マーケティングジャーナル
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特集論文 / 招待査読論文
マーケティング・ミックスの多様性
― 4Pの組み合わせの質的比較分析(QCA) ―
久保 知一
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2022 年 42 巻 1 号 p. 17-27

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Abstract

マーケティング・ミックスはマーケターが最初に習うツールであるが,4つのPがどのように組み合わされているのかという問題はこれまで明確に扱われてこなかった。その理由は,社会科学で主流となった回帰分析では,3つ以上の変数の組み合わせの検討が困難だったためである。本論では,結果変数として,(1)ターゲットの価格弾力性の高低,(2)製品分類(買回品/最寄品),(3)トップ・シェアか否かの3つを設定し,それらを実現するマーケティング・ミックスについて仮説を提唱した。そして,日本の消費財メーカーから得た製品レベルのマーケティング・ミックスのデータ(n=167)を収集し,質的比較分析(QCA)を用いて,マーケティング・ミックスの組み合わせを検討した。

Translated Abstract

Marketing mix is the first tool that marketers learn, but the issue of how the 4 P’s are combined has not been clearly addressed. The reason for this is that in regression analysis, which has become a mainstream approach in the social sciences, it is difficult to examine combinations of three or more variables. In this paper, three outcome variables: (1) price elasticity (high or low), (2) product category (shopping goods or convenience goods), and (3) top market share or not, are identified, and a hypothesis on the marketing mix is proposed to realize these variables. Product-level marketing mix data (n=167) are then collected from Japanese consumer goods companies and evaluated using qualitative comparative analysis (QCA) to examine the marketing mix combinations.

I. はじめに

マーケティング・ミックスは,マーケティング学徒が最初に習うマーケティングのツールである。誰もが最初に,マーケティングの基本とは,ターゲット顧客のニーズに合わせて,マーケティング諸手段(4P)を適切に組み合わせることだと教えられたはずである1)。実際に,多くのマーケティングのテキストブックも,マーケティング手段である製品,価格,プロモーション,チャネルについての各論について多くのページを割いている。

マーケターなら誰もが知っているツールであるにもかかわらず,肝心のマーケティング・ミックスの組み合わせ方についての研究は数が少ない(Hida, 2007)。理論的な困難として,そもそも4つのPだけに限定しても,1つ1つのPを構成する要素はあまりにも多種多様であり,相当程度の抽象化を行わなければ理論的な命題を作れない。抽象化は現実のマーケティング戦略のいきいきとした態様を避けようもなく捨象する。それがゆえにマーケティング学者は,総論であるマーケティング・ミックスではなく,各論である各手段の精緻化に進んだとも解釈できる。また,実務的な理由として,マーケターにとっては,ひとたび作り上げたミックスが安定的な経営成果を生み出すのであれば,ミックスを抜本的に変更する必要は感じないということも挙げられる(Nakagawa, Amano, & Oki, 2009, p. 626)。

マーケティング・ミックスは,個々の手段をばらばらに考えてそれらが成果に与える正負の効果を問題にするのではなく,手段同士の組み合わせの妙を追求する考え方である。マーケティング・ミックスにおいては,ある手段が成果に対して正もしくは負の効果を常に及ぼすわけではない。その効果は他の複数の変数との相互依存関係によって変化する。例えば価格を例にとってみても,常に低価格が効果的ではない。高価格が適切な場合もあるし,低価格が適切な場合もある。価格をいずれにするかによって,他の手段も変化する。

マーケティング・ミックスが組み合わせの妙を追求する考え方であるがゆえに,その実証研究も満足のいく形では進んでいない。社会科学において統計学的実証研究が進展する一方で,マーケティング・ミックスの実証研究が進んでこなかった理由は,回帰分析に代表される線形結合型モデルとマーケティング・ミックスの考え方の相性が悪かった点にある。というのも,線形結合モデルでは,従属変数への個々の独立変数の正ないし負の効果が一意に決まる。後述するように,独立変数をかけ合わせて交互効果を検討することも可能ではあるが,解釈が容易であるのは2つの変数の積までで,3つになっただけで解釈は相当に困難になる(Aiken & West, 1991)。ましてや,マーケティング・ミックスの変数は少なくとも4つ存在するのである。回帰分析に代表される線形結合型モデルでは,多くのマーケティング手段の組み合わせの妙を適切に表現できないのである。

そこで本論では,マーケティング・ミックスの実証分析手法として,変数のカテゴリーの組み合わせと従属変数との関連を検討する質的比較分析(QCA)を採用する。マーケティング研究では,QCAはスモールデータでも分析可能という点に注目されているが(Tamura, 2015),もう1つのメリットは,組み合わせを扱うのに適している点にある。本論はマーケティング・ミックスの組み合わせに関する仮説を整理した上で,QCAを用いて実証的にその妥当性を吟味することを目的とする。

II. 文献レビュー

1. 概念的研究

マーケティング・ミックスとして最も著名な枠組はMcCarthy(1960)の4Pであろう2)。McCarthyは最も重要な要素は顧客であり,顧客市場が最初に選択される必要があることをことわった上で,4つの変数が等しく重要であると述べている(p. 40)。McCarthyの4Pは,顧客ニーズにフィットするようにマーケティングの4つの手段を組み合わせることを明示したわかりやすい図式であった。それだけでなく,おそらくは頭文字を全てPで揃えるべく,本来ならdistributionもしくはchannelと表現されるべき流通チャネルをPlaceと表現したことで,初学者にとって覚えやすくなったことも後世に残った理由であろう。

4Pの枠組を修正する試みも多い。一例として,van Waterschoot and Bulte(1992)は,プロモーションに含まれるセールス・プロモーションがその他全ての残余カテゴリー(residual category)であるかのように扱われていることを問題視して(p. 85),プロモーションを3タイプに拡張し,さらにマーケティング・ミックスのついても既存の基本ミックスに加えて,プロモーション・ミックスなる枠組も提案している(p. 90)。

2. 製品分類とマーケティング・ミックス

消費財のマーケティング・ミックスを考える際にもっとも古典的な概念枠組は,Copeland(1923)に端を発する製品分類に基づいたチャネル構造選択論である(Furo, 1968)。この研究群はマーケティング・ミックスという言葉は使っていないが,消費者の購買行動に基づいて製品を分類し,それらに応じた組み合わせを提案している。

製品は,消費者の購買習慣によって,最寄品(convenience goods),買回品(shopping goods),専門品(specialty goods)の3タイプに分類される(Copeland, 1923)。最寄品とは消費者が買物出向の努力をしないで購買するタイプの製品であるため,製造業者にとっては小売店舗の配荷率を高める必要があり,卸売業者を用いた長いチャネルが選択される(p. 283)。買回品は消費者が製品カテゴリー内のブランドを比較した上で購買するタイプの製品であるため,配荷する店舗数は減り,より短いチャネルが選ばれる(p. 283)。専門品は,消費者が特定ブランドを指名買いし,そのために買物出向の努力をいとわないタイプの製品であるがゆえに,配荷される小売店舗数はさらに少なくなる。

消費者の購買習慣に基づいてマーケティング変数の影響を検討した研究として,Porter(1976)も挙げられる。Porter(1976)は小売店頭での販売員による接客サービスの重要性にもとづいて,製品を最寄品と非最寄品の2タイプに区分した。そして,消費者の製品選択の際の情報提供貢献度の観点からは,最寄品の場合は製造業者による広告が重視されるが,非最寄品の場合は小売店舗内の販売促進が重視されると主張している。

マーケティング・ミックスを製品類型ごとに分類し,その組み合わせの論理を提案した研究としてHida(2007)が挙げられる。ここでは,消費者の購買から消費に至るプロセスとマーケティング手段を関連付けて,高価耐久品と安価消耗品の2つの類型についてマーケティング・ミックスの組み合わせを理論的に示している。

3. マーケティング・ミックスの実証研究

マーケティング・ミックスに関する実証研究は,従属変数に売上やシェアをとり,独立変数としてマーケティング手段を含めたモデルを設定して,手段間の交互効果に注目して展開されてきた(Gatignon, 1993)。単純化のために,(1)式のYを製品の市場シェアなどの成果変数,マーケティング手段としてX1とX2の2つの変数がYを変動させるものと定式化する。ϵは2つの変数で補足しきれないYの変動を示す誤差項である。すると,2つの手段の相互作用はその積X1X2として表現される。

  

Y=α+β1X1+β2X2+β3X1X2+ϵ(1)式

この定式化の下では,成果変数Yに与えるX1の効果は,(1)式をX1で偏微分した(2)式で与えられる。もしマーケティング手段X1とX2が相互作用を持たなければ,β^3=0と考えられる。一方,相互作用を持つのであれば,X1の1単位の増加はYに対して,β^1の単独の効果に加えて,β^3X2という相互作用を与えることになる。

  

∂Y^∂X1=β^1+β^3X2(2)式

この定式化は,ある独立変数(X1)が従属変数(Y)に及ぼす効果(β^1⊥)が,別の調整変数(X2)によって変化することを意味している。こうした相互作用を見出した研究は数多い。例えば,人的販売の効果は,サンプルもしくはハンドアウトの配布によって向上すること(Parsons & Vanden Abeele, 1981),広告効果は営業(Swinyard & Ray, 1977)により,そして価格の効果は広告量(Comanor & Wilson, 1979)によって向上することなどが報告されている。

日本でもマーケティング・ミックスの実証研究は行われてきた。Tamura(1986)は,製品を販売する事業単位をサンプル(n=77)として,企業成果(売上高成長率,市場シェア成長率,営業利益成長率)へのマーケティング変数の影響について検討している。ただし,プロモーションや製品分類については考慮されておらず,変数の組み合わせの効果についても検討していない。Takahashi(1995)は,日本の製造業およびサービス業105社を対象とした調査を行い,Tamura(1986)と同様に,企業成果に対してどのマーケティング・ツールが関連を持つのかを吟味している。この研究では47のマーケティング変数から因子分析によって14の因子を抽出している。段階的回帰分析の結果,消費者満足追求型製品因子(アフターサービス体制,顧客ニーズに合った価格設定),消費者向け情報発信因子(広報活動,カタログ・DMによる情報提供),消費者向け販売促進因子(試供品・無料体験,口コミを期待した話題提供)の3つの因子が企業成果と正の関連を持つことが報告されている。

4. 評価

ここまでの文献レビューが示してきたように,マーケティング・ミックスの考え方自体はMcCarthy(1960)よりも遡る古いものであり,そして,今に至るまでマーケティングの世界で幅広く受け入れられているにもかかわらず,4つのPの組み合わせに関する研究はあまり進んでいない。マーケティング研究者は,ミックスの組み合わせ方という総論よりも,それぞれのPという各論を重視して研究を蓄積してきたのである。

それでは,なぜ4Pというマーケティング・ミックスという枠組自体が消えていかないのかという疑問が浮上する。その理由は,マーケティング研究のディシプリン3)としてのミクロ経済学の存在がある。ミクロ経済学は消費者の選択行動と複数の企業の費用構造や戦略さらには企業間競争を統一的に扱う理論的枠組であり,消費者行動とマーケティング戦略の有機的な関連付けを可能にする唯一の枠組みである(Ikeo, 1991)。4つのPは,ミクロ経済学の完全競争モデルが捨象した要素に対応する。完全競争市場では,無数の売り手と買い手が存在し,情報は完全で,参入・退出にはコストがかからず,財は同質であり,その結果,売り手も買い手も市場で決まった価格を受け入れるプライス・テイカーとして行動することになる。現実の市場は程度の差はあれども不完全競争市場である。したがって,製品は差別化され,プロモーションが不完全情報を補い,企業が一定の範囲で価格を設定できる。また,取引費用がかかるがゆえに,流通チャネルを作り上げる意義が生じる。このように,マーケティングの4つのPは,完全競争市場で捨象された要素に対応するものであり,理論的に意外に堅牢な枠組なのである。

III. 質的比較分析(QCA)の導入

1. QCA

マーケティング手段がシェアや利益などの結果に及ぼす影響は,正や負に一意には決まらない。価格がよい例であろう。競合他社に比べて高価格ないし低価格だからといって好ましい結果が生じるわけではない。高価格にフィットする組み合わせがある一方で,低価格にフィットする組み合わせもありうる。このような特徴をもつマーケティング・ミックスを分析するには,回帰分析に代表される線形結合モデルの適用は,係数の符号が一意に決まるという理由で不適切である。また,変数の積をとっても,無理のない解釈が出来る相互作用は2変数までであり,3つ以上の相互作用の解釈は困難である(Aiken & West, 1991)。

そこで本論では,実証分析手法として,QCAを用いることとする。QCAは,特定の結果をもたらす変数の組み合わせを見つける手法である。QCAは,複数の事例を配置構成(configuration)に変換することで,事例の比較を可能とする。配置構成とは,ある結果を生み出す条件の特定の組み合わせである(Rihoux & Ragin, 2009/2016, p. 3)。

2. QCAを用いたミックスの実証研究

QCAを用いてマーケティング・ミックス自体を扱った研究は発見できなかったが,似た研究は複数存在している。Frambach, Fiss, and Ingenbleek(2016)は企業成果を高める市場志向,戦略,そして環境の組み合わせを,オランダの製造業およびサービス業(n=126)のデータを用いて,QCAで分析したものである。独立変数として,顧客志向,競争志向,技術志向,戦略タイプ,競争ダイナミズムの5つの変数を用意し,それらの4種類の組み合わせが企業成果を高めると主張している。Johansson and Kask(2017)はスウェーデンのスポーツ小売業(n=74)について,小売業者の成果(利潤と成長率)を高める小売ミックスの組み合わせを吟味した研究である。用意された小売ミックス変数は,小売業態(リアル/Eコマース),事業戦略(コストリーダーシップ/差別化),マルチチャネル展開(2種類)である。彼らはQCAに先立ってケース分析(n=5)から帰納的に仮説を導出し,QCAを施している。

Azuma(2017)は,QCAを用いて日本の飲食店チェーン(n=39)の盛衰を分析した研究である。結果変数を,分析期間中にトップ企業群以上に成長するか否かの二値変数とし,原因として9つの変数を用意した。それらは,サービス,価格,マルチフォーマット,メニュー内容,アルコール有無,利用目的,資本・出自タイプ,FC方式,創業時期である。そして,年代ごとに高い成長を遂げる飲食店チェーンのミックスを明らかにしている。Yokoyama(2019)も小売ミックス(立地,価格,品揃え,サービス)を扱ったQCAの研究であり,日本の食品スーパーで顧客満足を高める小売ミックスの組み合わせが検討されている。特定の1つの食品スーパーの利用者(n=401)を対象とするQCAの結果,「高い顧客満足」をもたらす組み合わせは,「立地,価格,サービス」,「立地,品揃え,サービス」,「価格,品揃え,サービス」の3つの組み合わせであり,「低い顧客満足」は「価格,サービス」と「価格,品揃え」が低い組み合わせであった。分析の結果,高い顧客満足の必要条件はサービスであり,低い顧客満足の必要条件は高価格であることが示されている。

ここで紹介した研究はいずれもfsQCA(ファジィ集合QCA)を用いている。fsQCAは条件の尺度が0/1の二値でなくとも利用可能であり,分析の柔軟性が高いという利点を持っている。しかし一方で,1つ1つの条件のカテゴリー化手続きである較正(calibration)において,分析者の主観が入り込むという問題点がある。

IV. マーケティング手段の操作化

1. リサーチ・クエスチョン

ここまでの検討を経て,本論は,「製造業者が展開するマーケティング・ミックスの典型的な組み合わせはなにか?」というリサーチ・クエスチョンを設定する。そして,このクエスチョンに答える仮説の設定に先立って,マーケティング手段の操作化を行う。あらかじめ手段を単純化することによって,組み合わせの仮説をより容易に導出できるようになる。

2. 製品

企業が製品を設計する際に設定する最も重要な要素は品質であろう。マーケターは製品を製品属性の束(bundle of product attributes)として捉えて,品質を多次元にとらえている。それゆえマーケターは,消費者は製品そのものではなく,製品に含まれる製品属性から効用を得るものと捉えるのである(Ikeo, 1991)。ただし,本研究では複数の製品カテゴリーにまたがって,幅広く消費財のマーケティング・ミックスを探求するがゆえに,あらかじめ複数の製品属性を設定することは困難である。実際に,食品と洗剤に共通する製品属性など存在しない。そこで本論では,競合製品と比較した相対的な品質として,競合製品に比べて,「高い」,「同程度」,「低い」の3カテゴリーを設定する。

3. 価格

製品だけでなく価格も重要な要素である。ターゲット顧客のニーズを特定の製品しか満たせないならば,彼らのWTP(willingness to pay:支払意志額)は高くなり,企業は高価格を設定できる。Porter(1980)はこうした戦略を差別化戦略と呼んだ。一方,製品の品質がライバルと同様であっても,費用構造が有利であれば,ライバルと同じ価格を設定しても製品1つあたりの利幅が大きくなる。このような効率的な費用構造を利用した戦略がコストリーダーシップ戦略である(Porter, 1980)。重要な点は,コストリーダーシップ戦略は必ずしもライバルよりも低価格を設定する必要がないことである(Kusunoki, 2010, p. 175)。ライバルを駆逐して市場を独占するような強い意図がない限り,略奪的価格設定(predatory pricing)と呼ばれるような,ライバルよりも低い価格を設定する合理的根拠はない。

本論の調査対象には多くの製品カテゴリーが含まれるため,価格を絶対値で測定することにはあまり意味がない。それより,競合他社と比べた相対的な価格水準を測定し,競合他社に比べて価格が「高い」,「同程度」,「低い」の3つのカテゴリーを設定した。前述のように略奪的価格設定は現実にはさほど行われていないと予想されるものの,カテゴリーを完備なものとするために「低い」も用意した。

4. チャネル

Placeに対応するチャネル構造の代表的な基準は,広狭基準,長短基準,開閉基準の3つである(Furo, 1968)。広狭基準は配荷店数を,長短基準は製造業者から消費者までの流通業者の数を,そして開閉基準は製造業者が流通業者を絞り込む基準の厳しさをそれぞれ示すものである。ただし,これら3つの基準の相関はかなり高いものと考えられる。そこで本論では,回答者にとって回答に迷いが少ないと思われる広狭基準を用いた。カテゴリーとして,同業他社に比べた配荷店数が「多い」,「同程度」,「少ない」の3つを設定した。

5. プロモーション

Kotler and Keller(2006/2008)は,プロモーションをマーケティング・コミュニケーションと呼んで,その要素として広告,人的販売,パブリシティ,販売促進,ダイレクト・マーケティング,イベントと経験を挙げている(Kotler & Keller, 2006/2008, pp. 664–665)。この中でも消費財のマーケティングにとって重要な要素はメディアを用いた広告と,人的販売の2つであろう。本論では,広告費や販売員数などの絶対額ではなく,各社が広告と人的販売のどちらを相対的に重用しているのかを測定した。そこで,「広告(テレビ,WEBなど)が中心」か「人的販売が中心」かの2カテゴリーを設定した。ここまでの議論は表1に要約される。

表1

マーケティング手段とカテゴリー

V. 仮説

本論では比較を容易にするために,消費財メーカーを想定して仮説を設定する。マーケティングはもともと,大量生産に従事する消費財メーカーが,最終消費者に対する大量販売をいかに実現するかという問題意識から産まれてきたものである(Tedlow, 1990)。したがって,消費財メーカーを対象とした仮説を設定することは理にかなうであろう。

1. ターゲット顧客とのフィット

マーケティング・ミックスで最も基本的なことは,ターゲット顧客のニーズにフィットした製品を作り,さらにその製品の良さが引き立つように残りの3つの手段を組み合わせることである(Numagami, 2008)。顧客ニーズは様々であるが,数量として表現するために,最も基本的な変数としてターゲット顧客を価格弾力性の高低で2つに分類する。

価格弾力性とは,消費者が価格変化に対して購買量をどの程度変化させるのかを示す指標である。価格弾力性が高い消費者は,わずかな価格変化に対しても購買量を大きく変動させる。一方,価格弾力性が低い消費者は,大きな価格変化に対しても,購買量はさほど大きく変動しない。したがって,価格弾力性が高いターゲット顧客を狙う場合は,価格はライバルに比べて同程度とするであろう。消費財産業では,生産設備に限界があって需要を総取りできない。そこでは企業は,ライバルよりも低価格を設定して価格競争を挑むよりも,製品1つあたりの利幅(価格と1つあたりの費用の差額)を高めるべく,原価低減に勤しむであろう。この議論はPorter(1980)のコストリーダーシップ戦略と通じるものである。販売量を増やすために,広告によるプル・プロモーションを重視し,配荷店数も多くするであろう。したがって,仮説1を次のように設定する。

仮説1 価格弾力性が高い顧客を狙う企業は競合他社と同程度の価格を選択する。製品の品質は競合他社と同等,配架店数は多め,プロモーションは広告を重視する。

一方,価格弾力性が低い顧客は,当該製品に対してこだわりが強く,価格が上昇しても購買を続けるため,販売数量はさほど低下しない。したがって,価格弾力性が低い顧客をターゲットとする企業は,その顧客のニーズにぴったりとフィットするように品質を高めに作り込み,高価格を設定することになる。この議論も先と同様に,Porter(1980)の差別化戦略と対応するものである。すると,配荷店数はさほど多くとる必要はないため,競合他社と同程度か少なめとなり,プロモーションは高品質な製品についての情報提供を行うために人的販売が重視されるであろう。したがって,以下の仮説2を設定する。

仮説2 価格弾力性が低い顧客を狙う企業は高価格を選択する。製品の品質は高め,配架店数は同程度か少なめ,プロモーションは人的販売を重視する。

2. 製品分類とマーケティング・ミックス

チャネル構造選択論は,消費者の買物パターンによって製品は分類され,それに対応してチャネル構造も変化すると主張してきた。本論は,買回品と最寄品を識別して,それぞれに対応するマーケティング・ミックスを仮説化する。

買回品とは,消費者が特定の製品カテゴリーに対してこだわりを持つが,そのカテゴリーに含まれる特定のブランドに対してはこだわりを持っておらず,複数のブランドを比較検討の上で購買する製品を指す。買回品の特徴は,複数の小売店舗に出向することではなく,WEB上も含めて,複数のブランドを比較検討することにある。したがって,製造業者は競合製品との差別化に注力し,消費者が理解可能な違いを作り出すことに腐心することになる。競合製品と比較される買回品は,小売店頭での販売員による説明や販売サービスも購買のトリガーとして重要である(Porter, 1976)。したがって,プロモーションにはメディア広告よりも人的販売が重要であろう。販売員が製品の特徴を説明しやすいように,製品属性は特徴あるものとなり,品質も高めとなる。購入頻度が低いため,配荷店数は競合他社と同程度でよく,差別化されているために価格は競合他社に比べて同程度ないし高めとなるであろう。したがって,以下の仮説を設定する。

仮説3 買回品の場合,企業は競合他社よりも高い品質を設定し,同程度ないし高めの価格を設定し,配荷店数は同程度,プロモーションは人的販売を重視する。

次に,最寄品とは,消費者が特定のブランドにこだわりをもたず,購買に労力をかけないが,頻繁に購入するタイプの製品のことである。最寄品を販売する企業にとっては,消費者が買い回りの労力をかけさせないように,チャネルを広くして配荷率を増やす必要がある。製造業者にとっては,多くの小売店舗に製品を配荷して,消費者の目に留まるような店舗環境を作ることが最も重要となる。多くの小売店舗に配荷するには,卸売業者を経由して長いチャネルを構築する必要がある。製造業者にとっては間接チャネルの場合,小売店頭での価格設定権を持てないであろう。そこで企業は店頭想起率を高めるべくメディアを用いた広告を重視するものと考えられる。したがって,以下の仮説を設定する。

仮説4 最寄品の場合,企業は競合他社と同程度の品質と価格を設定し,配荷店数は多くなり,プロモーションは広告を重視する。

3. シェアとマーケティング・ミックス

マーケティング・ミックス・モデルの典型的な従属変数は当該製品の売上ないしそこから算出される市場シェアである(Gatignon, 1993)。本論では,従属変数たる市場シェアを,その製品カテゴリーでトップ・シェアのリーダーであるか否かとして二値変数で定義する。

トップ・シェアであるリーダー企業が競争優位を得るルートには,コストリーダーシップと差別化の2つがある(Kusunoki, 2010)。したがって,ターゲット顧客の価格弾力性によって2つのパターンがありうる。価格弾力性が高い顧客を狙ってトップ・シェアとなる企業は,規模の経済や範囲の経済という費用ダイナミクスを活かしているであろう(Chandler, 1990)。一方,価格弾力性が低い顧客を狙ってトップ・シェアを得ている企業は,品質を作り込み,その結果,相対的に高価格を設定するであろう。リーダーは数を売る必要があるため,チャネルは開き,プロモーションはメディア広告に依存することになるであろう。したがって,下記の仮説を提唱する。

仮説5 価格弾力性が高い顧客を狙う場合,トップ・シェアをもたらすマーケティング・ミックスは,品質と価格は競合他社と同じか高めで,配荷店数は多く,プロモーションは広告重視である。

仮説6 価格弾力性が低い顧客を狙う場合,トップ・シェアをもたらすマーケティング・ミックスは,品質と価格は競合他社より高めで,配荷店数は多く,プロモーションは広告重視である。

VI. 実証分析

1. データ

消費財メーカーを対象とした質問票調査を行い,データを収集した。矢野経済研究所発行の『日本マーケットシェア事典(2021年版)』に掲載された製品カテゴリーのうち,主に小売店で販売されている消費財を238製品カテゴリー抽出し,シェア上位としてランクされた1,166製品を販売する企業を選定した。2022年2月上旬に,各製品を販売している企業に対して質問票を郵送し,回答を依頼した。紙ベースでの返送に加えて,Web上でも回答可能とした。回収された175の質問票から不備な質問票を取り除いた結果,最終的に112社の171製品カテゴリーの有効回答を得た。有効回答率は14.6%であった。

2. 分析技法

本論では,多値的質的比較分析(multi-value QCAまたはmvQCA)を用いる。設定した仮説の条件の多くには,3つのカテゴリーが含まれている。それらをダミー変数として二値変数にしてcsQCAを適用することも可能ではある。しかしその場合,モデルに含まれる条件の総数がサンプルサイズに比べて多くなりすぎるという問題が生じる(Rihoux & Ragin, 2009/2016, p. 90)。さらに,mvQCAの適用にはより本質的な利点がある。fsQCAでは,比率尺度ないしは間隔尺度で測定された変数を,0から1の閉集合の中で,ファジィメンバーシップとして割り当てる必要がある。その際のキャリブレーションの基準は恣意性が残るため,調査対象者の回答をそのまま用いるmvQCAの方が,分析者の恣意的判断を介在させる余地が少なく,望ましいと考えられる。

分析にはR 4.1.2のQCAパッケージを用いた。ここでは6つの分析を行ったが,まずは4つの条件の中に単一の必要条件が存在するかをチェックするべく,整合性の制約を0.9以上として分析した。その結果,仮説1および2の分析以外に,この制約は満たされなかった。このことは,結果を生み出す組み合わせが多種多様であることを示唆している。

3. ターゲット顧客とのフィット

表2~4のCiは結果をもたらす十分条件と考えられる配置構成(configuration),すなわちマーケティング手段の組み合わせを示している。まず,結果に対する必要条件をチェックするため,整合性を0.9以上として分析した。その結果,製品の品質が競合他社より高いことが必要条件として得られた。結果をもたらす十分条件については,高い場合は3つ,低い場合は2つの組み合わせが示された(表2)。

表2

ターゲット顧客の価格弾力性に対応したマーケティング・ミックス

仮説1では,価格弾力性が高いターゲットを狙う企業は,大量販売にフィットしたミックスを選択すると想定した。C1は,価格をライバルと同程度に設定し,広告を重視するものであった。C2では,配荷店数が多いが,プロモーションは人的販売となっている。この点は,回答企業が流通業者との人的プロモーションを重視していることを反映しているのかもしれない。C3は価格を高めとして広告を重視するタイプのミックスが見いだされた。この結果,仮説1については部分的に支持されたものと考えられる。仮説2については,価格弾力性が低い顧客は,高品質にみあう高価格を受け入れるものと考えられるが,それに合致するのはC2のみであった。とはいえ,C1もC2も概ね仮説2に近い組み合わせであった。

4. 商品分類:最寄品/買回品

次に,小売店頭での接客・説明が販売にとって重要か否かで買回品と最寄品に区分し,それぞれに対応した組み合わせを検討した(表3)。整合性を満たす必要条件は見いだされなかった。買回品に関する仮説3と最も近い組合せはC2であったが,プロモーションは仮説に反して人的販売ではなく広告が重視されていた。一方,最寄品に関する仮説4については,チャネルとプロモーションで仮説に矛盾する組合せが示された。

表3

製品分類(最寄品/買回品)に対応したマーケティング・ミックス

5. トップ・シェア

最後に,トップ・シェアか否かの二値変数を結果変数として分析を行った。リーダー企業の競争優位は,価格弾力性が高い顧客を狙うコストリーダーシップ戦略と,価格弾力性が低い顧客を狙う差別化戦略の2つがある(Kusunoki, 2010)。表4は,仮説5に対応する価格弾力性が高い顧客を狙う製品カテゴリー(n=56)と,仮説6に対応する価格弾力性が低い顧客を狙うもの(n=111)に分けた分析である。ここでも必要条件は見いだされなかった。

表4

ターゲット顧客ごとのトップ・シェアに対応したマーケティング・ミックス

仮説5について,十分条件を満たす組み合わせはC1のみであった。製品品質は同程度であったものの,価格は高めであった。また,大量販売のためにプロモーションは人的販売を重視するものと考えられたが,人的販売が重視されていた。仮説6については,C2は仮説に近いものであるが,ここでもプロモーションは予想に反する結果となった。

VII. 結論

本論は,なぜマーケティング・ミックスの組み合わせを扱う実証研究が少ないのか,という素朴な疑問からスタートした。そして,3つのQCAを行った結果,それぞれ,顧客の価格弾力性の高低,製品分類(買回品/最寄品),トップ・シェアか否かに対応して,異なったマーケティング・ミックスが見いだされた。仮説に正確に一致する組み合わせは見いだされなかったものの,多彩なミックスが用いられていることが発見された。

製品と価格については,概ね仮説と合致する結果が得られた。特に,買回品(C1)にはよく当てはまった。一方,プロモーションについては仮説と異なって,人的販売が非常に重視されているという結果になった。その理由として,製造業者から流通業者への人的販売を示す,いわゆるプッシュ型プロモーションとして回答者が解釈したのかもしれない。

本論は,非常に簡素なマーケティング・ミックスを捉えてきた。特に,消費財製造業だけを想定してきた。しかし,マーケティングの担い手は彼らだけに限られない。例えばサービス・マーケティングの領域では,従来の4Pに加えてParticipants(参加者),Physical Evidence(物的実体),Process(プロセス)の3つを加えた7Pがよく知られている(Booms & Bitner, 1981)。今後はサービス・マーケティングへの展開も必要であろう。

謝辞

本研究はJSPS科研費17K04005の助成を受けたものです。

注
1)  25年にわたって版を重ねてきたWada, Onzo, and Miura(2022)は,「マーケティングの入門講座(中略)では,「マーケティング戦略とは何か」という問いに対して,しくみとしての「マーケティング・ミックス」あるいは「マーケティング4P」を作ることと答えれば合格である」と述べている(p. 9)。

2)  最初にマーケティング・ミックスという用語を用いたのはBordenである。Bordenは,様々なマーケティング・プログラムの要素をどのように組み合わせるべきかを考えた(Borden, 1964, p. 8)。

3)  ディシプリンとは,人間の行動を分析する際の特定のアプローチであり,経済学,心理学,社会学が挙げられる。これらはいずれも人間行動を異なった視点で分析する。ミクロ経済学は,人間が効用や利潤を最大化するべく行動した結果として社会現象が生じているものと考える。

久保 知一(くぼ ともかず)

中央大学商学部教授。1996年 明治学院大学経済学部経済学科卒業,2004年 慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程単位取得退学,2004年 東京学芸大学教育学部経済学研究室講師,2008年 中央大学商学部准教授,2013年~2015年 コロンビア・ビジネススクール客員研究員,2019年~2020年ニューヨーク大学スターン・スクール・オブ・ビジネス客員研究教授,2018年より現職。専門は流通論,マーケティング論。

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References
 
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