マーケティングレビュー
Online ISSN : 2435-0443
査読論文
リードユーザーとしての消費者の特徴に関するサーベイによる実証研究
― リードユーザーネスの先行要因と帰結 ―
本條 晴一郎
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2020 年 1 巻 1 号 p. 31-39

詳細
Abstract

先進的なニーズを認識し,ニーズの解決による便益を期待するリードユーザーは,製品の開発や普及,顧客開発など,様々な観点から注目を集めている。一方でリードユーザーについての定量的な研究は,特定の製品領域で行われてきた。本研究では,サーベイの枠組みで定量的な実証研究を行うことで,リードユーザーの一般的な特徴を見出すことを目指した。その結果,リードユーザーネスが製品領域に限定されずに消費者イノベーションの発生に帰結すること,幅広い他者に対して情報を探索するネットワーキング行動が先進性に正の,高便益期待に負の影響を与える先行要因となっていることが示された。製品領域に限定されない結果を得たこと,および,先行要因を行動レベルで捉えたことにより,リードユーザーに対する理解が,注目に見合うものに近づいたといえる。

Translated Abstract

Lead users who recognize advanced needs and expect benefits from solving such needs are attracting attention from various viewpoints, such as new product development, diffusion, and customer development. However, quantitative research on lead users has only been conducted in specific product domains. In this study, we aimed to determine the general characteristics of lead users by conducting quantitative empirical research using a large-scale internet survey. We found that lead userness has a positive impact on innovation likelihood without being limited to the specific product domains. With regard to antecedents, we found that a wide range of information acquisition behaviors, through idea networking with others, can have a positive impact on the trend dimension of lead userness, while they have a negative impact on the dimension of high expected-benefits. By obtaining results that are not limited to the specific product domains, and by capturing the antecedents at the behavioral level, it can be said that the understanding of lead users has approached what is worthy of attention.

I. はじめに

1. リードユーザーへの注目

インターネットをはじめとする情報通信技術の普及・発展および教育水準の向上により,消費者あるいはユーザーの力が相対的に増してきている。その中で,リードユーザーへの注目が高まってきた。リードユーザーは,関連する新製品や新プロセスのニーズにおいて特定のトレンドの最先端にいることを意味する先進性と,ニーズの解決によって比較的高い純便益が得られると予期していることを意味する高便益期待という2つの特徴によって定義されるユーザーである(von Hippel, 1986)。企業がリードユーザーを製品開発に巻き込むリードユーザー法が新製品に成功をもたらすだけではなく(Lilien, Morrison, Searls, Sonnack, & Hippel, 2002),リードユーザー自身が企業の手本となる製品開発の担い手になることも知られている(Horiguchi, 2015)。また,リードユーザーは新製品の早期採用を行ったりオピニオンリーダーの傾向を持ったりと,普及においても重要な役割を果たすことが分かっている(Schreier, Oberhauser, & Prügl, 2007; Schreier & Prügl, 2008)。さらに,スタートアップ企業経営の標準的モデルである顧客開発のプロセスでは,リードユーザーを購買者として発見する顧客発見が最初のステップとされている(Blank, 2013)。

このようにリードユーザーの重要性が認識されてきたが,リードユーザーに関する定量的な研究のほとんどは特定の製品領域で行われており,一般的な特徴の理解は発展途上である。本研究では,製品領域を限定しないサーベイの枠組みでリードユーザーについて調べることで,消費者をリードユーザーたらしめる要因を行動レベルで捉えることを目的とした。本研究は,消費者のリードユーザー度合いを表すリードユーザーネスについて,その帰結と先行要因をそれぞれ調べる2つのステップからなる。まず,リードユーザーネスが製品領域を限定しない状況においても,消費者当人の手による製品改良,製品創造に帰結することを確認した。その上で,イノベーターに特徴的な発見行動がリードユーザーネスの先行要因としてどのような影響を与えるかを調べた。

II. 先行研究と仮説

1. リードユーザーネス

消費者のリードユーザー度合いはリードユーザーネスとして尺度化されている(Franke, von Hippel, & Schreier, 2006; Hienerth & Lettl, 2017; Honjo, 2016a)。Franke et al.(2006)は先進性と高便益期待をそれぞれ概念化し,消費者自身が製品開発の担い手となる消費者イノベーション(Ogawa, 2013)の発生可能性に対し,先進性と高便益期待の両方が正の影響を与えること,先進性が実現された消費者イノベーションの市場性に正の影響を与えることを示した。ところが,リードユーザーネスの測定は,エクストリームスポーツであるカイトサーフィンを典型例として,専ら特定の製品領域において行われており,製品領域を限定しない状況において有効性を持つことは確認されていない。また,Franke et al.(2006)より後の研究では,先進性と高便益期待が合算されてリードユーザーネスとして調べられており,それぞれの効果が独立には理解されていない。

2. リードユーザーネスの帰結に関する仮説:消費者イノベーション

消費者イノベーションの実現については,各国の人口動態に即した代表性のあるサンプルに対してサーベイが行われており,研究が特定の製品領域でなされてきたという限界は既に乗り越えられている(Ogawa & Pongtanalert, 2011; von Hippel, 2016; von Hippel, de Jong, & Flowers, 2012)。サーベイは様々な国で行われており,手法が標準化されている。

本研究ではリードユーザーの一般的な特徴を理解するために,サーベイの枠組みでリードユーザーネスを測定することとする。製品領域を限定した状況において先進性と高便益期待が消費者イノベーションの発生可能性に正の影響を与えることから,製品領域を限定しない一般的な状況においても同様に帰結することが予想される。よって,以下の仮説を設定した:

▶ H1.先進性は製品改良の発生可能性に正の影響を与える。

▶ H2.高便益期待は製品改良の発生可能性に正の影響を与える。

▶ H3.先進性は製品創造の発生可能性に正の影響を与える。

▶ H4.高便益期待は製品創造の発生可能性に正の影響を与える。

3. リードユーザーネスの先行要因

リードユーザーネスの高さに影響を与える先行要因として,利用経験および製品関連知識という製品領域を限定した概念が知られている(Schreier & Prügl, 2008)。さらに,物事の原因を自らに帰属させて考える傾向を表す内的統制,すでに受け入れられた考えや行動のパターンを壊し問題と解決策を発見する傾向を表す革新性(Schreier & Prügl, 2008),発散的思考(Faullant, Schwarz, Krajger, & Breitenecker, 2012)という製品領域を限定しない概念がリードユーザーネスに正の影響を与えることもわかっている。ところが,リードユーザーネスの先行要因を調べた研究には2つの限界がある。まず,先進性と高便益期待が合算されてリードユーザーネスとして調べられており,それぞれの構成概念の先行要因が独立に理解されているわけではない。また,先行要因として調べられているのは態度や認知的スキルであり,よりマネジメント可能性が高い行動レベルの先行要因が調べられているわけではない。

4. リードユーザーネスの先行要因に関する仮説:ネットワーキング

イノベーターは,質問,観察,実験,ネットワーキングという4つの発見行動によって特徴付けられることが知られている(Dyer, Gregersen, & Christensen, 2008)。これらの尺度は個人のイノベーターを特徴付けるものとして一般的なものとなっている(Dyer, Gregersen, & Christensen, 2009, 2011)。発見行動が消費者イノベーションに対してどのように影響するかは調べられており,特に幅広い他者に対して情報を探索するネットワーキング行動が,消費者イノベーションの発生可能性に負の影響を与えつつも,消費者イノベーションが新機能を持つ可能性には正の影響を与えることが見出されている(Honjo, 2016b)。一方で,消費者イノベーションと関係付けられるリードユーザーネスと発見行動の関係は明らかになっていない。ネットワーキングのリードユーザーネスへの影響は以下のように想定される。幅広い情報収集は,トレンドについての認識を最先端のものに近づけると考えられる。一方で,幅広く情報を収集することで他者による解決がもたらされる可能性が高まり,自らがニーズを解決する必要性は低まると考えられる。よって,以下の仮説を設定した:

▶ H5.ネットワーキングは先進性に正の影響を与える。

▶ H6.ネットワーキングは高便益期待に負の影響を与える。

III. 方法

1. 調査の概要

日本において消費者イノベーターの人口に占める割合は,3.7%である(Ogawa & Pongtanalert, 2011; von Hippel, Ogawa, & de Jong, 2011)。本研究では,消費者イノベーションの実現可能性に対するリードユーザーネスの影響を調べるため,大きなサンプル数が必要となる。そこで,インターネットによるアンケート調査を行った。調査は,株式会社マクロミルのサービスを利用して行い,「総務省統計局平成22年度国勢調査結果」に基づいた人口構成比に合わせて,性別・年代・地域別の96セル(男女×15才~24才,25才~34才,35才~44才,45才~54才,55才~64才,65才以上の6年代×北海道,東北,関東,中部,近畿,中国,四国,九州・沖縄の8地域)の割り付けを行った。5,000サンプルの回収を目標として42,937サンプルに配信し,5,195サンプルを回収した。データクレンジングを通過した有効回答は5,155サンプルであった。調査期間は2015年12月4日から8日であった。サンプルの人口分布は,年齢,性別,居住地域の比率が日本の人口と一致していることから,一般性と代表性を持つといえる。

消費者イノベーターは,Ogawa and Pongtanalert(2011)に従い,標準化されたスクリーニング条件により抽出した。まず,過去3年間に製品改良,製品創造を行ったことがあるかどうかをそれぞれ尋ねた上で,経験があるとした回答者に対して,最新の事例の具体的内容の報告を自由記述形式で求めた。これらの中で「自分より先に行った人を知らない」「仕事のために行ったのではない」という条件を満たし,なおかつ,機能・性能の条件として「新しい機能を含んでいる」「既存の製品・サービスよりも10%以上性能が優れている」のいずれかを満たしたものを消費者イノベーションとした。さらに自由記述形式で報告されたイノベーションの具体的内容を確認し,問題解決に関わらないものを消費者イノベーションから除外した。その結果,製品改良を行った120名,製品創造を行った57名が抽出された。そのうち19名は製品改良と製品創造の両方を行っており,消費者イノベーターの合計は158名であった。

2. 尺度の構成

リードユーザーネスのうち先進性はFranke and Shah(2003)の5項目を,高便益期待はFranke et al.(2006)の6項目を,発見行動尺度はDyer et al.(2008)の質問(6項目),観察(4項目),実験(5項目),ネットワーキング(4項目)を採用し,リッカート7件法による質問を行った。まず探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行い,因子負荷量の基準0.40,共通性の基準0.40を満たさない先進性の「私はメーカーのために新製品の試作品をテスト使用したことがある」,実験の「私は物を分解した経験がある」を削除した。次に6因子のそれぞれに対して1因子を想定した確認的因子分析を行ったところ,質問についてGFIが0.87と0.90未満となったので「私はいつも質問をしている」を削除した。さらに,先進性と高便益期待に対し2因子を想定した確認的因子分析を行ったところGFIが0.89となったため,先進性の「私は既存製品を改良しようとしたことがある」,高便益期待の「私は市販の製品では対応できない問題に見舞われることがよくある」を削除した。そして,発見行動尺度に対して4因子を想定した確認的因子分析を行ったところ十分な適合度が得られたので,リードユーザーネス2因子と発見行動尺度4因子の6因子を想定した確認的因子分析を行ったところ,充分な適合度が得られた(GFI=0.91; IFI=0.95; CFI=0.95; chi-square=5523.79 (df=260); RMSEA=0.06; SRMR=0.05)。

妥当性は,以下のように確認された。まず,すべての項目の因子負荷量が有意であること(p<0.001),負荷量が最低の高便益期待「既存製品では解決できていな問題を抱えている」が0.69と基準値の0.50を越えているだけではなく,それ以外の項目については理想値の0.70を越えていたことが確認された(Hair, Black, Babin, & Anderson, 2010)。収束妥当性については,AVE(Average Variance Extracted,平均分散抽出)が先進性0.64,高便益期待0.60,質問0.68,観察が0.78,実験0.77,ネットワーキング0.76と,全て基準値の0.50を超えていたことで確認された(Fornell & Larcker, 1981)。弁別妥当性については,それぞれの構成概念のAVEが構成概念間の相関係数の平方を上回っていることで確認された(Fornell & Larcker, 1981)。

信頼性は,クロンバックの信頼性係数α,およびCR(Composite Reliability,合成信頼性)の両方を調べることによって確認された。αは先進性0.84,高便益期待0.88,質問0.91,観察0.93,実験0.93,ネットワーキング0.92と,全て基準値の0.70を超えていた(Nunnally, 1978)。CRは先進性0.84,高便益期待0.88,質問0.91,観察0.93,実験0.93,ネットワーキング0.93と,全て基準値の0.60を超えていた(Bagozzi & Yi, 1988)。質問項目と因子負荷量は表1の通り,α,CR,AVE,相関係数は表2の通りであった。αの値がそれぞれ十分大きな値を取っていたことにより,以下ではそれぞれの項目の平均値を下位尺度として用いることとした。

表1

構成概念一覧

*** p<.001

表2

信頼性と妥当性

IV. 結果

1. リードユーザーネスの消費者イノベーションへの影響

リードユーザーネスが消費者イノベーションに及ぼす効果について仮説H1~H4を検証するため,製品改良と製品創造のそれぞれを目的変数(起こした:1,起こしていない:0)としたロジスティック回帰分析を行い,先進性と高便益期待それぞれの影響を調べた。性別,年齢,個人年収をコントロール変数として用いた。個人年収をコントロール変数に含めたのは,イノベーションの実現には,そのための支出が必要だと考えられるからである。

結果は表3の通りであった。製品改良に対し,先進性と高便益期待の効果はそれぞれ5%水準および0.1%水準で有意であり,推定値はそれぞれ0.18,0.67と正の値を示した。つまり,H1,H2が支持された。製品創造に対しては,先進性の効果は有意ではない一方,高便益期待の効果は0.1%水準で有意かつ推定値が0.73と正の値を示した。先進性についてのH3が棄却された一方,H4が支持された。まとめると以下の通りであった:

表3

製品改良および製品創造の発生可能性

+ p<.10, * p<.05, ** p<.01, *** p<.001

▶ H1.先進性は製品改良の発生可能性に正の影響を与える。→支持

▶ H2.高便益期待は製品改良の発生可能性に正の影響を与える。→支持

▶ H3.先進性は製品創造の発生可能性に正の影響を与える。→棄却

▶ H4.高便益期待は製品創造の発生可能性に正の影響を与える。→支持

2. 発見行動のリードユーザーネスへの影響

リードユーザーネスの先行要因として発見行動が及ぼす効果について仮説H5,H6を検証するため,質問,観察,実験,ネットワーキングの4因子がそれぞれ先進性と高便益期待に与える影響を構造方程式モデリング(SEM)によって調べた。高便益期待の元々の定義は,先進性によって捉えられた先進的ニーズを解決することで便益が得られると期待していることであった(von Hippel, 1986)。よって,先進性が高便益期待に影響を及ぼすことを想定してモデルを構築した。

モデルおよび結果は図1の通りであり,充分な適合度が得られた(GFI=0.91; IFI=0.95; CFI=0.95; chi-square=5523.79 (df=260); RMSEA=0.06; SRMR=0.05)。モデルの全てのパスについて係数は有意であり(p<0.001),標準化係数はネットワーキングから先進性へのパスが0.14と正の値を,ネットワーキングから高便益期待へのパスが−0.26と負の値を示した。よって,H5,H6ともに支持された。まとめると以下の通りであった:

図1

発見行動からリードユーザーネスへの影響

▶ H5.ネットワーキングは先進性に正の影響を与える。→支持

▶ H6.ネットワーキングは高便益期待に負の影響を与える。→支持

V. 考察と課題

1. まとめと考察

本研究では,リードユーザーネスの帰結と先行要因について,代表性のあるサンプルに対するサーベイの枠組みで調べた。以下では,本研究の結果が意味する内容について考察し,その学術的意義と実務的意義を述べる。

まず,リードユーザーネスの帰結についてH1,H2,H4が支持されたことにより,製品領域を限定しない状況においてもリードユーザーネスが製品改良および製品創造の発生可能性を説明することが示された。つまり,リードユーザーネスは一般的な状況でも消費者イノベーションの発生可能性に対して説明力を持つ。ただし,先進性から製品創造への影響に関するH3は棄却された。このことは,先進性と高便益期待の及ぼす効果が異なることを示している。リードユーザーネスに関するほとんどの先行研究では先進性と高便益期待の両者が合算されていたことから,こうした区別は見過ごされてきたといえる。

また,リードユーザーネスの先行要因についてH5,H6が支持されたことにより,幅広い他者に対して情報を探索するネットワーキング行動が,先進性に対しては正の影響を持ちつつも,高便益期待に対しては負の影響を持つことが示された。このことは,先進性と高便益期待の違いを先行要因から説明する。また,ネットワーキングが,消費者イノベーションの発生可能性には負の影響を与えつつも,消費者イノベーションが新機能を持つ可能性には正の影響を与えるという先行研究(Honjo, 2016b)についても,以下の解釈を示唆する。まず,ネットワーキングは高便益期待にマイナスの影響を及ぼすため,自らが消費者イノベーションを実現する必要性を下げる。一方で,先進性にはプラスの影響を及ぼすため,実現した消費者イノベーションは新しいものになりやす‍い。

2. 学術的意義

本研究の学術的貢献は,リードユーザーネスが特定の製品領域に限定されない一般的な状況においても消費者イノベーションに対する説明力を持つことを示したことである。リードユーザーネスに対しては,内的統制,革新性,発散的思考といった製品領域に限定されない先行要因が影響を与えることが知られていた。よってリードユーザーネス自体を製品領域に限定されない状況で測定することは,自然な試みであったといえる。また,これまで見出されていた先進性と高便益期待の違いは,発生した消費者イノベーションの市場性への影響の有無についてのみしか知られていなかった。製品創造に対する影響という新たな違いを見出したことにも学術的意義がある。また,これまで先行要因として調べられていなかった行動レベルの先行要因がリードユーザーネスに影響を与えることを示したことも,学術的貢献といえる。

3. 実務的意義

実務的貢献としては,リードユーザーネスを一般的な状況で捉えたことにより,スタートアップ企業の顧客開発モデルに対して新たな根拠を与えたことが挙げられる。リードユーザーネスが製品領域を限定した状況でしか測定できないならば,未だ存在しない製品領域についてリードユーザーを探すことに根拠が認められないことになる。本研究は,このギャップを埋める役割を果たしたといえる。また,リードユーザーネスの先行要因を行動レベルで捉えたことにより,リードユーザーの探索が容易になることが挙げられる。態度や認知的スキルではなく行動パターンで特徴付けられるならば,質問票を用いずに観察によって客観的に捉えることも可能であろう。また,自分や他者に行動パターンの実行を促すことで,リードユーザーの育成という新たな道も拓かれていくと考えられる。

4. 課題と展望

ただし,本研究には限界がある。まず,リードユーザーネスを一般的な状況で捉えたとはいえ,全ての製品領域に通用する普遍的な尺度が開発されたわけではないことが挙げられる。製品領域に限定されない状況で研究が行われたとはいえ,先行研究から採用した先進性と高便益期待の項目には,日常使う商品という形で使用場面の限定が残っている。よって,特定の製品領域に関するコミュニティにおける従来の研究より広い適用範囲を持っているとはいえ,普遍的な尺度として成立しているわけではない。リードユーザーネスが普遍的な尺度として成立するかどうかについては,体系的な尺度開発の手続きに沿った研究が必要であろう。また,本研究でリードユーザーネスの帰結として調べたのは,消費者イノベーションの発生可能性のみであった。先行研究においては,消費者イノベーションの市場性(Franke et al., 2006),製品の早期採用行動(Schreier & Prügl, 2008),オピニオンリーダーシップとオピニオンシーキング(Schreier et al., 2007)に対するリードユーザーネスの影響が調べられている。また先行要因についても本研究の枠組みで内的統制のローカス・オブ・コントロール,革新性,発散的思考との関係を調べることはできていない。これらの特定の製品領域に関するコミュニティで見出された結果が,先進性と高便益期待の弁別を維持した上で,どのように一般化されるかを調べることは,リードユーザーである消費者がどのような特徴を持つかの理解につながり,消費者行動研究の発展に寄与すると考えられる。また,本研究では物理的な製品についてリードユーザーの特徴を調べている。物理的な製品に特化してリードユーザーの特徴を調べることは先行研究の流れに沿ったものであるが,より一般的な理解を目指すならば,サービスを含めた新しい価値提供を念頭にリードユーザーの行動を研究していくべきであろう。現在では消費者は商品,サービスの一方的な受け手としてではなく,様々な役割を果たすようになってきている。この傾向は,今後,3Dプリンタなどの制作技術がより発展・普及した場合,さらに強まっていくと予想される。そうした状況でリードユーザーについての理解を深めることで新しい消費者像を明らかにすることは,より重要となっていくと思われる。これらについては,今後の課題としたい。

謝辞

本研究はJSPS科研費JP18K12878の助成を受けて進められた。実施にあたり,株式会社マクロミルの中野崇氏,花立沙代子氏からデータの提供をいただいた。また,西川英彦氏から貴重なご助言を,マーケティングレビューのシニアエディター,マーケティングカンファレンス2019オーラルペーパー査読者からは改稿のための貴重なコメントをいただいた。ここに記して感謝したい。

References
 
© 2020 The Author(s).
feedback
Top