マーケティングジャーナル
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レビュー論文 / 招待査読論文
サービス・リカバリーにおける価値共創に関する研究の現状および今後の課題
胡 怡
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2020 年 39 巻 4 号 p. 53-59

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Abstract

顧客は,企業の価値創造活動においてますます重要な役割を果たしている。顧客との価値共創は,サービス・エンカウンターからサービス失敗後のリカバリープロセスまで,あらゆる接点で起こりうる。サービス・リカバリーにおける価値共創は,少ない費用で効果的に顧客満足を回復させ,再購買意欲を高めることができるリカバリー方法として,近年注目されている。本稿では,サービス・リカバリーにおける価値共創に関する既存研究を整理する。すなわち,以下の二つの研究潮流,(1)サービス・リカバリーにおける価値共創の有効性に影響を及ぼす要因に関する研究,(2)サービス・リカバリーにおける価値共創の先行要因に関する研究に分類して,レビューを実施する。また,研究の現状を踏まえながら,今後の研究課題を提示する。

Translated Abstract

Customers play an increasingly critical role in companies’ value creation activities. Customer co-creation activities can take place across the entire value chain, in both service delivery and the recovery process after a service failure. Co-Creation in Service Recovery is recognized as a cost-efficient recovery strategy that restores customer satisfaction and enhances customers’ intention toward future co-creation. This paper presents the relevant prior research and future issues based on a review of the Co-Creation in Service Recovery literature. Previous investigations have focused on the following two trends: (1) the effects of Co-Creation in Service Recovery and specific situations in which Co-Creation in Service Recovery is not useful, and (2) the antecedents of Co-Creation in Service Recovery (e.g., why customers are willing to participate in the co-creation of service recovery).

I. はじめに

サービスの提供過程においては,顧客に不満足を抱かせてしまうこと,すなわちサービス失敗を完全に回避することは難しい。サービス失敗を経験した顧客は不快な感情(例えば,怒り,挫折感など)を抱いたり(Gelbrich, 2010),ネガティブな口コミを発信したり(Williams & Buttle, 2014),競合他社にスイッチしたり(Anderson & Mary, 1993)する可能性が高い。そのため,サービス研究の領域では,こうしたサービス失敗に対応することである「サービス・リカバリー」を検討することが重要である。これまでのサービス・リカバリー研究では,企業のみによるリカバリーの方法ばかりに目が向けられてきている。その中で,既存研究の大部分は,「補償」に主眼が置かれ,補償が顧客満足の回復に最も効果的な対応の一つであると主張している(e.g., Gelbrich & Roschk, 2011a, 2011b; Noone & Lee, 2011)。

近年では,サービス生産における顧客の積極的な役割が盛んに議論されているとともに,「サービス・リカバリーにおける価値共創(Co-Creation in Service Recovery)」(以下はCCSR法と表記する)という新たなリカバリー方法が,注目を浴びている。CCSR法は,サービス・リカバリーへの顧客参加であり,それによって顧客が自分の経験に基づき,サービス・リカバリーの内容をパーソナイズできる(Roggeveen, Tsiros, & Grewal, 2012)。例えば,オーダーメイドシューズサービスの場合,出来上がったシューズが顧客の期待を下回る時に,企業が他の一足と交換するという対応方法を固定的に提供するのではなく,いくつかのシューズの代替案を提示し,その中から好きな代替案を一つ選んでもらうのである(Heidenreich, Wittkowski, Handrich, & Falk, 2015)。

CCSR法が注目を集めている理由には,以下の二点がある。第一に,サービス・リカバリーに参加した顧客は,常にサービス・リカバリーの結果に好意に反応しやすく,再購買意欲が高まる(Dong, Evans, & Zou, 2008; Vázquez-Casielles, Iglesias, & Varela-Neira, 2017)。市場が成熟化している今日,新たな顧客を掘り起こすことは,簡単なことではない。そのため,サービス・リカバリーを通じて既存顧客の再購買意欲を高め,長期的な関係を築くことが一層重要になっている。「企業のみによるサービス・リカバリー」(例えば,補償)が,顧客満足の回復に効果的であると多くの既存研究が指摘してきたが,再購買意欲に効果的であると報告した研究は少ない(Cheung & To, 2016)。そこで,顧客との関係性を修復し,維持できるという点から見ると,CCSR法は,学術的にも実務的にも検討される意義がある。

第二に,サービス・リカバリーに参加する顧客はコントロール感を覚え,補償を要求する可能性が低い(Roggeveen et al., 2012)。既存研究の多くは,顧客満足の回復というリカバリーのパフォーマンスを成果変数としていた。しかし,近年では,競争が激しくなってきている中で,補償は常に必要であるとは限らないというコストの側面にも学術研究の関心が寄せられるようになっている(Knox & van Oest, 2014; Van Vaerenbergh, Varga, Keyser, & Orsingher, 2019)。その中で,コスト・パフォーマンスから見て,少ない費用で効果的にサービス失敗をリカバリーできるCCSR法は,「補償」の代替案として脚光を浴びているのである。

補償と比較すると,CCSR法は,少ない費用で再購買意欲を高めることが期待できるという点で,サービス・リカバリー研究において重要であると言える。それに着目した研究は,2008年以降に本格化しており,蓄積されてきている。しかし,包括的に眺めるレビュー論文は,まだ存在していない。

そのため,本稿では,CCSR法の既存研究を二つの研究潮流,すなわち,CCSR法の有効性に影響を及ぼす要因に関する研究と,CCSR法の先行要因に関する研究に分けて先行研究を整理する。それを踏まえた上で,今後の課題を提示する。

II. CCSR法の概要

Dong et al.(2008)は,「サービス・リカバリーへの顧客参加(Customer Participation in Service Recovery)」を初めて提言し,「顧客がサービス失敗に対応するための行動をとる度合い」と定義した。Roggeveen et al.(2012)は,この概念を発展させ,「サービス・リカバリーにおける価値共創」(CCSR法)を提言し,「顧客がサービス・リカバリーに参加し,リカバリーの内容をパーソナイズすること」と定義した。この概念の変更に関しては,労力レベルのみでの参加という性格が強い「顧客参加」と比べて,「価値共創」にはリカバリー内容のパーソナイゼーションなどが含まれることを踏まえて,顧客の参加行為をより包括的に捉えられるため,「サービス・リカバリーにおける価値共創(Co-Creation in Service Recovery)」に変更したと指摘された。

その後の多くの研究は,Roggeveen et al.(2012)の概念を用いて,サービス・リカバリーへの顧客参加の有効性及びその先行要因についての実証を進めていく(e.g., Heidenreich et al., 2015; Xu, Marshall, Edvardsson, & Tronvoll, 2014)。以上のことを踏まえ,本稿は「サービス・リカバリーにおける価値共創」(以下はCCSR法と表記する)という概念を扱う。

CCSR法に関する研究潮流には主要な二つの流れが存在している。一つがCCSR法の有効性に影響を与える要因に関する研究である。もう一つがCCSR法の先行要因に関心を寄せる研究である。

III. CCSR法の有効性に影響を及ぼす要因

Dong et al.(2008)は,初めてCCSR法に目を向けた研究である。具体的に,二つのセルフサービス型技術(Self-Service Technologies [SSTs])―大学でのオンライン履修登録やインターネット設定サービスを想定したシナリオを用いて,CCSR法が,サービス・リカバリーに対する顧客満足や,将来の価値共創への参加意欲に及ぼす影響を検証している。分析の結果,サービスの失敗に遭遇した後,サービス・リカバリーに参加する顧客は,そうでない顧客よりも,顧客満足,及び将来の価値共創に参加する意欲が高いことが明らかにされた。

このCCSR法の有効性については,Roggeveen et al.(2012)は,すべての状況で効果的であるとは限らないと主張し,CCSR法効果の状況依存性を明らかにした。さらに,これからの研究に三つの手掛かり−−サービスのタイプ(共創サービス1)/フルサービス),失敗の深刻度,CCSR法に対する顧客の態度(ポジティブ/ネガティブ)を提供した。このことを踏まえて,本稿は,有効性に影響する要因を,さらに状況要因(例えば,サービス失敗の深刻度,サービス組織の特徴)と顧客要因(例えば,CCSR法に対する顧客の認知スタイル)の二つに分けてそれぞれを検討する。

1. 状況要因

状況要因に関する研究の多くは,CCSR法がどのような状況で,どのような企業にとって有効であるかについて検討している。

Dong et al.(2008)の研究結果には共創サービスの文脈のみで成り立つという限界がある可能性を検討するために,Roggeveen et al.(2012)は,フルサービスの失敗(飛行機の遅延)を研究対象に設定し,CCSR法の有効性を検討している。具体的に,失敗の深刻度(遅延時間:3時間/9時間)を加味して,どのような状況でCCSR法が効果的であるかを検証している。その結果,失敗の深刻度が高い場合のみに,CCSR法は,補償よりも効果的であることが確認された。

さらに,Heidenreich et al.(2015)は,失敗の深刻度やサービスのタイプに注目して,共創サービスである技術ベースセルフサービス(Technology Based Self-Service [TBSS])を研究対象にし,失敗の深刻度がCCSR法の有効性に与える影響を検証している。この研究では,顧客が共創サービスの生産に自分の資源を投入するほど,サービス失敗時に,より大きな損失を感じるので,彼らにとって失敗の深刻度が高くなることが指摘された。そのため,共創サービスの失敗の深刻さが,サービス・デリバリーにおける価値共創の程度を左右する。デジタルオーダーメイドシューズサービス提供の場面を想定したシナリオでは,サービス・デリバリーにおける価値共創の程度(The level of co-creation in service delivery),とCCSR法の程度(The level of co-creation in service recovery)の2要因が操作されている。その結果,CCSR法の度合がサービス・デリバリーにおける価値共創の程度と一致する際に,CCSR法がもっとも効果的であることがわかった。

そのほか,企業の特徴からCCSR法の有効性を検討する研究もある。Hazée, Vaerenbergh, and Armirotto(2017)は,飛行機遅延の場面とオンラインでホテル予約時に,エラーが発生した場面を想定した二つのシナリオを用いて,ブランド・エクイティがCCSR法の有効性に与える影響を検討した。分析の結果,ブランド・エクイティの高い企業にとっては,CCSR法が顧客満足の回復や再購買意欲の向上に効かないのに対して,ブランド・エクイティの低い企業にとっては,CCSR法が有効であるということが実証された。

2. 顧客要因

その一方で,顧客側の要因に目を転じる研究もある。Roggeveen et al.(2012)では,失敗の深刻度という状況要因だけではなく,CCSR法に対する顧客の態度(ポジティブ/ネガティブ)という顧客要因がCCSR法の有効性に及ぼす影響を検証している。その結果,フルサービスの文脈において,顧客がポジティブな態度を抱いている場合のみに,CCSR法は補償よりも効果的であるということが確認された。

この研究結果を一歩掘り下げ,顧客の態度に影響する要因を議論する研究もある。Xu et al.(2014)は,リカバリー実施の主導者(initiation)2)によって,CCSR法に対する顧客の態度(ポジティブ/ネガティブ)が変わると主張している。具体的に,オンラインでのホテル予約の場合に,エラーが発生した場面を想定し,実施主導者の違いは,知覚公平感が媒介変数となり,CCSR法の有効性に影響を及ぼすことを検証している。その結果,従業員主導のCCSR法(Employee-initiated co-recovery)3)は,企業のみによるサービス・リカバリー4)よりも,顧客の知覚公平感,さらに顧客満足や再購買意欲を高めることが確認された。他方で,顧客主導のCCSR法(Customer-initiated co-recovery)5)の効果は,企業のみによるサービス・リカバリーの効果とは有意な差がないという結果が示された。

この研究は,公平理論(equity theory)に基づき,実証結果のメカニズムを説明する。具体的に,顧客主導の場合,顧客がリカバリーに投入する資源をサンクコストにみなして,強い不公平感を抱いている。そのため,CCSRへの参加意欲が低くなる。その一方で,従業員主導の場合には従業員が主導するため,顧客は自分が担当する仕事を負担に感じなくなるし,コントロール感も覚える。そのため,公平感を知覚してCCSRへの参加意欲が高くなり,さらに顧客満足や再購買意欲も高まると主張されている。

加えて,顧客のデモグラィック属性(西洋人/東洋人)も検討されている。分析の結果,東洋人の顧客と比べて,西洋人の顧客では,従業員主導のCCSR法(Employee-initiated co-recovery)の効果がより高いことが明らかになった。

IV. CCSR法の先行要因

CCSR法の先行要因に関する研究の多くは,なぜ顧客がCCSRに参加しようとするかという問題を中心に進められている。CCSR法に対する期待(expectancy)は,CCSRへの顧客参加行動の主要な決定要因であり,「CCSRを成功させる確率に対する主観的判断である」と定義される。つまり,顧客はCCSR法に対する期待によって動機付けられ,そしてCCSRに参加する(e.g., Zhu, Sivakumar, & Grewal, 2013)。このことから,CCSRに対する期待がCCSR法の重要な先行要因であると言える。

この研究結果をさらに掘り下げ,CCSRに対する期待の先行要因に関する議論についても,近年では関心が高まっている。そのうち,主にサービス失敗に対する顧客の原因帰属の中心性(locus of causality:内的/外的)に注目するものと,顧客の自己効力感(self-efficacy)に注目するものがある。以下は,両者について,それぞれ検討していく。

1. 顧客の原因帰属の中心性に焦点を当てる研究

サービス・リカバリー研究では,原因中心性(locus of causality),安定性(stability),制御可能性(controllability)という三次元から,サービス失敗に対する顧客の原因帰属の認知プロセスを解明しており,これらの推測が顧客満足や行動意図などに及ぼす影響を検討する研究が多い(e.g., Van Vaerenbergh, Orsingher, Vermeir, & Larivière, 2014)。

フルサービスを対象にするサービス・リカバリー研究の多くは,安定性と制御可能性という二つの次元から,顧客の原因帰属タイプの違いが補償手段,補償水準に及ぼす影響を検討してきている。その一方で,CCSR法の先行要因に関する既存研究の多くは,原因の中心性という次元に着目して,共創サービスの文脈6)において行われている。具体的には,顧客の内的原因帰属傾向(the tendency of internal attribution)に焦点を当てて,実証と議論が行われている。

顧客の内的原因帰属傾向とは,顧客がサービス失敗に一部の責任を分担する傾向である(Heidenreich et al., 2015)。Zhu et al.(2013)では,セルフサービス型技術の文脈で,顧客の内的原因帰属傾向がCCSR法に対する期待に正の影響を与えることを解明した。しかし,この研究は内的原因帰属と期待との関係を検討するにとどまっており,内的原因帰属の先行要因を検討していない。

内的原因帰属の先行要因に関しては,Heidenreich et al.(2015)が,技術ベースセルフサービスを研究対象にし,サービス・デリバリーにおける共創程度が顧客の内的原因帰属傾向の先行要因であることを検証している。検証の結果は,サービス・デリバリーにおける共創程度(the level of co-creation in service delivery)が高いほど,内的原因帰属傾向が高まり,顧客の罪悪感(perceived guilt)も強まることが明らかになった。

さらに,Sugathan, Ranjan, and Mulky(2017)は,オーダーメイド自転車サービスの場面を想定したシナリオを用いて,Heidenreich et al.(2015)と一致した実証結果を得た。つまり,高いサービス・デリバリーにおける共創程度(high co-creation in service delivery)と内的原因帰属との正の関係が検証された。また,内的原因帰属傾向が高まるほど,CCSR法に対する期待が高まり,サービス・リカバリーへの参加意欲(Willingness to co-create recovery)が高くなることも確認された。

そのうえで,内的原因帰属がCCSR法に対する期待を高めるというメカニズムについての説明が行われる。原因帰属-期待理論(attribution-expectancy theory)によると,自分による失敗,しかも自分の変更できることによる失敗(例えば,自分の努力不足による失敗)の場合,人間はもっと努力すれば問題を修復できると考え,次の問題修復行動に対する期待が高くなることがわかった。そのため,共創サービスの失敗に対して,顧客はサービス生産に投入する資源(例えば,知識)の不足が失敗の原因の一部であると認知する際に,顧客がリカバリーにより多くの資源を投入すれば問題をうまく修復できると考え,CCSR法への期待が高まると考えられる。

以上の研究は「サービス・デリバリーにおける価値共創の高さ→顧客の内的原因帰属傾向→CCSRへの参加意欲」という因果関係を示すが,Yen, Gwinner, and Su(2004)は,大学で社会人コースの授業(executive education)を受ける場面を想定したシナリオを用いてサービスの共創程度が高いほど,顧客が外部(企業)に原因帰属する傾向が強くなるというHeidenreich et al.(2015)Sugathan et al.(2017)と真逆の結果を出した。そのため,サービス・デリバリーにおける共創程度と顧客の内的原因帰属傾向との関係については,なぜ逆の実証結果が出てくるのかを,さらに検討する必要が生じている。

2. 顧客の自己効力感に焦点を当てる研究

自己効力感(self-efficacy)に焦点を当てる研究も存在する。自己効力感は,ある状況において特定の成果を生み出すように,一連の行動を遂行できる能力に対する信念を指す(Bandura, 1977)。自己効力感が高くなるほど,自分が次の行動を成功させると信じるため,行動に従事する可能性が高くなる。

Dong, Sivakumar, Evans, and Zou(2016)は,レンタカーのネット予約サービスの場面を想定し,セルフサービス利用に対する顧客の自己効力感がCCSRの先行要因であることを検証している。その結果,自己効力感がCCSR法に対する期待に正の影響を与えることが明らかになった。さらにこの研究では,自己効力感と期待との関係に対して,内的原因帰属の調整効果も検証している。シナリオによって内的原因帰属(自分によるパソコン入力のミス)が操作された。その結果,内的原因帰属は自己効力感がCCSR法に対する期待に及ぼす正の影響を促進する。また,期待が高いほど,顧客がより共創程度の高いリカバリー方法を選ぶということが確認された。

V. 今後の課題

ここまでの研究を踏まえた上で,それぞれの研究潮流において,今後の課題を提示する。

1. CCSR法の有効性に影響を及ぼす要因に関する今後の課題―従業員側要因の検討

CCSR法の有効性に影響を及ぼす要因に関する既存研究の大半は,Roggeveen et al.(2012)が提示した状況要因(サービス失敗の深刻度)と顧客要因(CCSR法に対する顧客の態度)を手掛かりとしながら,行われている。しかし,CCSR法の有効性は企業側の様々な施策によって異なるはずである。そのため,顧客側の要因とともに,適切なサービス・リカバリーの実践を支援するサービス・フロントライン従業員がサービス・リカバリーのプロセスでどのように顧客とコミュニケーションをとるかといった従業員側の要因も検討する必要がある(Heidenreich et al., 2015)。

また,Xu et al.(2014)によっては,CCSR法に対する顧客の態度の良し悪しの決め手となるのは,従業員と顧客のどちらがCCSR法を主導するか(the impact of initiation)ということである。しかし,従業員主導(Employee-initiated co-recovery)の場合のみに,CCSR法が顧客のポジティブな態度,顧客満足の回復や再購買意欲の向上に有効であるという指摘がなされている一方で,具体的に従業員がどのような点に留意して,CCSR法を実施すればよいのかというオペレーションナルなレベルの議論はほとんど展開されていない。

さらに,サービス・リカバリーに関する既存研究では,フルサービスの文脈において,サービス・フロントラインの従業員と顧客の信頼関係には,顧客の外的原因帰属やネガティブな感情に対する緩衝効果(buffering effect)があることが明らかになっている(e.g., Wan, Hui, & Wyer Jr, 2011)。また,従業員との信頼関係の深化により,補償効果が低下することを実証した研究が存在する(e.g., Ha & Jang, 2009)。それに加えて,従業員の特性(自己効力感)がサービス・リカバリーの有効性に有意な影響を与えることも確認されている(Lin, 2010)。

これらの研究知見を手がかりにしながら,サービス・フロントライン従業員との信頼関係の有無,サービス・フロントライン従業員の個人的特徴がCCSR法の有効性および顧客の参加意欲にどのような影響を及ぼすのかを解明することで,CCSR法に関する一層有益な実務的インプリケーションを導くことが期待される。

2. CCSR法の先行要因に関する今後の課題―内的原因帰属の先行要因のさらなる検討

前述で確認したように,CCSR法の先行要因に関する既存研究の大部分は,共創サービスの文脈で展開している。その中で,原因帰属理論と社会学習理論を援用して顧客の内的原因帰属傾向と自己効力感という二つの先行要因に関して,それぞれに検討されている。

顧客の内的原因帰属傾向が生じる状況に着目した実証研究のうち,共創サービスの文脈において,内的原因帰属傾向とサービス・デリバリーにおける共創程度との関係については,正の因果関係を示す結果と負の因果関係を示す結果が混在している(Heidenreich et al., 2015; Yen et al., 2004)。なぜ安定な結果が得られていないかについては,実証手続きの違いもあるかもしれないが,サービス・デリバリーにおける共創程度と内的原因帰属との関係に影響を及ぼす他の要因が存在する可能性が高い。これらの対立する実証結果については,価値共創は企業と顧客の両方が関わるため,サービス・デリバリーにおける共創程度というサービスデザインの要因以外に,顧客の個人的な特徴がなんらかの影響を及ぼすと考えうる。この個人的要因が存在するならば,どのような影響を与えるのか。それらはCCSR法の先行要因を議論する際に解決すべき重要な課題であると言える。

それ以外に,共創サービスに限らず,フルサービスの文脈においては,どのような先行要因がCCSR法への顧客の期待や参加意欲に影響を及ぼすのかを解明することも,大きな意義があると考えられる。

1)  ここでの「共創サービス」とは,「セルフサービス」「顧客参加型の製品開発」といった顧客が生産プロセスに参加する限定的な状況での「価値共創サービス」である(Prahalad & Ramaswamy, 2004)。

2)  CCSR法の実施を主導するのは従業員なのか,顧客なのかということである。

3)  例えば,ホテルの従業員が即時に顧客に電話をかけて,状況を確認して問題を解決することである。ここで企業のみによるサービスリカバリーとの大きな違いは,顧客への状況確認の有無にある(Xu et al., 2014)。

4)  例えば,ホテルの従業員が顧客に状況を聞かずに問題を解決する。解決してから,顧客に対して説明を行うことである(Xu et al., 2014)。

5)  例えば,顧客がホテルに電話をかけて助けを求めることである(Xu et al., 2014)。

6)  フルサービスの場合,企業およびその従業員のみがサービスの生産者であり,顧客がサービスに対して対価を支払う人であるため,外的原因帰属(企業のせいだ)がほとんどである。その一方で,共創サービスの場合,顧客がサービスの生産プロセスに参加するため,原因帰属が曖昧になる(Zhu et al., 2013)。そのため,原因帰属の中心性(内的・外的)を議論する余地がある。

胡 怡(コ イ)

神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程に在学中。

修士(経営学)。専攻はサービス・マーケティング,消費者行動。

References
 
© 2020 The Author(s).
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