マーケティングジャーナル
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書評
岡田庄生(2023).『ユーザー発案者効果 ― ユーザー創造製品のマーケティング・コミュニケーション戦略 ―』碩学舎
青木 慶
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2025 年 45 巻 2 号 p. 178-180

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I. ユーザー発案者効果とは

「お客様のアイデアから生まれた商品です」

近年,消費者との価値共創に取り組む企業は枚挙に遑がなく,このような店頭POPや商品タグを見かけることも珍しくはない。だが,果たしてこのような取り組みは,本当に効果があるのか。ユーザー参加型の新製品は,通常の新製品と比較して,市場で高い成果を得ていることが明らかにされている(Nishikawa et al., 2013)一方で,著者は学術研究で示されてきた成果と,実際にマーケターが得ている実感にはギャップがあることを指摘する。「やってみたものの,思ったほど売れなかった」という実務家の声に対して,本書はひとつの解決策を提示しようとするものである。

Nishikawa et al.(2017)は「ユーザーのアイデアから生まれた」商品であるという情報を提示することが,購買意向を高めることを明らかにした。著者はこれを「ユーザー発案者効果」と命名し,その普及を試みる。1960年代後半に,「フランス産のワイン」「ベルギー産のチョコレート」という原産国表示が,消費者の購買意向を高めることが明らかにされ,それを機に,企業が原産国を示すことをひとつの価値としてとらえるようになった。同様に,著者は製品の発案者を表示することの意義を企業に意識づけることで,ユーザー参加型の新製品開発の促進を目指す。

本書では,ユーザー発案者効果を,増幅あるいは低減させる要因について,実証研究を重ねる。以下に,その研究の視点を紹介する。結果については,そこに至るプロセスを詳述する,本書を参照されたい。

II. ユーザー発案者効果における媒介要因

本書では,ユーザー発案者効果を媒介する要因を特定することで,購買意向への影響を検証する。つまり,消費者は「ユーザーが発案した製品だから買う」のではなく,「ユーザーが発案した製品だから○○→○○だからその製品を買う」という三段論法に基づいて,「○○」に該当する要因を検討する。

1. 「新奇性」「有用性」の検討

3章では,新奇性(その製品が,革新的なものであるという消費者の認識)と有用性(同様に,有用なものであるという認識)の媒介効果を検討している。

具体的には,新奇性に関しての実証実験の場合,「ユーザーのアイデアから生まれた」「社内デザイナーのアイデアから生まれた」という,2種類の製品画像を見た被験者が,どちらを購入するかを回答し,次に製品の革新性を評価する。これにより,製品の革新性の知覚の媒介効果を検討する。実証実験は,2,800円のデザインTシャツと,63,000円のラグジュアリーレザーバッグについて実施された。

2. 「予防焦点」「促進焦点」の検討

4章では媒介要因として,「予防焦点」と「促進焦点」(Higgins, 1997)を検討する。予防焦点とは端的にいうと,消費者が「失敗を回避できる」と知覚することであり,「促進焦点」は「現状を変えてくれる」と知覚することである。

3章と同様の手順で,「お客様のアイデアから生まれた」グラノーラと「開発担当のアイデアから生まれた」グラノーラ(いずれも450円)を用いて,購入意向と,被験者の「失敗を回避できる」「現状を変えてくれる」という知覚に与える影響を確認する。

III. ユーザー発案者効果の境界条件

ユーザー発案者情報は,必ずしも全てのカテゴリーにおいて効果を発揮するわけではない。例えば,高級ブランドでは,「ユーザー発案」を提示した場合,「デザイナー発案」と比較して,購入意向に負の影響を与える(Fuchs et al., 2013)。ロボット玩具のような技術的複雑さが高い製品においても同様である(e.g. Schreier et al., 2012)。本書では,このようなユーザー発案者効果が失われる「境界条件」についても検討する。

1. 製品カテゴリーの違い

ロシター・パーシー・グリッド(Rossiter et al., 1991)では,意思決定のタイプ(低関与と高関与)と購買動機(情報型と変換型)で製品カテゴリーを分類する。すなわち,意思決定に時間をかけるのかどうか,また購買動機が負の解消や問題の回避なのか,ポジティブな感情や感覚的なものなのかという分け方である。

5章では,この4つの製品カテゴリーでユーザー発案者効果を検証することで,境界条件を見出す。具体的には,以下の製品が実証実験に用いられた。

● 低関与・情報型:ミントタブレット(108円),食器洗剤(130円),歯磨き粉(210円)

● 低関与・変換型:ポテトチップス(133円),グラノーラ(442円),サイダー(135円)

● 高関与・情報型:メガネ(35,000円),スタッドレスタイヤ(45,000円),レインブーツ(17,700円)

● 高関与・変換型:ネックレス(129,800円),サングラス(41,400円),香水(15,500円)

2. 制御焦点の違い

6章では,広告メッセージが「予防焦点」型か「促進焦点」型(Higgins, 1997)であるかの違いが,ユーザー発案者効果に与える影響を検討することで,境界条件を見出す。実証実験にはグラノーラが用いられ,「新発売のグラノーラです」(中立型),「毎日の栄養不足を予防!」(予防焦点型),「元気をおいしくプラス!」(促進焦点型)という3パターンの広告メッセージが,ユーザー発案者効果に与える影響を確認した。

IV. 本書の意義

本書は「ユーザー発案者効果」について,ユーザーイノベーションの研究から,マーケティング研究,広告研究まで幅広く網羅した上で,丁寧に検証を重ねており,非常に学術的である。同時に,著者は実ビジネスにおいて,ユーザー参加型の新製品開発が広く活用されることを意図しており,これまでの研究が,ごく限られた製品開発の参加者に目を向けられてきたことに対して,大多数である非参加者への影響を明らかにすることの重要性を主張する。

本書は,市場において,ユーザー発案者効果がどのように発揮されるのか,そしてどのような場合にその効果が低減するのかについても詳述している。著者の意図した通り,ユーザー参加型の新製品開発を後押しするものであるといえよう。

V. おわりに

原産国の表示と同様に,発案者の表示が価値を生む。非常に興味深い視点である。本書では社外のユーザーが発案者であるケースに焦点が当てられたが,社員であり,かつ自社商品のユーザーでもある,企業内リードユーザーが発案者の場合などにも応用できるのではないか。「発案者」をマーケティング・コミュニケーションのツールとして活用する考え方には,様々な可能性が期待できる。

References
 
© 2025 The Author(s).

本稿はCC BY-NC-ND 4.0 の条件下で利用可能。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
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