2014 年 29 巻 6 号 p. 187-210
計量国語学的分析では,文章をいくつかの計量指標に基づき分析する.このような方法は主に,現代語の分析に使われ,著者同定などに成果を挙げている.しかしながらこの方法を古典文学作品に適用する際には,異本の問題が生じる.原本が残っていないことが通例の古典文学作品には異本が多く,これが時には同一著者のものとは思えないほどの文章の相違を伴うからである.本稿では,編集距離とパープレキシティーを用いることで,異本間の関係性を定量的に表す方法の有効性を示す.提案法が従来の計量指標の主成分分析による分類法に比べて,文献学の分野での知見とよりよい一致を示すことを,中古日記文学の代表的な作品である『和泉式部日記』を用いて検証する.さらに同一作品中の異本間の差異が,他作品との差異に比べて十分小さいことを,『更級日記』との比較を通じて示す