。そこで物語性をスライス要因(±1標準偏差)として,重回帰分析における単純主効果検定を行った結果(表4),物語性が高い条件では低い条件と比較して,情報提供性が広告態度に及ぼす影響が弱まることが示された。この結果は,仮説4を支持するものである。

表3

実験1の重回帰分析の結果

** p<.01, * p<.05

表4

実験1重回帰分析における単純主効果の検定結果

** p<.01, * p<.05

次に,物語情報提供型広告と情報提供型広告それぞれにおいて,物語性と情報提供性が広告態度に及ぼす影響を検討した。情報提供型広告(筆記用具)と比較して,物語情報提供型広告(大人用紙おむつ)の方が,情報提供性が広告態度に及ぼす影響が弱いのであれば,仮説4が再度支持される。そこで,まず情報提供型広告(筆記用具)について広告態度を従属変数,物語性及び情報提供性を独立変数とした重回帰分析(強制投入法)を行った結果,各影響の標準化係数は,物語性が0.296(p<.01),情報提供性が0.529(p<.01)であり,情報提供性の方が強い影響を及ぼしていた。次に,物語情報提供型広告(大人用紙おむつ)について,同様に分析を行ったところ,各影響の標準化係数は,物語性が0.399(p<.01)で有意であったのに対し,情報提供性は0.224(p=.09)で有意傾向であった。物語情報提供型広告では,情報提供型広告よりも,情報提供性が広告態度に及ぼす影響が弱かったことから,仮説4は再度支持された14)

3. 考察

実験1の目的は,新たに作成した情報提供性尺度と物語性尺度の妥当性と信頼性を確認し,仮説1~4を検討することであった。そこで,一般消費者を対象に,広告電通賞を受賞した3種の広告を題材に実験を行った。

実験の結果,各尺度の妥当性と信頼性が高いことが確認された。ただし,従来用いられてきた物語性尺度のうち1項目については,情報提供性と関連が強い項目であることから削除すべき項目であることが示された。この項目は,Escalas(2004b)が独自に追加した項目であり,記号論や物語論で指摘されてきた知見とは無関係な項目であるため,削除することは妥当であると思われる。

また,これまでの研究では物語性と情報提供性との関係が明示されてこなかったが,実験1の結果,物語性と情報提供性は広告形式についての異なる次元の表現特性であることや物語性と情報提供性の両方が高い広告が存在すること(仮説1)が確認された。また,広告態度に及ぼす物語性と情報提供性の単独の効果と相互作用について分析したところ,仮説2,3で予測したように,物語性と情報提供性のそれぞれが広告態度に正の影響を及ぼすことが示された。この結果から,尺度に予測的妥当性があることも確認された。一方,物語性と情報提供性の相互作用は負の影響を示しており,物語性が高い条件では情報提供性の影響が弱まることが示されたことから,仮説4は支持された。これは,物語性が高い広告に対する態度は,広告の情報を精査した結果ではなく,物語に登場する人物への共感やポジティブ感情が引き起こされた結果であるとした知見(Escalas, 2004a, 2007; Green & Brock, 2000)にも一致する。

ただし,実験1で用いられた広告は,各広告形式につき1種ずつ計3種の広告のみであった。そのため,実験1で得られた結果をすぐさま一般化することは困難である。そこで,実験2では,対象とする広告の数を79本に増やし,4名の評定者による詳細な評定を行うことで,仮説1~4を再検証した。

V. 実験2

1. 方法

題材 広告電通賞の第60回~第68回で入賞したテレビ広告79本。長さは,15秒8本,30秒42本,60秒18本,90秒6本,120秒5本,受賞内容は,各部門の最優秀賞(33本),優秀賞(37本),テレビ広告電通賞(6本),準テレビ広告電通賞(3本)であった。

参加者 都内四年制大学の学生4名(男性2名,女性2名)。

手続き 実験者が作成したWebページ上で実施され,各広告あたり2名(男性1名,女性1名)が評定者として割り当てられた。その結果,各評定者あたりでは39本または40本の広告が割り当てられた。評定者は,各広告を視聴した直後に所定の尺度を用いて評定するよう求められた。この尺度は,実験1と同じものが用いられた。なお,各広告内容を適切に視聴したかを確認するための設問は課せられなかった。

2. 結果

各広告で,評定者間での評定値の一致率を確認したところ,十分に高かった(39本群,Kendall W=.71, p<.01; 40本群,Kendall W=.77 p<.01)ため,以下の分析では,2名の評定者の平均評定値が用いられた15)。まず実験1と同様の因子が再現されるかを確認するため,探索的因子分析(最尤法,バリマックス回転)を行ったところ,固有値1基準において2因子が抽出された。そこで各因子の構成項目を確認したところ,実験1と同様の構成項目が確認されたため,第1因子を情報提供性因子,第2因子を物語性因子とした(表5)。また,Chronbachのα係数を算出したところ,物語性は0.920,情報提供性は0.937であった。さらに,I-T相関を見たところ,物語性5項目の評定平均値と,下位項目との相関係数は0.800以上であり,情報提供性5項目の評定平均値と下位項目との相関係数は0.700以上であった。これらのことから内的整合性は十分に高いことが示された。したがって実験1の因子分析の結果と類似した結果が確認された。

表5

実験2の物語性と情報提供性の因子分析結果

次に各広告の形式を判定した結果は,物語型広告が23本(29.1%),情報提供型広告が12本(15.2%),物語情報提供型広告が19本(24.1%)であった。また物語性も情報提供性も低い広告は25本(31.6%)であった(表6)。なお,実験1で用いられた広告は,実験2においても同じ形式として判定された。

表6

実験2の題材の判定結果

※カッコ内は標準偏差

物語性と情報提供性が異なる因子として抽出されたこと,そして物語情報提供型広告が相当数確認されたこと,さらにそれら広告における物語性と情報提供性が共に十分に高かったことから,仮説1は再度支持された。

仮説2,3,4について検討するため,各広告に対する広告態度(α=.97)を従属変数とし,物語性と情報提供性及び,両者の交互作用項を独立変数として,重回帰分析(強制投入法)を行った(表716)。その結果,モデルの調整済み決定係数は0.374となり,各独立変数の影響(標準化係数)は,物語性が広告態度に有意な正の影響を及ぼし(β=.425, p<.01),情報提供性も広告態度に有意な正の影響を及ぼしていた(β=.371, p<.01)。これらのことから,仮説2,仮説3は再度支持された。さらに,物語性と情報提供性の交互作用項の影響を見ると,有意な負の影響を示していた(β=–.199, p<.05)。そこで,物語性をスライス要因(±1標準偏差)として,重回帰分析における単純主効果検定を行ったところ(表8),物語性が低い条件では,情報提供性が広告態度に有意な影響を及ぼしていた(β=.571, p<.01)のに対し,物語性が高い条件では,その影響がなくなることが示された(β=.171, p>.10, n.s.)。これらの結果から仮説4も再度支持された。

表7

実験2の重回帰分析の結果

** p<.01, * p<.05

表8

実験2重回帰分析における単純主効果の検定結果

** p<.01, * p<.05

最後に追加分析として,広告の長さ(秒数)を独立変数,物語性または情報提供性を媒介変数とし,これらが広告態度に及ぼす影響を検討した(図2,ブートストラップ法,B=2000)。その際,各広告の長さは5段階に変換され分析された(15秒を1,30秒を2,60秒を3,90秒を4,120秒を5)。媒介分析の結果,広告の長さは情報提供性を媒介していない(Z<1, n.s.)が,物語性を媒介して広告態度に影響していることが示された(Z=2.303, p<.05)。この間接効果の標準化係数は,0.126であった17)。また,間接効果を仮定した場合でも,広告の長さは広告態度に正の影響を及ぼしていた。したがって,広告の長さが物語性を媒介して広告態度に影響するモデルは,部分媒介モデルであることが示された。

図2

媒介分析の結果

※数値は標準化係数

** p<.01

3. 考察

実験1が少数の実験題材で行われていたという問題に対応するため,実験2では79本の広告を題材とし,また4名の評定者を用いたところ,実験1で得られた仮説1~4を支持する結果が再現された。このことから,仮説1~4は支持された。実験1では,物語性が高い条件において,情報提供性が広告態度に及ぼす影響は,弱まるものの有意であったのに対し,実験2では,その影響が弱まるだけでなく非有意になることが確認された。実験2の結果は,物語性が高い広告では低い広告よりも,情報提供性の効果が弱まるとする仮説4により合致するものである。

追加分析として,広告の長さを独立変数,物語性または情報提供性を媒介変数,広告態度を従属変数とした媒介分析を行った結果,広告の長さが物語性を媒介して広告態度に及ぼす影響が確認された。一方,広告の長さは情報提供性を媒介していなかった。これは広告の長さが長いほど,登場人物の目標や問題解決過程を消費者に訴求しやすくなるのに対し製品やブランドの特徴や性能は広告の長さに関わらず十分に訴求できることを示唆している。一方,この間接効果を仮定した場合においても,広告の長さの直接効果は有意であった。広告の長さが広告態度に正の影響を直接及ぼすとは考えづらいことから,秒数と広告態度を媒介する他の要因を検討する必要性も示唆された。

VI. インプリケーションと今後の課題

本研究では,物語性と情報提供性が異なる次元の表現特性であることを確認し,それらが広告態度に及ぼす影響を検討した。そして,この検討に必要となる情報提供性尺度を開発した。実験の結果,物語性と情報提供性が共に高い広告が存在することが示された。また,各広告の物語性と情報提供性が広告態度に及ぼす影響を見ると,それぞれが正の影響を及ぼすが,物語性が高い条件では,情報提供性の影響が弱まることが示された。

本研究の学術的貢献は,物語性と情報提供性は,広告形式に関する異なる次元の特性であることを示唆したことである。先行研究の実験題材の中には,製品やブランドの特徴や性能を詳しく訴求した物語型広告を題材とした場合(e.g., Chang, 2009; Wentzel et al., 2010)と,訴求されていない物語型広告を題材とした場合(Escalas, 2004b)とがある。本研究の結果からみると,前者は物語情報提供型広告,後者は物語型広告として捉えることができる。本研究の結果から,こうした差異に注目して,それぞれの広告効果と情報処理を再度比較検討する必要性が示唆される。

また,本研究は,実務的な示唆を含むものでもある。まず,本研究では,既存の物語性の尺度を日本語に翻訳し,情報提供性の尺度を新たに開発した。これらの尺度は,予測的妥当性を有しており,双方が広告態度に影響を及ぼすことが確認された。また,物語性と情報提供性の両者が低いものは,他の3種の広告形式と比較して,広告態度の得点が低いことから,広告効果指標として広告態度を用いる場合には,物語性と情報提供性の,どちらか一方,あるいは両者を向上させる必要性が示された。また,このように広告立案者がより広告効果の高い広告を作成する際には,本研究で開発された尺度を基準として用いることが可能である。

本研究と先行研究を踏まえて,各広告形式が有効に機能する状況をターゲットとする消費者との関係の中で考えてみたい。これまでの研究によって,物語型広告は,没入を向上させ広告態度をポジティブに導くことを通して,ブランド態度や自己とブランドとの結びつきを強化することが示されている。また,没入状態にある消費者の広告情報処理では,広告メッセージの論拠に対する分析的な思考が抑制されることも示されている。これらのことから,物語型広告及び物語情報提供型広告は,製品やブランドの基本的な機能での差別化が困難となっているブランド価値を高めるための有効なコミュニケーション手段となることが推察される。

ただし,物語性が高い広告では情報提供性の影響が弱まるという結果から,広告物語性が高い場合には,消費者が製品やブランドの機能や性能について十分な注意を向けていない可能性が示唆される。したがって,製品やブランドの基本的な機能が差別化できている場合には,物語情報提供型広告よりも情報提供型広告の方がより適した広告形式である。

また物語性が高い広告に適した広告媒体としては,インターネット媒体が最も有力な候補の一つとして挙げられる。実験2で示されたように,一定以上の長さの広告の方が,物語性が高い広告に適している。その意味で,インターネット媒体は,テレビ媒体と比較して長時間の広告を安価に露出できるため,物語性が高い広告,つまり物語型広告や物語情報提供型広告に適した媒体といえる。

一方,情報提供型広告は,製品やブランドに関する事実を明快で論理的な方法で提示している広告であり,広告処理への動機づけや能力が高い消費者は分析的に処理するのに対して,そうでない消費者は直感的に処理するとされている。したがって,情報提供型広告の広告効果を高めるためには,情報提供性を高めることとあわせて,広告処理への動機づけや能力が高い消費者に対しては,製品やブランドの中心的な情報(例えば,広告メッセージの論拠)に重点をおき,それ以外の消費者に対しては,製品やブランドの周辺的な情報(例えば,推奨者の専門性)に重点をおくことが求められる。

本研究で作成した物語性尺度と情報提供性尺度は,広告立案者が広告媒体に適した広告形式を検討することにも役立つと思われる。また,これらの尺度は,当該広告が各マーケティングコミュニケーション目標を達成する広告形式として適切かどうかを判断するためにも有効に活用できる。

最後に,今後の課題について言及する。物語性が高い広告において情報提供性の影響が弱まる原因として,本研究では,製品やブランドに対する情報を精査するための認知資源が不足するという説明をした。しかし,左記の条件で,認知資源の不足が直接確認されたわけではない。そのため,本研究では刺激と反応との関係のみを扱っていることとなる。先行研究では,同様の条件で,広告の情報処理を直接測定したり,能力や動機づけといった消費者内要因を操作することによって,上の説明を支持するデータを提示している。今後の研究では,これらの方法を採用したり,広告内容の属性をより多元的に考慮することによって,刺激と反応を媒介する消費者の広告情報処理についてより詳しく検討する必要がある。

本研究では,題材として十分な品質の広告を用いるために広告電通賞を受賞した広告を用いているが,しかし,それらは一般に放映されている広告を代表しているとは言い難い。また本研究で用いられた広告には様々な製品カテゴリが含まれていた。また,実験2では,4名の評定者と79本の広告を利用し,広告を広告表現で分類するとともに,広告表現が広告態度に及ぼす影響について検討を行った。しかし,広告表現が広告態度に及ぼす影響を明らかにするには,十分な人数であるとは言い難い。本研究の知見を一般化するために,今後の研究では,同一カテゴリの製品について広告の表現特性だけを操作するとともに,実験参加者の人数を増した検討が必要であろう。

また各表現特性の下位要素が,それぞれ広告効果に及ぼす影響を明らかにできれば,マーケティングコミュニケーションの目標に応じて最適な形式の広告を構成できるようになると思われる。このように,本研究には課題が多く残されているが,物語性と情報提供性との関係を明確にしたうえで,両方の特性を併せ持つ広告形式における物語性と情報提供性の影響を明らかにした。また,尺度の翻訳と開発を行ったことにより,物語型広告とその他の広告とを比較する枠組みを作った。これらの点は,企業が広告形式を検討する際や,今後の広告形式に関する研究の発展に寄与するものである。

謝辞

本研究の実験2は,吉田秀雄記念事業財団第49次研究助成(大学院生の部)に採択された研究課題の一環として実施されたものである。

1)  Puto and Wells(1984)によると,情報型広告と変換型広告とは相互排他的な概念ではなく,情報性と変換性が共に高い広告も存在する。一方,Puto and Wells(1984)の定義に準拠することで各広告形式が排他的に分類できることを示した研究もある。Laskey, Day, and Crask(1989)は,840のテレビCMを,5名の評定者にPuto and Wells(1984)の定義に基づいて分類させたところ,90%の一致率で,情報型と変換型とに排他的に分類されたことを示している。

2)  Puto and Wells(1984)以降,情報型という語を消費者の購買動機の種類に関する概念としてとして扱う研究が登場する。例えば,Rossiter and Parcy(1997)は,消費者の動機を情報型タイプと変換型タイプとに二分して,それぞれについて,製品関与度の高低を組み合わせることで,消費者を4つのセルに分類する枠組み(ロシターパーシグリット)を構築した。これは,各セルの消費者に適した広告表現を示唆するものとなっていることから,広告の製作へのヒントとして用いられている。このロシターパーシグリットでは,「情報型動機の消費者」には否定的動機を解決する広告表現が効果的であり,「変換型動機の消費者」には肯定的動機を促進する広告表現が効果的なことが指摘されている。本研究で扱う情報提供型とロシターパーシグリットにおける情報型は異なるものである。

3)  Escalas(2004a, 2007)の実験題材は,登場人物が存在しないものであり,物語型広告の定義にあてはまるものではない。しかし,没頭が,分析的な思考を抑制し,ポジティブ感情を促進するモデルを構築することが確認されている。物語性が移入を促進する(Ando, 2015)ことを踏まえると,この結果は,物語型広告にも適用できると思われる。

4)  Puto and Wells(1984)自体も,尺度を開発する際には,定義及び当該概念に対応した尺度項目を構築する必要があるとしている。

5)  広告電通賞を受賞した広告を用いた理由は,十分な品質が保たれた広告と想定できるためである。

6)  翻訳作業では,Shimomura(2010)を参考にした。

7)  尺度開発に言及したMurakami(2012)では,尺度項目の執筆時には,平易な表現でない場合には表現を修正する必要があることが指摘されていることから,本稿の執筆時には,これに倣った。

8)  情報性尺度の表現特性を測定する2項目は逆転項目である。逆転項目は,正項目と異なる因子として抽出される傾向にある(e.g., Osanai & Kusumi, 2016)ことから,尺度に取り入れる際には,逆転項目を正項目に修正する必要がある。

9)  Resnik and Stern(1977)では,広告に有用な情報が含まれているかどうかを内容分析するための14項目からなる尺度が開発されている。しかしこの尺度は,内容分析を目的としたものであるため,当該広告に含まれる情報が「どのような対象に関するものなのか」を測定する項目から構成されている。例えば「価格」や「保証」に関する情報が有用であったかなどの測定項目である。これらの項目間の相関関係が低く,1因子として収束しないことが想定されることから,本研究では測定項目に取り入れなかった。

10)  Kishi(1993)においても,Puto and Wells(1984)による情報型広告の定義の中で,「事実の提示」や「論理的な方法」といった語が広告表現を測定するものであることが示唆されている(p. 49)。

11)  情報提供性尺度を開発する際には,広告の表現としての情報がどのような対象に関するものかということを考慮する必要がある。Puto and Wells(1984)の情報性尺度では,8項目における対象がブランドと製品になっている。また本研究の情報提供型の定義もブランドと製品を対象としていることから,情報の対象を製品(サービス)とブランドとした。

12)  信頼性は,Chronbachのα係数が0.700以上であると十分な信頼性があると判断される(Hair et al., 2009)。一方,弁別妥当性は,物語性尺度と情報提供性尺度の測定結果を因子分析した結果,情報提供性尺度と物語性尺度が異なる因子として抽出された場合に,弁別妥当性が担保されていると判断される。さらに,予測的妥当性は,情報提供性尺度が広告態度を予測できる場合に担保されていると判断される。

13)  効果量の大きさの目安は,Mizumoto and Takeuchi(2008)を参考とした。

14)  栄養補助食品の広告は物語性の影響のみが有意(β=.574, p<.01,調整済み決定係数=.384)であった。

15)  一般的に,広告態度には,消費者要因(製品関与度,話題関与度,広告内容に関する知識など)が影響するため,少数のサンプルを用いて広告態度が検討されることは少ない。しかし,広告態度と表現特性のそれぞれ評定者間信頼性をみたところ,広告態度(39本群:Kendall W=0.642 p<.05,40本群:Kendall W=.679, p=.01),表現特性(39本群:Kendall W=0.785 p<.01,40本群:Kendall W=.713, p<.01)と,いずれの変数の一致率も高かった。また,実験1においても,物語性,情報提供性,及びその交互作用が及ぼす影響の方向が同じであることや有意性が同等であることから,これらの影響に関する仮説は支持されたと考えられる。

16)  各広告形式における個別の回帰分析は,サンプル・サイズが少ないため行われなかった。

17)  間接効果の検定法にはSobel検定が用いられた。

福田 怜生(ふくだ れお)

亜細亜大学経営学部経営学科専任講師。専門は消費者行動論,マーケティングコミュニケーション論。2013年学習院大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。2016年学習院大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得退学。

References
 
© 2018 The Author(s).
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