マーケティングジャーナル
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レビュー論文 / 招待査読論文
消費者行動領域における色彩研究の潮流
河股 久司
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2021 年 41 巻 2 号 p. 81-89

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Abstract

本論文は,2015年以降の色彩に関する研究をレビューすることによって,近年の色彩研究の潮流を把握することを目的とする。色に関する研究を,色の三属性である色相・明度・彩度それぞれの視点による研究と,モノクロとカラーの比較による研究の4つに大別してレビューを行った。その上で,色とマーケティングミックスとの関連を検討したところ,今回のレビューの範囲においては,色相に関する研究は,マーケティングミックスの各要素と関連するものが実施されていることが確認できた。一方,彩度に関してはマーケティングミックスのうち製品との関連のみ,明度に関しては製品と流通チャネルとの関連に限られた研究が実施されていることが明らかになった。また,クロスモーダル効果に着目すると,色と味覚や聴覚,触覚との関連についての研究はなされているものの,色と嗅覚との関係を検討している研究がないことが確認された。

Translated Abstract

This study identifies recent trends in research on color by reviewing the literature since 2015. A review was conducted on four major categories of color research: hue, lightness, chroma, and monochrome vs. color. An examination of the relationship between color and marketing mix (4P’s) revealed that, while hue has been studied for every component of the marketing mix, brightness literature is limited to the product component of the marketing mix and chroma literature is limited to product and place. An analysis focusing on multisensory cross-modal effects showed that there are studies on color related to taste, auditory effects, and haptics, but a lack of research investigating the relationship between color and olfactory effects. In summary, this study identifies gaps in the existing literature on color and marketing mix and on color and multisensory cross-modal effects.

I. はじめに

コカ・コーラの赤色の缶,スターバックスの緑色のロゴマーク,Twitterの水色のアイコンマークなど製品やサービスには,各ブランドの特徴となる色が用いられている。また,白物家電と呼ばれる冷蔵庫や炊飯器,さらに白や水色がメインカラーであったマスクも豊かなカラーバリエーションを持つようになった。

学術的な研究に目を向けると,製品パッケージやロゴマークなど,さまざまなマーケティング要素に用いられる色が消費者に与える影響について,多くの研究で検討がなされている。中でも21世紀初めから消費者行動の文脈で色への関心が高まっており(Labrecque, 2020),色が与える身体的あるいは意味的な影響に着目した研究が精力的に進められている。その背景として,消費者の五感への訴求を中心に据える,感覚マーケティングの隆盛が挙げられる。五感の中でも視覚は,ほかの感覚に比べてその優位性が高いことから(Krishna, 2012),視覚に影響をもたらす色に関する研究が盛んに進められていると考えられる。このような潮流の中で,2020年に『Psychology and Marketing』誌で色に関する特集号が組まれており,消費者行動研究において色に対する関心が極めて高いことが理解できる。そこで本論文は,マーケティングに関連した色を対象としたレビュー論文であるElliot(2015)以降に絞り,色が消費者行動に与える影響に関する研究を整理する。

本論文の構成は以下の通りである。第2章では,色を決定づける三属性について紹介し,本論文のレビューの枠組みを提示する。第3章から第5章では色に関連する既存研究を整理する。そして,最後の第6章で,これらの研究をまとめ,今後の課題について議論する。

II. 色の三属性とレビューの枠組み

色は,色相(hue)・明度(brightness, value)・彩度(saturation, chroma)と呼ばれる3つの属性の変化により決定する。色相は,赤や青など色調の違いを示すもので,対象から放たれる光の波長によって変化する。色相に基づいた研究では,赤や青といった1つの色,すなわち,単色の効果のみならず,複数色を用いた配色の効果に着目した研究も存在する。そこで,色相に関する研究を単色の効果と配色の効果に分け第3章で整理する。

2つ目の属性である明度は色の明るさを示すものであり,光の強度に対応する。明度が高くなることで白色に近づき,明度が低くなることで黒色に近づく。そして,3つ目の属性である彩度は色の鮮やかさを示す。彩度は,純度と呼ばれる光刺激の特性に対応し(Ohyama & Saito, 2009),彩度が高くなると鮮やかな色に,低くなるとくすんだ色になる。この明度や彩度に着目した研究は第4章で取り上げる。

さらに本論文では,モノクロとカラーを比較した研究もレビューする。色を決定づける三属性のうち,カラーが色相・明度・彩度すべてを持ち合わせる有彩色であるのに対し,モノクロは明度のみを持つ無彩色である。そのためモノクロとカラーを比較した研究は,色相と彩度の2つの属性の影響の変化が消費者に与える影響を検討した研究となる。本論文では,色の三属性をそれぞれ分けてレビューするため,複数の属性の変化を取り扱うモノクロとカラーを比較した研究は,第5章で別個に取り扱う。

以上,4つの視点から,関連する先行研究を整理する1)

III. 色相に着目した研究

1. 単色の効果に着目した研究

色相に着目した研究を概観すると,単色の効果に着目した研究が多く存在する。本節では単色の効果に着目した研究を,(1)色相がもたらす身体的反応に着目した研究,(2)色相によって喚起される意味が消費者の反応に与える影響に着目した研究,そして,(3)対象となる製品パッケージ等の色相と性別・社会活動などからイメージされる色相との一致に着目した研究の3つの観点に分けてレビューする。

(1) 色相がもたらす身体的な反応に着目した研究

Guido, Piper, Prete, Mileti, and Trisolini(2017)は,スマートフォン上での製品購買に焦点を当て,スマートフォンから発せられる光や周囲の光の色と,購買されやすい製品の関係を明らかにした。周辺光が白の条件下ではスマートフォンから発せられる光が青色の時に,スマートフォンから発せられる光が白色の条件下では周辺光が青色の時に,快楽的な製品の購入意向が高くなることを確認した。Gudioらは,青色の光によって身体的にリラックスさせられることで快楽的な製品への志向が高まったためであると述べている。

Das, Roy, and Spence(2020)は,制御焦点理論2)を用い,消費者の制御焦点と色相による覚醒度の一致がもたらす消費者反応を捕捉した。予防焦点の消費者は覚醒度が低い平静状態を好むのに対し,促進焦点の消費者は覚醒度が高い陽気であることを好む。また,人は赤色を見ることで覚醒度を高めることから,赤を見ることによる覚醒と促進焦点の人の陽気さによる覚醒が一致することで,サービスの失敗に対する負の感情を緩和するとDasらは考えた。そして,赤あるいは青の背景色を用いたECサイトで携帯電話の購入を行うという調査を行いその影響を確認した。結果,携帯電話の在庫切れというサービスの失敗があった場合でも,促進焦点の消費者においては,赤色の背景のECサイトで購入したほうが,青色のECサイトで購入するよりもサービス全体の満足を高く評価した。

(2) 色相がもたらす意味が消費者の行動に与える影響に着目した研究

赤は情熱や危険を,青は冷たさや未熟さを意味するように,色が人々に特定の意味を喚起させることがある。Pontes and Williams(2021)は,赤色がもたらす危険のイメージに焦点を当て,赤色を見た人は,青色を見た人に比べてリスク回避的になることを明らかにした。また,Pontesらは幸運のプライミングによる影響や赤色がもたらす文化的な意味の違いも検討し,幸運であるとプライミングされている消費者や,赤を幸せの象徴とする中国人消費者は,赤色によるリスク回避の効果が低減することも明らかにした。

人々は赤色を見ると,危険を想起するため,リスクを回避しようと念入りな行動をとるようになる。一方,赤色を見ることで覚醒度が高まることから,習慣的な行動が誘発され念入りな行動を取りにくくなる。これらの相反する行動について,Mehta, Demmers, van Dolen, and Weinberg(2017)は,個人の刺激追求志向が調整することを明らかにした。すなわち,刺激追求の志向性が高い人ほど,赤がもたらす覚醒度に注意が向けられ,念入りな行動を取りにくくなり,刺激追求の志向が低い人にはこのような関係は見られなかった。

赤色は危険やリスク以外の意味も消費者に訴求する。Ye, Bhatt, Jeong, Zhang, and Suri(2020)は,チラシ中に表示される赤色の価格がもたらすお得感に着目した。Yeらは,1つの製品価格のみ赤色で表記しているチラシと,全ての価格を黒色で表記しているチラシを消費者に提示し,全ての価格を黒色で表記しているチラシの店舗に対して,店舗全体のお買い得感を高めることを明らかにした。1つの価格だけが赤色で表示されている場合,その製品にのみお買い得感を感じ,他の製品に対してお買い得感を感じにくくなってしまったことが,このような結果をもたらしたとYeらは推察している。

(3) 色相と性別やマーケティング活動などからイメージされる色相との一致に着目した研究

Gill and Lei(2018)は,男性用フェイスクリームなどのような,製品カテゴリーがターゲットとする消費者の性別と異なる性別の消費者をターゲットとする製品における色の効果に着目した。男性を想起させる色である青色を用いたパン焼きセット(女性向け製品)の購入意向を男性に調査したところ,男性は総じて,青色のパン焼きセットに対して好ましさを感じ,購入意向が高まった。一方で女性を想起させる色であるピンク色の自動車修理セット(男性向け製品)に対する購入意向を女性に問うたところ,購入意向には差が見られた。自身を女性らしいと答えた女性は,ピンク色の自動車修理セットを好ましいと判断し購入意向を高めた。一方,女性らしさの度合いが低い女性は,自動車修理セットに対し好ましさを低く評価した。Gillらは,ピンク色が女性的であることを強く訴求してしまうため,女性らしさの度合いが低い女性にはピンク色という要素がかえってネガティブに働き,彼女らの製品選好を高めることができなかったと結論づけている。

Marozzo, Raimondo, Miceli, and Scopelliti(2020)は,食品パッケージにおける自然色の効果を検討した。健康的な食品のパッケージは,自然を彷彿とさせるベージュなどの色のほうが,混じり気がなく添加物が入っていない食品であると消費者は知覚するため,他の色のパッケージに比べ,消費者の支払意向価格を高めることを確認した。一方で健康的ではない食品のパッケージにおいては,色の違いが消費者の支払意向価格に影響を及ぼすことはなかった。

Kuo and Rice(2015)は,ピンク色と黄色のレモネードを用い,企業が取り組むCRM活動としてピンクリボン運動3)と白血病を題材に,消費者の慈善活動への意向を確認した。そして,ピンク色のレモネードとピンクリボン活動の条件,すなわち製品色とCRM活動から想起される色が一致している時に,消費者の慈善活動意向を高めることを確認した。

またHenderson, Mazodier, and Sundar(2019)は,スポーツチームの色とスポンサーの広告色の一致に着目した。メジャーリーグの試合のデータを使用し,スポーツチームと同じ色を用いた広告を見たファンは,広告スポンサーに対する評価を高めることを明らかにした。

2. 配色に着目した研究

本節では2つの色の関係に着目した研究を整理する。印刷広告における製品色と背景色の配色に着目したHuang, Wang, Liu, and Yu(2020)は,製品の特徴によって製品色と背景色の配色の効果が変化することを明らかにした。ティッシュペーパーのような機能的製品の広告では,製品色と背景色の関係が隣接色相配色の時に,ワンピースドレスのような感覚的・社会的製品4)の広告では補色色相配色5)の時に,それぞれの製品評価が高くなった。Huangらは,購買時における消費者の情報処理プロセスが製品によって異なるために,上記の結果をもたらしたと結論づけている。つまり,機能的製品は製品選択や購入判断時に熟慮が求められることから,色の奇抜さに目を取られない製品色と背景色が隣接色相配色になっている広告に対して消費者は好ましい評価を下した。一方,感覚的・社会的製品は,自身の社会性や感覚的経験に合致した製品であるかを容易に判断できるように製品を目立たせる必要があるため,製品色と背景色が明瞭になる補色色相配色の広告を好ましく判断したのである。

また,ロゴマークの配色に着目したJeon, Han, and Nam(2020)は,隣接色相配色と補色色相配色の2つの配色と文化的自己観の関係を明らかにした。調和や類似に着目する相互協調的自己観が高い人は隣接色相配色のロゴマークを好むことが確認された。一方,物事を分離して考える傾向のある相互独立的自己感が高い人は,ロゴマークの色の1つ1つをそれぞれ別個に捉えるため,2種類のロゴマークの選好に違いはみられなかった。

IV. 明度と彩度に着目した研究

1. 明度に着目した研究

明度の高いものは軽く,低いものは重く知覚する(Alexander & Shansky, 1976)。この明度の高低がもたらす重量感の知覚の変化を援用した消費者行動研究は複数存在する。

Sunaga, Park, and Spence(2016)は,製品パッケージの明度の高低と製品の陳列位置の関係を検討した。陳列棚の上部に陳列された製品は軽く,下部に陳列された製品は重く知覚することから,製品パッケージの明度と陳列位置の一致が消費者にもたらす影響を見た。明度の高い製品パッケージを上部に,明度の低い製品パッケージを下部に陳列する,つまり明度と陳列位置が一致した製品陳列を見た消費者は,不一致状態の製品陳列を見た消費者に比べ,製品の探しやすさ,製品の選択しやすさ及び,支払意向価格を高く評価した。

重さの知覚が,製品の頑丈さや耐久性に影響を与えることに着目したHagtvedt(2020)は,明度の低い製品を重い製品であると知覚し,その結果耐久性が高い製品であると消費者が判断することを確認した。また,製品の明度が高くなることで軽さを知覚するため,明度が高い製品を操作が容易な製品であると消費者が知覚することも明らかにした。

Mai, Symmank, and Seeberg-Elverfeldt(2016)は,ピザやヨーグルトなどのパッケージを用い,パッケージの明度が高まることで健康の知覚に対して正の影響を,おいしさの知覚に対して負の影響を与えることを明らかにした。明度が高まることで消費者は,食品に含まれる成分のうち脂肪分や糖分を少なく知覚するため,より健康的な食品であると判断する。一方,明度が高まることで,濃厚感や熟成感を知覚しにくくなり,おいしさの知覚を低下させたと彼らは解釈している。また,健康に対する意識が低い消費者や製品利用のない消費者において,これら2つの効果が強くなることが示された。

重さの知覚以外の点から明度の違いが消費者に与える影響を検討した研究に,Reynolds-McIlnay, Morrin, and Nordfält(2017)がある。彼らは,製品と周辺環境の明度のコントラストに着目し,周辺環境の明度とコントラストのある製品の選択確率が高まることを確認した。製品と周辺環境の明度にコントラストがあると製品が目立つため,製品選択確率が高まったと考察している。

また,Hagtvedt and Brasel(2016)では,明度と周波数の一致の効果を検討し,周波数が高い(低い)音を聞いている消費者は,明度が高い(低い)ロゴを注視することが確認されている。

明度が最も高くなると白色になり,最も低くなると黒色になる。この白や黒の意味に着目したChan and Meng(2021)は,購入する製品の色とその後の慈善行動との関連を明らかにした。そして,白色の製品を選択した人に比べ,黒色の製品を選択した人のほうが,自然保護団体に対してより高額な寄付を行うことを見いだした。白色の製品の購入した人は,道徳的に好ましい行動をとったと感じ,道徳的行動を行った後には自身に甘い行動をとるというセルフライセンシングの効果が働いたため,寄付額が少なかった。他方で,黒色の製品を購入した人は,道徳的に好ましくない行為をとったと感じてしまい,それを補正するために慈善団体への寄付額を高くしたとChanらは説明している。

2. 彩度に着目した研究

色の鮮やかさを示す彩度は消費者の覚醒との関連が強く,彩度が高い対象を見た消費者は彩度が低い対象を見たときよりも覚醒度を高める。この明度がもたらす覚醒度と製品の所有期間に着目した研究が,Buechel and Townsend(2018)である。50種類の製品を用い,所有期間が長くなる製品であるほど彩度の高い製品の選択確率が下がるという関係を明らかにした。彩度が高い製品を目にするたびに覚醒度が高まり,頻繁に覚醒させられることで消費者に不快感が生まれる。そのため,製品を目にする機会が増加する所有期間が長い製品においては,彩度が高い製品が選ばれにくくなると彼らは主張している。

Hagtvedt and Brasel(2017)は,彩度の高低が製品サイズの知覚に与える影響を検討した。消費者は彩度が高い製品に対して注意を向け,その製品を大きく知覚することから,彩度が高い製品を好ましく評価することを明らかにした。さらにHagtvedtらは,製品の利用目的によって選好が変化することも確認している。キャリーケースを用いた調査で,収容量が多いほうが好ましいシナリオを読んだグループは彩度が高い方を,手頃な大きさが好ましいシナリオを読んだグループは,彩度が低いキャリーケースを選択することを示した。

Wang, Qian, and Li(2020)は,上記の研究を発展させ,周波数が,彩度によってもたらされる製品の大きさの知覚を調整することを明らかにした。すなわち,周波数が高い音を聞いている消費者のみ,彩度の高さが製品の大きさに影響を及ぼすことを確認した。

彩度に関する研究では,味覚との関係を捉えた研究も挙げられる。Kunz, Haasova, and Florack(2020)は,ジュースのパッケージ写真の彩度を高めることで新鮮さの知覚が高まり,健康さやおいしさの知覚が向上する確認した。

また,味覚との関係を明らかにした他の研究に,酸味が消費者の誘惑回避行動に与える影響を調整する変数として,彩度の変化を用いたPomirleanu, Gustafson, and Bi(2020)の研究も挙げられる。彩度が低い条件では,ぶどう(酸味のない果物)の写真よりもライム(酸味のある果物)の写真を見た消費者の方が誘惑を回避することが確認された。さらに,同じライムの写真であっても,彩度が高い写真を見た消費者のほうが誘惑に駆られやすくなった。彼らはこの結果を,消費者が味覚よりも視覚を優先するという点から説明している。すなわち,写真の彩度が高まることで味覚よりも視覚刺激が優先され,高い彩度が覚醒度を高めることから,消費者の誘惑回避行動意図が低減したと述べている。

V. モノクロ対カラーに着目した研究

印刷広告や新聞広告などではカラー広告だけではなくモノクロ広告を用いることもある。このモノクロとカラーを比較し,その効果を検討した研究も見られる。例えば,Lee, Fujita, Deng, and Unnava(2017)は,モノクロとカラーの関係について解釈レベル理論6)を用いて検討した。空飛ぶサーフィンボードのプロトタイプが明日(あるいは5年後)完成するという記事を実験参加者に読ませ,サーフィンボードの写真をカラー(あるいはモノクロ)で見せた時の効果を検討した。時間的距離が近い,明日完成するという記事を読んだグループはカラー写真のサーフィンボードに,時間的距離の遠い,5年後に完成するという記事を読んだグループはモノクロ写真のサーフィンボードに対して支払い意向額が高くなる傾向を示し,製品にも好ましい評価を下すことが確認された。

Leeらの研究を発展させたWang, Liu, Kandampully, and Bujisic(2020)は,レストランの広告を用い,色の有無とメッセージの訴求内容について解釈レベル理論の観点から検討した。そして,おいしさを訴求したメッセージの広告はカラー広告の方が,健康面を訴求したメッセージの広告はモノクロ広告のほうが,広告への態度が高まることを確認した。また,そのメカニズムとして納得感(feeling right)を挙げ,色の有無とメッセージが一致した広告は納得感が高まり,その結果として広告への評価を高めることを見出した。Wangらはこの結果について,メッセージが訴求する便益までの時間的距離の観点から説明している。おいしさという便益は即時的に得られるのに対し,健康という便益は得られるまでに時間を要する。この関係を解釈レベル理論の視点から説明すると,おいしさは便益を得るまでの時間的距離が近く低次の解釈レベルに対応する。一方,健康は便益を得るまでの時間的距離が遠くなるため,高次の解釈レベルと関連が強い。つまり,解釈レベルを通じて考えると,おいしさの訴求とカラー広告は低次の解釈レベルという点で,健康の訴求とモノクロ広告は高次の解釈レベルとマッチするため,納得感が発生したと結論づけている。

モノクロとカラーに焦点を当てた研究は,解釈レベル理論に関連した研究以外にも存在する。Wedel and Pieters(2015)は,広告上の写真のピンぼけと色の有無の関係を検討しており,典型的な広告がピンぼけしている場合,モノクロ広告よりもカラー広告のほうが,広告の識別率が高まることを確認した。また,Kim, Spence, and Marshall(2018)は,製品情報がモノクロで表示されている時よりもカラーで表示されている時に,妥協効果が発生することを明らかにした。Kimらは製品情報がカラーで記載されることで,処理すべき情報量が増え,認知資源が枯渇しやすくなることから,消費者は単純化した回答をしようとするために妥協効果が発生しやすくなると説明している。

VI. まとめと今後の研究課題

本論文では,色が消費者にもたらす影響に着目した研究について2015年以降の論文を整理した。主な論文を,マーケティングミックスの視点と視覚刺激である色の変化が味覚や聴覚など他の感覚に影響を与えるというクロスモーダルの視点からそれぞれまとめると表1及び表2となる。表1を見ると,色相に関する研究はマーケティングミックスのすべての要素で検討がなされていることが確認できる。一方で,明度や彩度に着目した研究を見ると,明度に関する研究では製品と流通チャネル,彩度に関する研究では製品に着目した研究しか,今回のレビューした範囲では確認できなかった。また,色とクロスモーダル効果の関係を見てみると(表2),聴覚や味覚,触覚との関係に着目した研究は挙げられるものの,嗅覚との関係に着目した研究は今回のレビューの範囲では確認できなかった。

表1

2015年以降の色彩研究とマーケティングミックスの関係

表2

2015年以降の色彩研究とクロスモーダルを対象とした消費者行動研究の関係

出典:筆者作成

ここまで整理した2015年以降の色彩研究における潮流から確認できる今後の課題を3点挙げる。1点目の課題は,色相に関する研究のうち,配色に着目した研究が限られている点である。多くの製品パッケージや広告では複数の色が用いられているにもかかわらず,配色に関するマーケティング的な側面からの研究は数少ない。本論文がレビューの対象とした2015年以前から配色に関する研究の重要性が説かれている(Labrecque, Patrick, & Milne, 2013)一方で,この点からの知見が2015年以降の論文においても少ないことから,検討すべき課題であると言えよう。

2点目の課題は,明度・彩度に関する近年の研究において,特定のマーケティングミックスの要素に着目した研究しか取り組まれていない点である。表1を見ると,今回のレビューの範囲において,明度に関する研究は製品及び流通チャネル,彩度に関する研究では製品のみと,限られた範囲での研究しか存在しないことがわかる。また,明度や彩度が消費者に与える影響について,重さの知覚や覚醒度に着目し,その点を軸として消費者に与える影響を検討する研究が多かった。明度や彩度に関する研究は,その重要性が高いにもかかわらず,色相に関する研究ほどは精力的に研究が進められていないという問題もある(Labrecque et al., 2013)。この点から見ても,複数の異なる視点から価格やプロモーションなどを含めた様々なマーケティングミックスの要素との関係性を明らかにすることで,明度や彩度の変化に関する,より深い知見が得られると推察できる。

3点目の課題は,色が嗅覚に与える影響を検討した研究が今回のレビューの範囲内で存在しない点である。表2を見ると,色と味覚,聴覚の相互作用に関する研究や,触覚に関連する重さを対象とした研究は存在するが,嗅覚とのクロスモーダル効果に関する消費者行動研究は,今回レビューした範囲では見られない。一方,色彩に関する研究領域では色相と香りの調和に関する研究も存在する(Miura & Saito, 2006)。このような研究を援用し,消費者行動分野における色と嗅覚のクロスモーダルに着目した研究が,今後期待される。

最後に本論文の課題として以下の点が挙げられる。本論文は2015年以降の論文に絞りレビューを行ったため,色に関する消費者行動研究領域の論文を網羅的にレビューできていない。この点が本論文の課題であり,全体的な研究動向を把握することが望まれる。

謝辞

本論文の作成にあたって,レビュアーの先生より貴重なコメントを頂戴いたしました。ここに記して謝意を表させていただきます。また,本研究はJSPS科研費20K22106の助成を受けたものです。

1)  レビューの対象となる論文の選定は以下の方法で行った。Web of Scienceを用い,トピックとしてColor, Hue, Brightness, Value, Saturation, ChromaのいずれかとMarketing, Consumerのいずれかの単語を組み合わせて検索した。検索結果のうち2015年以降にJournal of Marketing, Journal of Consumer Research, Journal of Retailing, Journal of Marketing Research, Marketing Science, Journal of Consumer Psychology, Psychology and Marketing, Journal of Advertisingより発行された論文を本論文では取り上げる。

2)  制御焦点理論では,目標に対する焦点の違いが人々の行動に影響を与えると考えられており,ポジティブな結果の有無に注目する促進焦点とネガティブな結果の有無に注目する予防焦点に分けられる(Higgins, 1997; Ishii, 2018)。

3)  乳がんの早期発見や治療を目的とした活動。

4)  Roth(1995)は,ブランドが消費者に与えるイメージを機能的イメージ,感覚的イメージ,社会的イメージに分類し,機能的イメージは感覚的イメージや社会的イメージとの間に負の相関を持ち,機能的イメージと感覚的イメージは正の相関を持つことを確認した。この結果から,Huangらは,機能的製品と社会的・感覚的製品に分割し研究を行った。

5)  赤と橙のように2色の色相差が小さい配色を隣接色相配色といい,赤と緑のように2色の色相差が大きい配色を補色色相配色という。

6)  人々が対象や出来事に対して感じる心理的距離の遠近によって,精神的表象が異なることを示した理論。心理的距離が遠いときに抽象的・本質的な高次の解釈,近いときに具体的・副次的な低次の解釈が行われる(Abe, Moriguchi, & Yashima, 2015; Trope & Liberman, 2003)。

河股 久司(かわまた ひさし)

早稲田大学商学部講師(任期付)。2021年早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得。早稲田大学商学部助手を経て,2021年9月より現職。修士(商学)。専門は消費者行動。

References
 
© 2021 The Author(s).
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