マーケティングジャーナル
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巻頭言・新編集委員長挨拶
企業によるユーザー・イノベーションの有効活用
西川 英彦
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2019 年 39 巻 2 号 p. 3-5

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Abstract
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In recent years, there have been many reports of “User Innovation”, in which companies and consumers that are users of products and services develop and improve these products and services for their own use. However, there is also a reality that these user innovations are not being effectively leveraged throughout society. In this environment, pioneering companies are leveraging user innovation. There are two typical approaches: the “Lead User Method”, in which companies search for cutting-edge users who are highly likely to generate commercially attractive innovations; and the “Crowdsourcing Method”, in which companies openly solicit publicly through the Internet, and users can post their own solutions. However, despite many pioneering efforts and progress with research in this area, user innovation approaches are still not well established. Therefore, we have dedicated this special issue to the theme of “How to Leverage User Innovation by Companies”, with four invited peer-reviewed papers. Finally, on a personal note, I would like to greet you as the new Editor-in-Chief of the Japan Marketing Journal. I was appointed to this position in April this year.

言うまでもなく,企業にとって,新製品開発などのイノベーションは,必要不可欠であろう。多く企業において,多くのイノベーションが,開発者によって誕生している。

一方,製品やサービスの利用者である企業や消費者が,自らの利用のために,製品やサービスなどを開発したり改良したりする「ユーザー・イノベーション」の事例が,近年,数多く報告される。

日本,米国,英国の3ヶ国の18歳以上を対象にした調査(von Hippel, Ogawa, & de Jong, 2011)によると,イノベーションを起こした消費者イノベーターの割合は,日本3.7%,米国5.2%,英国6.1%である。推定すると日本390万人,米国1,170万人,英国290万人となる。日本や英国では製品創造に比べて改良の割合が高く,米国では同程度という違いはあるが,単に改良だけでなく,新製品創造も行われているのだ。その分野を確認すると,英国では工芸・工作道具や造園関連,子供関連が高く,米国では医療が高く,そして日本では住居関連が高いなど,国ごとの特徴はあるものの,いずれの国においても多様な分野で,消費者イノベーションが見られる。消費者イノベーターが費やした研究開発費総額(開発日数から計算した費用と,部材などの実費の合計)を,それぞれの国内消費財メーカーの研究開発費と比べると日本13%,米国33%,そして英国144%であり,国によって差はあるとはいえ,無視できない研究開発資源の規模になっていることがわかる。

こうした事象を裏付けるように,イノベーション調査の世界標準マニュアルであるオスロ・マニュアルのイノベーションの定義では,製品が市場導入されていることという要件が外れ,自らの利用だけしかない場合,つまりユーザー・イノベーションも含む定義に改定された(OECD/Eurostat, 2018)。

だが,こうしたユーザー・イノベーションが,社会全体で有効活用されていないという現実がある。いわゆる,市場の失敗である。日本での消費者イノベーションのうち,企業や仲間などの中で,実際に受け入れられたものは,わずか5%しかないのだ(von Hippel et al., 2011)。企業や仲間に,その知識を積極的に共有しようとしている消費者が11%いるにも関わらず,その半分にも満たない割合である。しかも驚くべきことに,自らのイノベーションの知的財産権を主張する消費者イノベーターは0%であり,そのイノベーションを企業は利用しやすい状況である。まさに大きな研究開発の資源が眠っている状態だ。

こうした中,先駆的企業は,ユーザー・イノベーションを活用している。代表的活用法としては,商業的に魅力あるイノベーションを起こす可能性が高い先端的なユーザーを企業が探索する「リード・ユーザー法」や,企業がインターネットを通して広く公募し,ユーザーが自ら解決策を投稿する「クラウドソーシング法」がある。だが,こうした先駆的な取組みは多くみられ,研究も進展してきているものの,まだまだ定着しているとはいえない。そこで,本号では,「企業によるユーザー・イノベーションの有効活用」というテーマで特集を組み,以下4編の招待査読論文を収録した。

第1論文は,水野学氏・小塚崇彦氏による「リード・ユーザーとメーカーによる共創型製品開発―フィギュアスケーターによるフィギュアスケーターのための製品イノベーション―」である。リード・ユーザーによるイノベーションの有効活用に焦点をあて,探索コストがかかるなどのリード・ユーザー法の課題を指摘した上で,リード・ユーザー側からアプローチする意義や課題を,フィギュアスケートのトップ選手による用具開発の事例を通して,明らかにしていく。なお,この論文自体も,本事例のリード・ユーザーでもある,バンクーバー五輪フィギュアスケート日本代表の小塚氏と,研究者である水野氏との共創の成果である。

第2論文は,青木慶氏による「ユーザーとの共創によるイノベーション―Apple Distinguished Educator Programの事例―」である。企業が運営するイノベーション・コミュニティの有効活用に焦点をあて,Appleが運営する教育者のユーザー・コミュニティの17名を対象にしたインタビューによる,グラウンデッド・セオリー・アプローチを通して,イノベーションを創出するコミュニティに対する有効なインセンティブを明らかにしていく。

第3論文は,大原悟務氏による「医療におけるユーザーイノベーションの実現可能性」である。医療分野におけるユーザー・イノベーションの有効活用に焦点をあて,先行研究の整理や,日本せきずい基金および日本網膜色素変性症協会における研究機関と患者団体とのイノベーションの事例紹介などを通して,ユーザー・コミュニティである患者団体との開発の意義や実現可能性を明らかにしていく。

第4論文は,清水信年氏による「小売店舗従業員によるユーザーイノベーション」である。企業内部の従業員によるユーザー・イノベーションの有効活用に焦点をあて,ゼビオの契約社員であり,かつスポーツ用具のユーザーでもあるスポーツナビゲーターと開発を行なう企業内リード・ユーザー法といえる事例と,ハローディの数千人のパートタイマーと食品の開発を行なう企業内クラウドソーシング法といえる事例をもとに,内部だがユーザーといえる従業員による開発の意義を示唆していく。

このように,単にリード・ユーザー法やクラウドソーシング法という代表的活用法ではなく,その改良や発展版,あるいは新たな手法で,ユーザー・イノベーションの活用が試みられている。さらに,スポーツ,教育,医療,食品と,多様な分野で実践され,その分野に適した活用手法が行われている。こうした論文の知見をもとに,ユーザー・イノベーションが活用され,そして研究が進むことを切に希望する。

新編集委員長挨拶

最後に,今年4月よりマーケティングジャーナル編集委員長という大役に就任することとなり,その挨拶をして,締めくくりたい。今後も,日本のマーケティング力を培っていくために,理論と実践との,そして他分野との深いレベルでの交流を通して「探求と創発」を目指すという日本マーケティング学会のビジョンを実現するための学会誌という目的は変わらない。

その目的をさらに推進するために,新体制にあたり,従来の編集委員をシニアエディターとし,新たにアソシエイトエディターという役職をもうけ,デスク審査をはじめ,レビュー論文やマーケティングケースの執筆者招待,書評対象書籍の推薦等を行える体制にした。多様な分野の研究者10名がアソシエイトエディターに加わり,総勢18名の編集委員会の体制となり,より充実した誌面づくりを可能にした。

さらに,本誌は2018年度よりJ-STAGE(国立研究開発法人科学技術振興機構による日本の電子ジャーナル出版を推進するプラットフォーム)にて公開されているが,1981年の創刊号からの全号のJ-STAGEでの掲載を推進していく。より多くの方々に,読まれる雑誌となることを期待する。

加えて,2019年3月には,姉妹誌として,カンファレンス受賞オーラルペーパーと連動した,より最新の研究テーマに重点をおいたショートタイプの査読誌『マーケティングレビュー』が創刊され,同時にJ-STAGEに掲載予定である。

こうした施策を通して,より多くの研究者や実務家が読者や執筆者となることで,「探求と創発」の大きな渦が巻き起こる,魅力的な学会誌を目指していきたい。

References
  • OECD/Eurostat (2018). Oslo manual 2018: Guidelines for collecting, reporting and using data on innovation, 4th edition. OECD Publishing. doi: 10.1787/9789264304604-en
  •  von Hippel,  E.,  Ogawa,  S., &  de Jong,  J. P. J. (2011). The age of the consumer-innovator. Mit Sloan Management Review, 53(1), 27–35.
 
© 2019 日本マーケティング学会
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