2022 年 3 巻 1 号 p. 12-19
消費者個人が携帯端末上のサービスを利用することに伴って発生するパーソナルデータの多様化に伴い,企業によるデータ取得と乱用が問題化する中,両者を仲介し問題解決を目指す仕組みとして情報信託制度の検討・整備が進められている。本研究はこの制度について取り上げ,それが消費者にどのように認知され受容されるのか,そして問題解決となるのかを,制度的課題は何かという視点から明らかにする。価値共創の視点を取り入れた調査結果をもとに,現行の制度がコミュニケーションを視野に入れていない一方通行の仕組みであることの問題点を指摘した。本研究の調査結果に基づくならば双方向の形にするとともに,消費者(顧客)と企業による価値共創的な仕組みにすべきであるという結論を示した。
With the diversification of personal data generated through the use of services on mobile terminals by individual consumers, the acquisition and abuse of data by companies have become a problem. The government is considering and developing an information trust system to mediate between companies and consumers to solve the problem. This study focuses on the development of this system and aims to show institutional issues by clarifying how consumers perceive and accept it, and whether it solves the problem. Based on the survey results, which incorporated the perspective of value co-creation, we found that the current system is a one-way system that does not consider two-way communication with the consumers. Based on the findings, we conclude that this system should be pursued in an interactive manner, in the form of a value co-creation mechanism between individual consumers (customers) and the companies.
情報社会の進展に伴い,ネットショップやSNSなど消費者個人が携帯端末上のサービスを利用することに伴って発生する,パーソナルデータがますます多様となっている。購買履歴や運動履歴,位置情報など,パーソナルデータは個人に関する情報(Ito, 2017)であり,多くの場合無料で提供されるネット上のサービス利用を通じて企業側に取得されている。
1. パーソナルデータの利活用をめぐる問題これら多くの消費者から収集されたデータの利活用をめぐり,企業においては非常に大きなメリットを得られる可能性に注目が集まっている。より正確な売上や在庫などの予測分析が可能となる(Inoue, 2014),価値の高い商品やサービスを生み出す(Kawashima & Kamimura, 2018)ことにつながると期待されている他,より広く社会全体での共有・活用も目指されている。
一方で,消費者の側は利便性の高いサービスを無料で利用できるという恩恵を受けている側面があるものの,パーソナルデータの提供先や提供方法を自身ではコントロールできない状況に置かれている。どのタイミングでどのようなデータが取得されているのか,一度企業側に渡った自身のデータがどのように管理・活用されるのかを把握することは難しく(Ito, 2017),個人情報の流出やプライバシー侵害のリスク(Yamaguchi et al., 2020)にもさらされている。
このような状況のもとで企業によるパーソナルデータの一方的な取得と乱用が国際的に問題となる中,各国において法律・制度の整備が進められている。例えばEUでは消費者情報保護の観点から,2018年5月にGDPR(EU一般データ保護規則)が施行された。一方,我が国においては,むしろ消費者(顧客)が情報を信託するという制度が提示されている。
2. 情報信託制度・情報銀行情報信託制度とは情報銀行1)とも呼ばれ,パーソナルデータの提供者である消費者個人とデータを取得・利用する側の企業とを仲介することにより,パーソナルデータの利活用をめぐる問題を解決し,データ流通と利活用を促進する(Yamaguchi et al., 2020)ことを目指す仕組みである。パーソナルデータの主体は消費者個人であることを前提とし,本人の意向を踏まえたデータ流通・活用を行うべくデータは情報銀行へ預託され,その代わり何らかの便益という形で本人に還元される(Cabinet Secretariat, 2019)。総務省,経済産業省など政府組織が中心となった検討が2017年より開始され,制度の設計や実証実験の実施,適正事業者の認定制度が整備されてきた。2021年4月現在,7社に対し認定が決定され,うち2つの情報銀行サービスが提供を開始している(Ministry of Internal Affairs and Communications, 2021)。
情報銀行の普及に向けて,この新しい社会的制度が今後どのように消費者に認知され,受容されていくかには大きな関心が寄せられている。しかし,ネット上での自身の情報開示についての既存研究には蓄積があるものの(Sawada & Igarashi, 2020; Takasaki, 2016ほか),明確に「情報銀行」への消費者の認知・受容に対する実証的調査を行った研究は少数である。また,主には消費者のプライバシー意識との関連に焦点が当たっている。よって本研究では情報信託を消費者がどのように認知し,どのように受容していくかについて明らかにし,それをもとに現時点の情報信託制度の課題を指摘し,今後の発展の方向性について検討することを目的とする。
「情報信託制度・情報銀行」をテーマとした消費者調査について,近年いくつか見られるようになってきている。情報銀行がどのようなものかを理解(概念認知)している人は1割未満である一方で,その内容について具体的な説明を行った上では利用意向が約4割に上ること(Kawashima & Kamimura, 2018; Shoji, 2019)や,データ提供先,データの種類,受けられる対価/便益によって受容性に違いがあることが分かってきている。例えばKawashima and Kamimura(2018)によれば,公共性の高い組織に対してはデータ提供への抵抗が少なく,金銭やポイントといった直接的な便益を示された方が受容されやすいとされる。また,年代や性別,プライバシー意識の高さ,SNSなど既存サービスの利用経験によっても,情報銀行の利用意向の程度に違いが見られることが示されている(Shoji, 2019; Yamaguchi et al., 2020)。
2. マーケティング研究からのアプローチこれまでのマーケティング研究では「パーソナルデータ」という用語こそ使用していないものの,自身の属性情報や好み,アイデアなど,消費者が自身のパーソナルデータに該当する情報を選択的に開示する事例についての研究が存在する。例えば消費者参加型商品開発では,消費者自身が自分の意向に基づいて企業を選択,開発プロジェクトに参加し,消費者と企業の双方向の情報開示のもと協働的に商品開発を行う(Nishikawa, 2020; Shimizu, 2004)。またユーザー・イノベーションでは消費者がイノベーションの「受け手」だけではなく,時には「送り手」としても活動する(Nishikawa, 2017)ことが,アクティブ・コンシューマー(Hamaoka & Tanaka, 2007)の研究においては消費者自身がモノの創造を行い,かつ企業を含めた他者への情報開示とコミュニケーションを行うことが示されている。これらの研究群に共通してあるのは,事前的価値に基づくモノづくりを念頭に置いた上で,(1)消費者を主体的存在として捉え,その能動的な行動に着目していること,(2)消費者が自分の意思で自身に関する情報を選択的に開示し,それをもって企業との協働を行う点である。一方,こうした消費者の主体的・能動的行動,企業との協働について,むしろ,消費・利用段階で新たに生まれる事後的価値の共創を想定し,より包括的な視点と概念構成を持つのが,Grönroosらによる価値共創研究である。
価値共創研究において,顧客(消費者)の役割に対する認識は,複雑な状況(文脈)下で価値を決定し,創造する積極的な主体へとシフトしている(Grönroos, 2006; Grönroos & Ravald, 2011; Vargo & Lusch, 2004)。よって企業のマーケティング活動の焦点は如何にモノを提供するかということから,顧客が如何に企業の提供物を用いて様々な文脈の中で価値創造を行うか,また,企業はそこにどのように関与して顧客と価値共創するかに転換している(Muramatsu, 2017)。
ここまでの先行研究レビューをもとに,情報信託制度に関する既存研究の問題点を指摘し,本研究の研究課題を以下に述べる。まず情報信託制度は,そのベースに「パーソナルデータの主体は消費者である」という前提を持つ。しかし現在の制度の仕組みと関連する既存研究を見る限り,その消費者の主体性は「パーソナルデータを自身でコントロールし,プライバシーを守る」という限定的な範囲でしか捉えられていないのではないか。
一方,マーケティング分野において消費者を主体的・能動的存在としてみなす研究群,中でも価値共創研究における議論を情報信託制度に当てはめれば,第一に消費者は単にパーソナルデータを受動的に提供する主体ではなく,パーソナルデータの創造者である。さらには提供したデータの利活用においても同様に,創造的に活用すること(企業との共創活動)によって,自分の価値を創造することにつながる可能性があると見ることができる。そしてこの視点で調査・分析を行うことによって,既存研究では見落とされてきた情報信託制度の認知・受容の側面の発見と,現制度の問題点を指摘することが可能になると考える。
以上より,本研究の研究課題は「自身のパーソナルデータを扱う主体,さらには価値創造者としての消費者の視点から,日常生活におけるパーソナルデータの取り扱い,情報銀行を経由したパーソナルデータ提供の認知・受容の実態を明らかにすること」にある。本研究課題達成のため,仮設導出を目的とした定性調査(調査1)と仮説検証を目的とした定量調査(調査2)の二つを実施した。
20代~60代の男女11名の消費者を対象に,オンラインでの半構造化インタビュー調査を実施した。調査実施日は2020年9月30日,10月6日,10月7日の計3日間であり,いずれもオンライン会議システムZoomを用いて一人当たり50~60分程度を要した。インタビューにあたっては情報信託制度・情報銀行がどのようなものかを提示した上で,今現在の日常生活における自身のパーソナルデータの取り扱いと情報信託制度についての認知および受容に関する内容を中心に聞き取りを行った。インタビュー調査内容はすべて録画・録音し,テキストデータ化を行った。その後,GTA(グラウンデッドセオリーアプローチ)の分析手法を用いてテキストデータのコーディング作業を行った。
2. 分析結果 (1) 分析結果の概要ここでは,インタビュー調査内容の分析から得られた結果のうち,次の定量調査のための仮説導出に用いられた内容を中心に述べる。まず,心理面(情報銀行を通じて自身のパーソナルデータを企業に提供する動機)からは,以下の3つの動機が見出された。
・非積極的動機:情報提供を通じて自身の価値創造に企業を取り組む意欲はなく,サービス利用の上でパーソナルデータが取得されるのはやむを得ないといった消極的な動機。
・利己的動機:情報提供を通じて自身の価値創造に企業を取り込む意欲があり,自身に便益がもたらされることが主な動機となっている。
・向社会的動機:情報提供を通じて自身の価値創造に企業を取り込む意欲があり,自身だけでなく,他者や社会全体に便益がもたらされることが主な動機となっている。
次に,行動面(情報銀行を通じて企業に提供したパーソナルデータをもとに,どのような行動をとるか)からは,以下の2つの行動が見出された。
・非積極的行動(防御的/やむを得ない):あくまでもポイント等の金銭的見返りやその時に必要な情報を得るためだけに一時的に自身の情報を提供するといった,限定的な行動。
・積極的行動(見返りの明確化に基づく):金銭的見返りや関心ある情報,新たな生活提案が得られるなど,非経済的/経済的な見返りが得られることによってさらに駆動される,積極的な行動。
・価値共創行動(経験):自身が提供したパーソナルデータに基づく企業からの提案をより積極的に生活に取り込む,そうしたインタラクションそのものを楽しむ行動(経験)
また,これらの動機や行動の前提,環境面として「自身のパーソナルデータの提供先としての情報銀行への信頼」が見出された。そしてその信頼は,公平感やデータの提供先,内容,方法を自身で選択する自由があることで構成されていた。
(2) 仮説の導出インタビュー調査内容の分析結果より,各動機・行動間の関連を検討し,以下の仮説を導出した。個人情報を情報銀行に預ける場合,
【仮説1】非積極的動機が強い人ほど,非積極的行動を取りやすい。
【仮説2】利己的動機が強い人ほど,非積極的行動を取りやすい。
【仮説3】向社会的動機が強い人ほど,積極的行動を取りやすい。
【仮説4】価値共創を経験した程度が高いほど,積極的行動を取りやすい。
定性調査の結果から導出した仮説を検証することを目的に,消費者を対象としたアンケート調査を実施した。調査対象者数は312名であり(男女各156名,平均年齢39.72歳(SD=14.11)),15~69歳の各年齢層の回答者数が均等になるように配分されている。実施日は2021年2月19日~22日,オンラインのアンケートフォームを用いて行われた。
2. 質問項目調査票の冒頭で情報信託制度・情報銀行がどのようなものかを提示した後,定性調査から得られた結果をもとに,「環境」「動機」「行動」および「価値共創」に関する以下の質問項目について,「非常にあてはまる」から「まったくあてはまらない」までの5段階での回答を求めた。
環境(インタビュー調査の結果に基づき作成,11項目,α=.83)(統制変数)
「情報銀行なら,個人情報はプライバシーが侵害されない範囲で利用されると思う」「いままで何らかの個人情報を情報銀行に預けた経験があるため,不安を感じない」など。
動機(定性調査の結果に基づき作成,11項目)(独立変数)
因子分析を行った結果,定性調査と一貫した3つの動機が確認された。
・非積極的動機:「自分と同じように個人情報を預けている人がたくさんいるなら,個人情報を情報銀行に預けてもよいと思う」,「個人情報が勝手に使われることがないなら,個人情報を情報銀行に預けてもよいと思う」。
・利己的動機:「ポイントや特典など金銭的見返りがもらえるなら,個人情報を情報銀行に預けてもよいと思う」「見返りとしていろいろなサービスを受けられるなら,個人情報を情報銀行に預けてもよいと思う」。
・向社会的動機:「関心がある情報を提供してくれるなら,個人情報を情報銀行に預けてもよいと思う」「個人情報が活用されることによって,ほかの人の生活をより豊かにする可能性があるなら,個人情報を情報銀行に預けてもよいと思う」など。
価値共創(Ranjan & Read(2016)に基づき作成,20項目,2因子)(独立変数)
・共創活動:「企業が協力関係における私の役割を重視してくれると嬉しい」,「企業が私とのやり取りの機会を充分に設けると嬉しい」など。
・利用価値:「企業が個人情報の分析結果に基づき,生活提案などのアドバイスをしてくれると嬉しい」,「個人情報の預託を通じた消費者の関与は,既存製品の改善や新製品の開発,サービスの改善などを促進することができると思う」など。
行動(定性調査の結果に基づき作成,12項目)(従属変数)
因子分析を行った結果,予測と一貫して2つの行動が見られた。
・非積極的行動:「特に何も考えずに,それに応じて個人情報を預ける」,「見返りとしてポイントや特典がもらえるなら,それに応じて個人情報を預ける」など。
・積極的行動:「自分の個人情報が新製品開発のために活用されるなら,それに応じて個人情報を預ける」,「自分の個人情報がサービス改善のために活用されるなら,それに応じて個人情報を預ける」など。
3. 分析結果仮説1と仮説2を検証するために,非積極的行動を従属変数,動機(非積極的,利己的,向社会的)および価値共創(共創活動および利用価値)を独立変数として重回帰分析を行った。なお,調査対象者が認知する外部要因も非積極的行動に影響する可能性があったため,環境を統制したうえで分析を行った。その結果,非積極的動機には非積極的行動への影響効果が認められず,仮説1は支持されなかった(表1)。一方,利己的動機が非積極的行動を促進することが確認された。そのため,仮説2は支持された。
非積極的行動に影響する要因
** p<.01, * p<.05, † p<.10
出典:筆者作成
次に,仮説3と仮説4を検証するために,積極的行動を従属変数,前述と同様に環境を統制した上で動機および価値共創を独立変数とした重回帰分析を行った。その結果,向社会的動機および価値共創(共創活動および利用価値)に積極的行動への促進効果が認められた。そのため,仮説3および仮説4は支持された(表2)。
積極的行動に影響する要因
** p<.01, * p<.05, † p<.10
出典:筆者作成
調査1および調査2の結果から,情報信託制度に信頼性がある状況のもとでは,ポジティブな反応であった。その信頼性は,公平感やデータの提供先,内容,方法を自身で選択する自由があることによって構成されている。また仮説1は支持されなかったが,消費者の中で非積極的動機と利己的・向社会的動機が同時に存在していることがあり,後者が前者を軽減する効果があると想定できる。
現在検討されている形での情報信託制度が将来普及すると想定する場合,非積極的行動をとる消費者に対しても,情報提供先や提供範囲を自由に選択,決定する権利が確保できると考えられる。また積極的行動(積極的な情報提供や価値創造)をとる消費者は,この権利の確保を前提とした上で,さらにパーソナルデータ開示とともに経済的/非経済的見返りを得ることができ,価値創造への多様な可能性が開けることが期待される。
2. 消費者はどのような条件のもとで情報信託制度を受容するのか?まずパーソナルデータの開示は消費者自身の意志に基づいて行われること。それには個人が情報提供先企業の情報を閲覧できること,さらには明確に意志表明できる仕組みが求められる。次に,安全性・公平性の確保である。個人としての消費者と提供先企業の間の第三者として,中立的な機能を持つことが保証される必要がある。また仮説2および3からは,情報提供の見返り(経済的/非経済的)を獲得できることも,消費者が情報信託制度を受容する条件の一つである可能性が高いと考えられる。加えて仮説4からは,企業との価値共創の経験があることが,情報信託制度の受容を促進することが明らかとなった。
3. 現時点の情報信託制度の課題と発展の方向性現時点の情報信託制度では消費者のパーソナルデータの開示を防御的に捉えており,議論の焦点は主に不安の解消やプライバシーの確保となっている。これは制度検討の過程において消費者側の不安や懸念が今後のデータ流通・利活用を阻害する主要な課題の一つとして位置づけられ(Cabinet Secretariat, 2019),その解消が目指されていることが背景にあると考えられる。一方で,本研究においてはパーソナルデータの開示によって積極的に提供先企業とインタラクティブな関係を構築し,企業を自分の価値創造プロセスに巻き込もうとする消費者の存在を確認することができた。さらにはそうした価値共創の経験を持つことが情報信託制度の受容を促進することも示された。
現在の情報信託制度においては,情報銀行と個人間のインターフェースの設計等の議論が進んでいるが,双方向のコミュニケーションや価値共創を視野に入れていない,つまりこうした積極的な消費者を取り込む形になっていない。本研究の結果からは,情報信託制度を契機に,それが消費者の意志に基づいて企業と価値共創するツールとしても機能し定着する可能性が十分にあると考えられる。それによって消費者の側ではパーソナルデータの提供に基づく価値創造の幅が広がるだろう。また企業の側は提供を受けたデータやインタラクションに基づいた新たなサービス提案を考案でき,他社との競争から抜け出すことが可能となり,またひいては人間を中心としたサービス社会の構築が期待できると考えられる。
まず学術的な貢献として,以下の2点が上げられる。第一に現在のところ研究例の少ない,「情報銀行」への認知と受容をテーマとした消費者対象調査を実施し,この分野に新たな知見を加えた。第二に,情報信託制度はそのベースに「パーソナルデータの主体は消費者である」という理念を持ちながら「データの利活用」における消費者の主体性が考慮されていないことを指摘した上で,価値共創の視点を分析に取り入れ,既存調査では検討されてこなかった,価値共創経験と情報信託制度の受容との関連を明らかにした。
実務的貢献として,まず本研究の調査結果は,現在の情報信託制度の方向性が消費者側の意向に沿っていることの一定の裏付けとなっている。情報信託制度を受容する条件としてパーソナルデータの開示が自身の意志に基づいて行われる,情報提供の見返りを獲得できること等,既存調査で主張されていることであり,本研究においても同様の結果となった。
その一方で,現行の制度がコミュニケーションを視野に入れていない,一方通行の仕組みであることの問題点を指摘した。本研究の調査結果に基づくならば双方向の形にするとともに,消費者(顧客)と企業による価値共創的な仕組みにすべきであるという結論を示した。
2. 本研究の限界・今後の課題本研究で実施した調査は,情報信託制度・情報銀行がどのようなものかを説明した上で実施したが,回答者ごとに異なる解釈をしていた可能性がある。今後デモ画面の提示など,具体的で共通したイメージを持たせる方法を検討する必要がある。また今回の定量分析の範囲は非常に限定的である。年齢や性別といった角度からの分析も行うことで既存研究と比較しながらの分析が可能となり,より詳細を明らかにすることができると考えられる。
本研究は公益財団法人トラスト未来フォーラムの助成を受けたものである。