マーケティングジャーナル
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
巻頭言
生成AIの可能性
水越 康介
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2025 年 45 巻 4 号 p. 265-267

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Translated Abstract

This special issue focuses on generative AI, which has garnered significant attention in recent years, and explores its impact on business, particularly marketing, and its potential. History shows that technologies are shaped not by initial expectations, but through social practices. The five articles in this issue examine generative AI from multiple perspectives. Two studies address consumer behavior, emphasizing anthropomorphism and emotional AI in shaping advertising evaluations and self-disclosure in travel planning. Three further contributions turn to organizational and industry contexts: exploring AI-assisted programming and tacit knowledge transfer, the role of generative AI in human resource management, and transformations in marketing communications, including shifting power relations between brands, platforms, and consumers. Together, these studies demonstrate the diverse ways in which generative AI is being applied, perceived, and debated.

Googleの元CEOエリック・シュミットは,2025年のTEDでの対談において,2016年にAlphaGoがトップ囲碁棋士に勝利した時,これから何が起こるのかはよくわかっていなかったと述べている。その後,AlphaGoからコロナ禍を挟み10年経たずして,生成AIが登場した。2022年,OpenAIのChatGPTである。ChatGPTは瞬く間に我々の日常に浸透し,今や多くの生成AIサービスが競合するとともに,レポート作成で生成AIを使うことは当たり前になり,会話するように検索をするようになり,話し相手もしてくれる。ビジネスの現場においても,アイデアを複数提案し,会議の議事録を一瞬でまとめ,コードを修正,作成して実行する。人間の仕事がなくなるとさえ言われるようになった。

もちろん,現実には,新しい技術がどのように社会に浸透し,定着していくのかについては議論の余地がある。当初の期待がそのまま社会を形作るわけではない。コンピューターも登場した当初は高級な計算機とされ,文章を清書するワープロの一つだと考えられていたこともあった。インターネットもまた,ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブスですら,コンピューターにとっての付随的なサービスにすぎないと考えていた。生成AIも,ある時は強い棋士だったかもしれない。生成AIがこれからどのような姿になるのかは,ひとえに我々社会の実践の中にある。

本特集が示すのは,こうした社会の実践の一つである。ビジネスの現場において,生成AIはどのように捉えられ,またどのように用いられ始めているのだろうか。さらに,どのような可能性を想定されているのだろうか。一般の消費者はどうだろうか。生成AIをどのように捉え,またどのように理解し,どのように対応しているのだろうか。そして研究者は,生成AIをどのような研究対象として捉え,どのような可能性に注目しているのだろうか。本特集では,5つの論考を通じて,生成AIの可能性を考えていくことにしたい。以下では,それぞれの概要を紹介する。

最初の2つの論文は,消費者を対象とした生成AIに関する研究である。いずれも興味深いことに,擬人化を一つの重要な概念として捉えている。擬人化とは,受け手によって,ロボットのような機械,ブランド,動物,そして生成AIなど人間以外の存在に,人間のような特徴,行動,または精神状態が付与されることであるとされる。生成AIの可能性は,人間的ということにあるのかもしれない。

牧野・小倉・厳論文は,生成AIが作成した広告キャラクターが消費者の広告評価に及ぼす影響を考察する。本特集では最もスタンダードな消費者行動の実証研究であり,消費者の生成AIに対する理解をどのように捉えればよいのかがわかる。彼らは,バーチャルインフルエンサーに関する既存研究をもとに,バーチャルインフルエンサーを生成AIで作成する。既存研究では,バーチャルインフルエンサーは実用財との適合度が高く,快楽財においては人間のインフルエンサーのほうが好ましいと指摘されてきたという。これに対して,彼らの論文では,特定の快楽財を対象にして,擬人化傾向が高く,製品知識が高い消費者においては,バーチャルインフルエンサーが有効になることが示される。彼らは,バーチャルインフルエンサーと快楽財は適合度が低いとする従来の知見に対して新たな知見を提供するとともに,快楽財におけるバーチャルインフルエンサーの効果的活用に向けた実務的示唆を提示している。

続く小谷論文は,生成AIは,ユーザーの感情を理解し,共感や配慮を表現する能力を備えた感情AIだとされる。人は,生成AIの振る舞いに親密さや擬人化を感じ,信頼関係を構築しようとする。本論文では,生成AIによる旅行プランニングのケースを用い,生成AIとの関係性と自己開示の意向について3つの点を指摘する。第一に,人は生成AIが感情に対応できると知覚することで,AIとの親密さ,擬人化,信頼を感じる。第二に,感情AIとしての認知の高さは,親密さ,擬人化に加え信頼に影響し,第三に,生成AIに対して行動より感情の開示意向が高くなる傾向がある。感情AIとしての生成AIは多様なサービスへの応用が可能であり,消費者に対する新たなマーケティングが示唆される。

これら2つの論文に対し,残り3つの論文は,組織やより業界全体における生成AIの可能性を議論している。生成AIは組織の中で実際にどのように利用されるのか,評価されるのか,そして業界全体において,今後生成AIはどのようなインパクトを持ちうるのか。いずれも多くの人々が知りたい内容だろう。

依田・日高論文は,人と生成AIが協働する新たな方法であるAIペアプログラミングによるソフトウェア開発の実践を対象に,特に暗黙知に着目し,人と生成AIの協働の方法について考察する。彼らは,生成AIベースのITケイパビリティと呼称しうる新たな組織能力の萌芽を特定しようとする。重要になるのは,人と生成AIという異なる知の主体間における双方向の知識移転プロセスの相違である。具体的には,生成AIが解釈可能な方法で暗黙知を含めて効果的に形式知化される能力及びその限界の認識,ならびに生成AIが生成したコード等の形式知の根拠について人が文脈とともに能動的に解釈・評価し内面化していく能力である。インタビューの結果,人と生成AIの協働において,知識創造論が注目してきた暗黙知の重要性とともに,組織としての対応や人材教育への能力の重要性が提示される。

西村論文は,人事部門に携わる実務家に2時点のインターネット調査を実施し,人事業務における生成AIの活用実態を明らかにする。先行研究に基づいて,人事部門が生成AIをどの程度活用しているのかを把握するための項目も作成している。分析の結果,第一に,人事部門にとって生成AIは今のところ「味方」であり,高業績ワークシステムの補完的な機能や人事事務の関係性を向上させることで組織成果に寄与しており,生成AIが高業績ワークシステムの運用部分を担っていることが示される。第二に,生成AI支援型の人的資源管理は,新しいタイプの高業績ワークシステムになりうるともされる。他方で,人事部門の持つ生成AIの知識は脆弱であり,且つ一部の大手や先進的な企業を除き生成AIの活用は進んでおらず,見通しについても懐疑的で生成AIに全面的に切り替わることは想定していないことが示される。

最後に及川・鎌田論文は,生成AIのマーケティング・コミュニケーション(MarCom)における活用法と,それらの普及がブランド企業,プラットフォーマー,消費者にもたらす影響と力関係の変化を検討している。まず,MarComサービスの提供者側であるブランド企業やプラットフォーマーにおいて,生成AIは個別対応の自動化と最適化に活用される。消費者においては,MarComサービスの利用者側であるブランド選択や問題解決に利用される。これらの利活用がもたらす影響により,「特定のプラットフォーマーへの集中」「複数のプラットフォーマーとブランド企業の分散的な使い分け」「消費者主導のプラットフォーマーやブランド企業との関係の再編」が生じることが示される。及川・鎌田論文は,生成AIのマーケティングや経営における意味合いについて議論を活性化させ,今後のビジネスの可能性を広くおさえている。

5つの論文は,いずれもこれからの生成AIの可能性を示している。研究としても,定量研究はもちろん,定性研究やシナリオ考察といった多様な方法が駆使されており,これから生成AIを対象として研究を進めたいという場合にも参考になるだろう。生成AIがあるからもはや人間は不要だと,仕事でも日常生活でも言われないためにも,我々が研鑽を積む時である。

 
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