マーケティングレビュー
Online ISSN : 2435-0443
査読論文
対立ロジックの協調による消費実践の脱スティグマ化
― 「婚活」ブームを事例として ―
織田 由美子
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2020 年 1 巻 1 号 p. 85-93

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Abstract

本稿の目的は,負のイメージを付与された消費様式が人々に受け入れられるようになるプロセスを脱スティグマ化として捉え,その際に創発される多様な意味間の関係性について明らかにすることである。理論枠組みとして,制度論における制度ロジックという概念を用いる。具体的には,2008年以降ブームとなった「婚活」の事例研究に基づき,多様なロジックの発展プロセスと,ロジック間の関係性について,過去29年間の新聞記事のテキストマイニングにより明確化する。市場創造に関するこれまでの研究において,企業のマーケティングは多様なロジックが創造される中で棲み分けを行ったり,差別化を行ったりすることが明らかにされた。これに対し,本研究は多様なロジックが補完し合うことで,大規模な普及につながる可能性について示唆する。

Translated Abstract

The purpose of this study was to explore the relationship between the conflicting logics that are created in the process of legitimatizing stigmatized practice, by using the theoretical lens of institutional logic in institutional theory. Specifically, the author analyzed the case of Japanese marriage hunting ‘konkatsu’ which has been booming since 2008. Through text analysis of newspaper articles from the past 29 years, the development process of multiple logics and the relationship between conflicting logics were clarified. The extant literature has shown that companies try to de-couple or differentiate the different logics in the process of market creation. This study, on the other hand, suggests that multiple logics even conflicting logic, can complement each other and result in rather large-scale diffusion.

I. はじめに

本論文の目的は,スティグマ化された消費様式が,人々に受け入れられるようになるプロセスを制度論の理論枠組みを用いて明らかにすることである。特に,消費を促進するために創造される多様な意味,即ち制度ロジックがどのように影響を与え合うのか,に焦点を当てる。具体的には,「婚活」に関わる脱スティグマ化のプロセスについて,多様な意味がどのように創出され,受け入れられていくのかについて明らかにする。

スティグマとは,「それをもっていると否定的な意味で普通でないと見なされてしまう,ないしみなされてしまいうる徴」(Goffman, 1963)のことである。Goffman(1963)はこうした概念が,個人の「属性」ではなく「関係」のなかで社会的に構築されることを強調した。つまり,スティグマは個人の「属性」として普遍的に存在するのではなく,共通の社会規範を遂行している相互行為のなかから生み出されるものなのである。このように考えると,ある属性や行為は文化や(Shin, Dovidio, & Napier, 2013),地域(Swank, Fahs, & Frost, 2013)等によって,スティグマになる場合もあれば,そうでない場合もあることがわかる。スティグマは変化することもある(Phelan, Link, Stueve, & Pescosolido, 2000)。男性が家事や育児に従事することは,伝統的価値観における父親像とは反するものであった(Coskuner-Balli & Thompson, 2013)。しかし「イクメン」ということばが普及する中,現在ではかつての否定的イメージは変化しつつある(Mizukoshi & Kohlbacher, 2015)。これ以外にも,スティグマはギャンブル(Humphreys, 2010),タバコ(Smith & Malone, 2003),武器の製造(Vergne, 2012),LGBT(Hudson & Okhuysen, 2009),ナイトクラブ(Goulding, Shankar, Elliot & Canniford, 2009)など様々な市場や実践において見受けられる。

脱スティグマ化に関するこれまでの研究は,スティグマ化された実践に内包された否定的な意味を置き換えたり(Humphreys, 2010),肯定的な意味を持つカテゴリーと統合したり(Jensen, 2010),新たな意味を創造したり(Sandikci & Ger, 2010)するプロセスとして明らかにされてきた。このようなプロセスにおいて,商品や実践が持つネガティブな意味は,最終的に優先的な意味に収束することを前提とされた。複数の意味が存在する場合においても,異なる意味間で棲み分けを行ったり(Scaraboto & Fischer, 2013),差別化したりする(Ertimur & Coskuner-Balli, 2015)ことで,優位性を図ろうとする取り組みが明らかにされた。しかしながらこのような視点は,多様な意味の協調や補完により,市場化が促進するという視点を欠いている。そこで本稿では,制度論における制度ロジックという概念を用いることで上述の課題を解決することを試みる。

II. 先行研究

1. スティグマの変化

Goffman(1963)の定義によれば,スティグマとは,「正常」から逸脱していると社会から評価されている属性のことであり,社会的に構成され,「好ましくない差異」として取り扱われる社会的意味付けである。以降では,スティグマの変化に関する先行研究を,4つに分類した上で説明する。

1つ目は,スティグマ化された実践に付与された「意味の置き換え」である。例えばHumphreys(2010)は,社会運動論におけるフレーミング(Benford & Snow, 2000)の概念に依拠し,カジノ業界の脱スティグマ化において,ギャンブルという否定的な意味が,リゾートとして再定義され,置き換えられるプロセスを明らかにした。2つ目は「意味の統合」である。これは,スティグマ化されたカテゴリーを,異なるカテゴリーと統合することにより脱スティグマ化を測るケースである。Jensen(2010)は,デンマークのポルノ業界において,ポルノとコメディを統合し,Bedside/Zodiacという新たなカテゴリーを創造することで,人々に受け入れられていくプロセスを明らかにした。3つ目は「意味の切り離し」である。トルコにおけるヴェールの脱スティグマ化についての研究を行ったSandikci and Ger(2010)は,新自由主義により勃興した中産階級の女性が,伝統的なスタイルのヴェールをスティグマ化する(切り離す)ことで,自身の脱スティグマ化を測ったことを明らかにした。最後は「対立する意味の闘争」である。Giesler(2012)は,アクターネットワーク理論に基づき,シワを取る技術として導入されたボトックスの脱スティグマ化を,技術愛好者と技術嫌悪者との対立として捉え,こうしたドッペルゲンガーのイメージに対して次々と策を講じる中で,脱スティグマ化が実現されていくことを解明している。

これらの研究は,脱スティグマ化において,多様な意味が創造されたり,異なる意味同士の対立や矛盾が生じることは明らかにしているが,多様な意味がどのように共存したり,協調したりするのかについては明らかにしない。この点を明確にする上で,本研究は組織研究における制度論(Ertimur & Coskuner-Balli, 2015; Humphreys, 2010)の理論枠組みを活用する。なぜなら,脱スティグマ化とは,社会において何をスティグマとするかについての判断基準の変化を反映するのであり,故に社会全体としてのものの見方がどのように変化するのかをみていくことである。そして,こうした社会的に共有される意味の変化に関する研究成果を蓄積してきたのが,制度論だからである。

2. 制度論と制度ロジック

制度論とは,制度と呼ばれる社会的な構造の発展,修復,維持を理解するためのフレームワークである。制度(例えば会社,学校,教会といった組織や儀式)とは,高次元の頑強性(resilience)を獲得した社会的な構造である(Scott, 1995)。社会的な構造を確立する個々の主体に関する統合された活動(coordinated efforts)を理解することによって,消費様式がどのように正当性を獲得するかを理解することができる。本研究では,制度論の中でも制度に内在する意味に着目した概念として,制度ロジック(Thornton, Ocasio, & Lounsbury, 2012)という概念に着目をする。

制度ロジックとは,「人々や組織の思考や意思決定,行動を方向付けたり,制約したりする象徴的,実質的な原則」(Thornton et al., 2012)のことを指す。制度ロジックは,マーケティングや消費研究において,市場創造のプロセスを明らかにする上で導入されてきた。例えば,Dolbec and Fischer(2015)は,ファッション業界において,アートとビジネスというロジックに加えて,手頃な価格と着やすさといった「アクセシビリティ」ロジックが加わることで市場創造が起こることを明らかにした。また,Ertimur and Coskuner-Balli(2015)は,ヨガ市場が,スピリチュアルなものから,医療,健康,ビジネスと多様な文脈で発展していく過程において,矛盾するロジックをどのようにポジショニングしたのかを明らかにした。これらの研究は,多様なロジックの対立や矛盾の解決方法について明らかにする一方で,複数のロジック間の共存や協調による市場創造については明らかにしない。そこで本研究では,このようなロジック間の関連性という側面について明らかにすることを試みる。

III. データと分析手法

すでに述べた通り,本研究の目的は脱スティグマ化において創造される多様な意味の関係性について,制度論における制度ロジックの概念を用いて明らかにすることである。この点を明らかにする上で,2008年以降に広まった「婚活」を取り上げる。「婚活」ということばは,2007年11月,社会学者山田昌弘とジャーナリスト白河桃子が雑誌『AERA』の中で提唱したことばである。「婚活」は「結婚活動」の略語であり,「よりよい結婚を目指して,合コンや見合い,自分磨きなど,積極的に行動する活動を称して」名付けられた(Yamada & Shirakawa, 2008)。

「婚活」ブーム以前,結婚相手を積極的に探すための活動は,「自分で結婚相手を見つけられない人」という見方が未婚者の84%にのぼっていた(Ministry of Economy, Trade and Industry, 2006)。しかしながら,ことばの発生以降こうしたサービスの利用者は急増し,「婚活」サービスを活用して結婚した人の割合も,過去10年で2.9%から12.7%(Recruit marketing partners, 2018)まで増加した。このような変化は結婚情報サービスといった民間事業者のみならず,NPOや地方自治体といった多様なプレイヤーの参入につながった。「婚活」の普及プロセスにおいて,多様なプレイヤーが参入したという事実は,その過程おいて異なるロジックが創出されたことが想定され,本研究の問題意識と合致する。

以降では,「婚活」の意味の変化について,社会的に共有されると思われる言説の変化を見ていく。その際,新聞記事の言説を社会や文化を移す鏡(Matsui, 2013; Mizukoshi & Florian, 2015)として捉え,変化のプロセスを確認する。具体的には『朝日新聞』と『読売新聞』について,「婚活」に関連するキーワード検索を行い,合計4,646件を分析対象とした1)。記事数の年次推移は表1の通りである。

表1

記事件数の推移(単位:件数)

さらに,重大な出来事(Hoffman, 1999)に基づいて,分析期間を4つの時期に分類した。第I期(1987~1992)は,結婚相談所創成期である。第II期(1993~2002)は結婚相談所が衰退した時期,第III期(2003~2007)は,結婚支援策が国の少子化対策として注目された時期である。第IV期(2008~2015)は「婚活」ブーム以降である。以下では,上記データを活用し,感情分析とテーマ分析を行う。

感情分析は,感情における変化をより体系化された形で時系列に整理できる(Humphreys, 2010)。Takamura, Inui, and Okumura(2005)の「単語感情極性対応表」を基に,単語データを「ポジティブ」,「ネガティブ」,「ニュートラル」と3つに分類し,その推移を確認した。テーマ分析では,先行研究を踏まえ「婚活」に関するロジックを抽出し,コーディングを行った(Belk, 1992; Katz, 2001)。コーディングの際は,各セグメントから200サンプルを抽出し,合計800記事を読み込んだ。筆者を含めた3名が,各ロジックに含まれる単語の確認を行った。3人のうち2人が当該カテゴリーに含まれると判断した場合には残し,含まれないと判断した単語は除くというルールに基づいて行った。表2は,各ロジックとロジックに含まれる単語の例である。

表2

ロジック辞書と一致度

分析対象となる新聞記事のタイトル及び本文について,形態素解析(morphological analysis)によってキーワードに分解した。その上でRというフリーウェアを用いてテキストマイニングを行った。また,新聞記事と併せて,関連する雑誌や書籍等の二次資料は全て読み込んだ。

IV. ケース:「婚活」

本研究の目的は,「婚活」の脱スティグマ化を,多様なロジックの創造とロジック間の関係性という観点から明らかにすることである。以下ではまず感情分析を行い,言説全体の感性の変化をみることで,脱スティグマ化が起こったことを確認する。その上で変化のプロセスにおける各ロジック別の変化を確認し,最後にロジック間の関係性について見ていく。

1. 感情分析

3は,各期別の感情の推移である。

表3

記事全体に関する感情の推移(単位:割合)

第I期から第III期までは,「ネガティブ」な記事が「ポジティブ」な記事より20%程度高い割合で推移しているが,第IV期になると「ポジティブ」の比率が上昇,「ネガティブ」が減少していることがわかる。記事の内容を確認すると,第III期までは結婚情報サービスの「詐欺」や「悪徳」,または自治体の「結婚難」,「過疎」に関する言説が多く見受けられた。しかしながら,第IV期に入ると「人気」,「ブーム」といったキーワードが上昇し,「ポジティブ」な記事が急増した。新聞の言説を見る限り,「婚活」に関する社会的意味は肯定的なものへと転換,即ち脱スティグマ化が実現されたと言えるだろう。次にこうした変化がどのようなロジックによって生じたのかみていくこととする。

2. 制度ロジックの変化

制度ロジックの変化を見ていく上で,本研究は,正当性や制度ロジックに関する消費研究を参照しつつ(Ertimur & Coskuner-Balli, 2015; Humphreys, 2010),新聞記事やその他の二次資料を読み込みながら,「婚活」の脱スティグマ化に関連したロジックの抽出を行った。最終的に,「ソーシャル」,「ビジネス」,「娯楽」という3つのロジックが抽出された。表4と表5は,各ロジックの推移を,記事全体に占める割合別と,記事の件数別で示している。

表4

ロジックの推移(単位:%)

表5

ロジックの推移(区間別年平均件数)

(1) 「ソーシャル」ロジック

「ソーシャル」ロジックは,実践の普及を社会的善(Thornton et al., 2012)に基づいて後押しする。「婚活」は,少子高齢化という日本の社会問題の解決策としてフレーミング(Benford & Snow, 2000)がなされた。ソーシャルロジックは,第I期の16.4%から第III期には30%近くまで上昇し,その後第IV期も25.7%と高い水準を維持している。

質的調査によれば,結婚支援を社会問題の解決と連結する言説は,第I期から第II期にかけては地方の過疎化といった人口の偏在を対象としていたが,第III期の2003年,「次世代育成支援対策推進法」が成立し,少子化対策に初めて結婚支援が取り込まれた。2013年度補正予算では,結婚に向けた情報提供や相談体制に30.1億円が可決され,各自治体には,結婚支援に対する組織的な体制を固める動きも現れた。「縁結び課」や「婚活支援課」といった専任部門が設置され,継続的に支援していく制度が整ったのである。

社会問題化されたことで予算や組織といった物理的資源の投入が決定され,資源を活用した様々な取組や体制が展開されるようになると,資源の動きに併せた言説が趨勢となり,支援に向けた体制は確立され,普及していった(Sewell, 1992)。このようにして,負のイメージが強かった結婚情報サービスは,国の少子化支援の一旦を担う「ソーシャル」な存在へと変化した。

(2) ビジネス

「ビジネス」ロジックは,利潤の追求や顧客ニーズ(Thornton et al., 2012)といった「婚活」の事業性に関する言説である。「ビジネス」は,記事の割合では,大きく変化しないものの,件数ベースでは,第III期で年間37件,第IV期は53件と高くなっている。特に第IV期の「婚活」ブームでは,多様な主体の関心事となり,「商工会議所」,「農業団体」,「お寺」,「旅行代理店」,といった様々な業界,団体がサービスを提供した。このように,多様なプレイヤーが「婚活」ということばを活用し始めるといった同型化(DiMaggio & Powell, 1983; Matsui, 2013)が脱スティグマ化に与えた影響は2つある。

1つは,「婚活」を用いたビジネスロジックの拡散により,「婚活」者の増加という神話を作り上げることに寄与しうるという点である(Humphreys & Thompson, 2014)。関連ビジネスの市場規模についての客観的な数字は,ほとんど存在しないにもかかわらず,こうした言説が「人気」,「流行」といったことばとともに伝えられたことは,「婚活」の普及を社会的に認識させることに寄与したと言える。

もう1つは,上述のような業界を跨いだ同型化が,カテゴリー間の境界を曖昧にするという点である。結婚を目的とした活動は,相談所であれ,カフェであれ,パーティであれ,全て「婚活」ということばで一括りにされた。これにより,スティグマを付与されていた結婚情報サービスは,他の正当化された業界と認知的に統合され,脱スティグマ化につながった可能性が示唆される(Jensen, 2010)。

(3) 娯楽

「娯楽」ロジックは,イベントやパーティなど,「婚活」を楽しむものとして捉える(Humphreys, 2010)言説である。このロジックは,ビジネスとの関連が高いが,国や自治体など,公共の支援としても提供されるようになったため,「娯楽」として切り出した。記事の推移をみると,第I期から30%と高く,以降徐々に高まって第IV期には40%近く,件数でも約70件まで上昇している。ビジネスロジックでも整理した通り,娯楽はビジネスや公共といった枠を超えて業界横断的かつ多様なサービスとして提供された。こうした変化が脱スティグマ化に与える影響は,2つある。

1つは,こうした同型化による認知的結合(Jensen, 2010)が娯楽という領域において起こったことで,消費者の抵抗感が軽減されたことである。イベントへの参加は,配偶者探しという神聖なる活動が,日常的な娯楽の一環として提供されたことで,利用者にとっての抵抗感は下がると想定される。

もう1つは,「娯楽」ロジックにおける集団性である。配偶者探しというプライベートな行為が,集団で楽しむ集合行為に変わったことは,活動自体がニュース素材として取り上げやすく,絵になりやすいという点である(Humphreys & Thompson, 2014)。イベントやパーティに多くの若者が集い,楽しむ姿は,「婚活」の正当性を視覚的に後押ししたといえる。

3. 制度ロジック間の関係性

ここからは,各ロジック間の関係性についてみていく。ロジック間の関係性を明らかにするために,ロジックと感情の相関を確認した。下記では,分析結果を第I期から第III期と第IV期で比較した。図1は,各ロジックについて,要素間の相関性と各要素の感性を示したものである。

図1

ロジック間の相関と感性

第I期から第III期において,「ビジネス」はネガティブな言説に支えられており,「娯楽」とも負の相関を示していた。一方,第IV期には,全てのロジックの感性がポジティブとなり,テーマ間の相関も高くなった。これは,各ロジックが相互に活用されたことを意味する。「ビジネス」の目的が「社会問題」の解決として語られたり,「社会問題」の解決のために「娯楽」イベントが実施されたりと,主体の違いを超えて,異なるロジックを相互に活用し合うといった状況が発生したのである。

人気ゲームのモンスターハンターを出すカプコン(大阪市)が,東京のイベント企画会社「リンクバル」と出会いイベントを開催。(途中略)少子化を防ぐためにも出会いの場の提供は必要だが,行政に頼らず民間のノウハウを生かした方がうまくいきそうだ(『朝日新聞』2015年11月13日号朝刊)

このように,「婚活」は,目的の異なるロジックを補完し合うことで,多様な主体を巻き込んだ大規模現象となり,脱スティグマ化されたと考えられる。

V. 結論とディスカッション

本論文では,脱スティグマ化のプロセスを検討する上で,多様なロジックによる意味の創発とロジック間の関係性に着目した。分析結果から明らかになったことは,変化のプロセスにおいて,多様なロジックが肯定的な意味に転換され,実践の事業性のみならず,社会性,娯楽性といった多様なロジックによる正当化が図られたことである。このことは,利用者のみならず,企業や行政など,多様な主体を巻き込むことに寄与した。また,異なるロジックが主体の違いを超えて相互に補完し合うことで,普及を促進することも明らかにした。例えば「ビジネス」ロジックは,少子化対策に必要という「ソーシャル」ロジックに支えられることで,社会的な要請という文脈の中で事業の正当性を確保することができた。また,「ソーシャル」ロジックが,「娯楽」ロジックに支えられることで,社会的必要性のみならず,利用者自身の「楽しさ」という観点からも活動を後押しした。

理論的貢献について,脱スティグマ化に関するこれまでの研究は,多様なロジックの創造(Humphreys, 2010)やロジックの統合(Jensen, 2010),またはロジック間の対立(Giesler, 2012)については明らかにしてきた。これに対し,本研究は目的の異なるロジック同士が,むしろ補完し合うことで普及を促進するプロセスを提示することで,制度ロジックの多元性(Besharov & Smith, 2014)に関する新たな知見を提供した。

実務的貢献について,本研究は,商品のイメージ転換を図る上で,利用者自身に対するマーケティングのみならず,社会全体の認識を変化させることの必要性を示唆する。また,異なるロジックの相互補完的な関係性が,むしろ普及を促進する可能性についても明らかにした。この点についても,矛盾,または対立するロジックを切り離すのではなく,いかに補完しあえるかといった観点からマーケティングを行ったり,アライアンスを検討したりする上で応用できると考える。

最後に本研究の限界については,単一事例による一般化の問題に加え,社会を移す鏡としての新聞の妥当性についても問題が残される。記事のテキストマイニングという手法は,メディアの言説を体系的に捉え,時間軸で区切る等の分析を行う上では有用である。しかし,メディアの言説と世論との関係について,特に若い世代においてネットメディアの視聴が増えてきた昨今において,新聞メディアの影響力をどのように捉えるかについては今後議論の余地があると思われる。

1)  「婚活」に関連することばとして,「婚活」,「結婚相談所」,「結婚情報サービス」,「結婚相手紹介」,「結婚紹介」,「結婚斡旋」,「結婚支援」というキーワードで検索し,6,609件を抽出した。全ての記事を確認した上で,「婚活」にそぐわないものは全て排除した。最終的に合計4,646件を分析対象とした。

References
 
© 2020 The Author(s).
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