本号の特集で取り上げたビジネスモデルは,古くて新しい問題である。事業の構図を思い描いたり,儲けの仕組みを編み出したりする人間の行為は,昨今にはじまったものではない。
これは,マーケティングについても同じことがいえる。顧客志向という考え方は,マーケティングという概念が登場する,はるか以前から,さまざまな商人の活動のなかに見られる。それにもかかわらず,新たにマーケティングという言葉が必要とされたのは,第2次産業革命によって勃興した近代企業による大量生産・大量流通のもとでは,新しいかたちでの市場対応や顧客関係の構築が求められるようになったからである。
ビジネスモデルについても同様であり,デジタル化,グローバル化,そしてコロナ禍が現代の社会をゆさぶるなかで,既存の産業の枠組みを超えた新結合によって新たな事業を生み出し,従前は与件とされていた収益源を見直すチャンスはむしろ広がっている。その新しさはどこにあるか,この可能性をとらえるためには,企業の経営やマーケティングにかかわる人たちにはどのようなフレームワークが必要か,そしてアカデミックな研究にはどのような方法が必要か。多くの人たちにとって本号の特集論文が,ビジネスモデルの活用の仕方を見直し,掘り下げて考える契機となることを願っている。